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しおりを挟む「で、どっちのコースになりました?」
麗都に問いかけた宇高の顔は、いつもの薄笑い。びしょ濡れで蹲っているテンマを見てもさして驚いた様子が無いのは、彼にとってはこれが珍しくない状況だからだ。とはいえ、これだけ晒し者になっているのは面白いとは思っているのだが。
しかしテンマの方は、宇高の口から出た言葉に戦々恐々だ。もう誰の助け舟も出ない事は嫌というほどわかったが、この先どうなるのか想像がつかないのが怖い。今テンマに出来るのは、複数用意されているらしい未来の中から、麗都が少しでもマシな選択をしてくれるのを祈る事だけだ。
「そうですね…」
宇高の問いに、麗都はちらりとシートを見る。そして表情の無くなってしまった祈里の横に座り、その細い肩を抱いて、耳元で囁いた。
「どうして欲しい?君の恋心と献身を、このままくれてやる?」
「…くれて…やる?」
聞かれて、祈里は天馬と出会ってから今日までを思い返した。主に、この2ヶ月の事を。麗都はきっと、天馬に良いように気持ちを利用された事や、吸い上げられていた金の事を言っているのだろう。2ヶ月間体を酷使して得た、300万円もの金の事を。傷ついた心身は元には戻らないが、せめて金は取り戻すべきとのニュアンスが感じられる。
(…お金…かあ)
どうだろう、と思う。
正直祈里は、まんまと利用された自分にも呆れて腹が立っている。自分が甘かったのだ。ヤリモクのユーザーばかりの出会い系アプリでの出会いなんて、そもそも最初から間違えていたのに。だから、騙された自分も悪かったと思っている。金は…もう良いかとも。けれどここで許してしまったら、きっと天馬は(助かった)と思うだけで、本心から反省などしないだろう。味をしめているから、ほとぼりが冷めたらきっとまたやる。祈里と同じように利用されて金を無心される犠牲者が出る。
祈里はもう、天馬への気持ちなどは無くなった。けれど、反省はして欲しいと思う。そして、もう誰にも自分のような目に遭わせないで欲しい。ならば今、「もういい」というのは最善ではないのだろう。
そう結論づけた祈里は口を開いた。
「くれてやりません。取り返したいです。僕がどんな気持ちで仕事してたか、少しでもわかってもらいたいから」
体を消費される事に慣れてしまっていたけれど、好きになった気持ちまでこんな風に消費されたくはない。自分だけではなく、今も公園や街角に立つたくさんの女の子達にも、そうあって欲しくはないと祈里は思う。
祈里の毅然とした言葉に、麗都は頷いた。
「よく言った。じゃあ、どんな事をしてでも返してもらおう」
この瞬間、テンマの送り先が決定した。
麗都の中では、祈里の返還請求額300万に、祈里の心身のダメージを考慮した慰謝料200も乗せるつもりでいる。その他、麗都がいくつかの闇金から買い取ったテンマの債権250万。恐ろしい事に、テンマには利息すら返さずに放置している返済もあった。闇金業者に借りてそんな事をしていれば、例え借りた金が5万や10万であっても短期間ですぐに膨れ上がる。
その結果としての金額が250万になっていたわけだ。因みにこれはトイチ(10日に1割の利息がつく)だからまだ良い方で、トサン(10日に3割の利息)や、トゴとなればすぐに火だるまになる。
ともあれ、それで750。そして、名前を利用されたY’stへの迷惑料が100。これから送られる先を手配した宇高に対する手数料、50。計900万円がテンマの肩にのしかかる形だ。
本当は、テンマには三本の道が用意されていた。漁船や臓器売買などなどだ。テンマが健康な若い男である事から、漁船が本命視されていた部分もある。だが、祈里が「僕がどんな気持ちで仕事をしていたか知って欲しい」と言った事で、図らずもそれが決定打となり。
テンマはおそらく、本人的には最も最悪のルートに送られる事となった。
知る人ぞ知る、陰ノ浜島。
そこは訳ありの若い男ばかりが集められ、老若男女問わずの客を取らされる売〇島である。
テンマはこれから、年季が明けるまでの数年をその島で過ごす事になる。
待ち受けるのは、宛てがわれる薄暗く狭い部屋の中、尻の穴も性器も、乾く暇も無い日々だ。
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