12 / 22
王様の下僕・春原 駿 3
しおりを挟む香原が俺自身に対してはどのくらいの情を持ってるかは、イマイチよくわからない。
他の連中よりは多少目をかけてはいる、って感じか。
高校時代は片腕としてずっと傍に置かれた。
本格的に家業を継いだら実務面でも俺を自分の下に置くつもりなのは間違い無さそうだ。
大学も、半ば強制的について来いって感じで、学園と系列のエスカレーター校に引っ張られた。
出来れば外部進学して実家に戻ろうと考えてたんだけど、…まあ、香原についてた方が将来的には安泰かなって。つまり、ここでもやっぱり打算だ。
でも香原だって、体だけしか使い途の無いような奴を傍に置くわけないから、多少なりとも俺の能力面も買ってくれてるんだろう。
それが純粋に嬉しかったってのもある。
だからって俺は思い上がりも勘違いもしない。
香原が卒業して離れてからも外部進学した弓月に人を張り付けてるのは知ってる。
相変わらず香原の気持ちは弓月にあるらしい。
どんだけ抱かれようが、どんだけ高い物をくれようが、あちこち旅行や食事に連れて行かれようが、結局は弓月にしてやってるつもりで俺は香原に連れ回されてる訳だから。
まあでも俺だって、香原にはわざわざ言わないけど、他にセフレ抱いてるから 別に、このままの関係でも良いかなあって感じだ。
香原は俺のプライベートには興味が無いからどうせバレないし、バレても気にはしないだろうし、呼び出しに応じて大人しく言う事聞いてりゃお互いwin-winだろうと思ってた。
だけど、ここ最近、香原の様子がおかしい。
イライラしてるようで、スマホを眺めては眉を寄せている。
今の所 仕事関係や大学関係で此奴が煩わされる事なんて早々無いだろうから、弓月関連かな。
今日も、講義の後大学近くのカフェに呼ばれて、飯奢ってくれるんだなって来た迄は良かったが、あからさまにイライラしているから見た瞬間帰りたくなった。が、既にカフェに入ってくる目視されていたので逃げる訳にもいかない。
そもそも呼び出されて来ないという選択肢が無い。
進学した俺の今の衣食住は不思議な事に全て香原に支えられているからだ。
香原的には将来への投資なんだろうか。
それとも身代わり情人を囲っとく為かな。
「どうした?浮かない顔してる。」
座る為に椅子を引きながら問うと、香原はじろりと俺を見た。
「…何でもない。腹は?」
「減ってる。
何でもないって顔でもないだろ。
…ま、言いたくないなら無理には聞かないけど。」
俺は香原に基本的に深入りはしない。
言いたくない事を食い下がって聞いたりはしない。
香原も俺のそういう薄情な所は知っている。
だから聞いて欲しい事がある時や相談事がある時は、こう言ってやれば後は勝手に口を開く。
そして案の定、香原は苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。
「…弓月に、特定の男ができたようだ。Ωらしい。」
「へえ。」
俺の性格を知ったからか、最近はもう 弓月の事を隠そうともしない。
「でも、意外でもないだろ。弓月なら。」
寧ろ今迄フリーだったのが不思議なくらいだ。
αで、更にあれだけの美貌だぞ。
俺なんか、多少似てるったってそれだけ。弓月の方が万人に訴えかける美貌だ。
放置される訳が無い。ネコだけど。
何らかの本人事情でフリーだった可能性はあるだろうが…。
俺は水を持ってきた店員にランチセットにコーヒーを頼んで、香原に向き直った。
「…弓月に、会いに行こうと思ってる。」
「ん?でも、カレシ出来たんだろ?弓月。Ωってのが意外だけど。」
「会いに行けば変わるかもしれない。」
「…馬に蹴られるぞ。」
弓月に恋人が出来たくらいでそんなに焦るなんて珍しい。
学園にいた時だって、アイツは男を取っかえ引っ変えだったじゃないか。
一度付き合ってたのも知ってる。
香原都合で別れたのも知ってる。
その後はもう付け入る隙が無くて、だから俺に目を付けたのも知ってる。
学園を出て、フリーだった今迄は泳がせといて、男が出来た瞬間横槍入れるって、何だ?
そんなに未練があるならさっさと行けば良かったと思うんだが。
それに、弓月は特定の相手とは長くは続かない奴だった。
放っときゃ直ぐ別れるんじゃないのか。
それを全て言うと、黙って聞いていた香原がぼそりと零すように言った。
「今度の相手とは、様子が違うんだ。」
「違う?」
「…弓月が何時になく慎重で…。弓月の方が相手に惚れたのかもしれない。」
「え、マジか。」
学園中のαを使い捨てにしてたお姫様が誰かに惚れる?
そんな事、あるだろうか?
半信半疑で思わず苦笑する。
でも、だからなんだ。
「で、もし本当に弓月がマジなら、香原はどうすんの?」
今迄何も出来なかったお前に、今更何が出来んの?
「…徐々に仕事を任せてもらえるようになった。
弓月に、復縁を申し込むつもりだ。」
「……へえ。」
なるほど。
「で、今度は弓月本人を日陰のオンナにすんのか。
俺みたいに。」
「日陰者って、そんな、」
この国では同性α同士は婚姻関係は結べない。
番は勿論、言わずもがな。
俺を囲ってたって弓月を囲ったって、香原はその内他の相手と結婚するか番を結んで後継を作る事になる筈だ。
それでも本人同士が合意の上、納得してりゃ良いんだろうが…。
親怖さに恋人を手放した臆病者の香原に、もう一度付き合ったからって弓月を守れるような意気地があるとは思えない。
「あの弓月に、せっかくマジになれる男が、しかもΩが現れたんだろ。
番になれるかもしれないチャンス、奪ってやるなよ。」
「…弓月が、Ωを抱ける訳が無い。」
「そんなのは俺も知らねえけどさ。
少なくとも、付き合ってんだろ。」
「…。」
「弓月がガチネコったって、惚れた相手とならわからねえじゃん。」
香原はだんまりを決め込んでしまった。
俺は溜息を吐く。
その時 ランチセットのパスタが運ばれてきて、話を1時中断して俺はフォークを握った。
暫く黙々と食べて、香原は黙ってコーヒーだけ飲んでいた。
そして食事が終わって、運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、俺は言った。
「ま、もし弓月がお前に着いてくるってんなら、俺も晴れてお役御免って事だな。」
香原が目を見開く。
俺はテーブルに1000円札を2枚置いて席を立った。
58
あなたにおすすめの小説
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
事故つがいΩとうなじを噛み続けるαの話。
叶崎みお
BL
噛んでも意味がないのに──。
雪弥はΩだが、ヒート事故によってフェロモンが上手く機能しておらず、発情期もなければ大好きな恋人のαとつがいにもなれない。欠陥品の自分では恋人にふさわしくないのでは、と思い悩むが恋人と別れることもできなくて──
Ωを長年一途に想い続けている年下α × ヒート事故によりフェロモンが上手く機能していないΩの話です。
受けにはヒート事故で一度だけ攻め以外と関係を持った過去があります。(その時の記憶は曖昧で、詳しい描写はありませんが念のため)
じれじれのち、いつもの通りハピエンです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
こちらの作品は他サイト様にも投稿しております。
断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。
叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。
オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)
ビスケット
BL
アルファ、ベータ、オメガの三つの性が存在するこの世界では、αこそがヒエラルキーの頂点に立つ。オメガは生まれついて庇護欲を誘う儚げな美しさの容姿と、αと番うという性質を持つ特権的な存在であった。そんな世界で、その他大勢といった雑なくくりの存在、ベータ。
希少な彼らと違って、取り立ててドラマチックなことも起きず、普通に出会い恋をして平々凡々な人生を送る。希少な者と、そうでない者、彼らの間には目に見えない壁が存在し、交わらないまま世界は回っていく。
そんな世界に生を受け、平凡上等を胸に普通に生きてきたβの男、山岸守28歳。淡々と努力を重ね、それなりに高スペックになりながらも、地味に埋もれるのはβの宿命と割り切っている。
しかしそんな男の日常が脆くも崩れようとしていた・・・
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる