魔法の鏡、DKに転生する〜モブですらない無機物キャラだった筈ですが〜

Q矢(Q.➽)

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5 姫様はキレッキレ

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奇跡的美形の美しい唇から飛び出した、あまりにも物騒な言葉。しかも、整った顔の額に浮き出た青筋に、咄嗟に唾を飲み込んだ僕の喉からは変な音が出てしまいました。

こ、怖い。そして迫力。

以前の姫様といえば、神の寵恩を受けた美しい容姿に、誰からも愛されるような天然気質。何せ、継母になったお后様から向けられた悪意にすら、最初は気づかなかったくらいでした。
まだ幼かったという事もあるでしょうが、元々がご両親に愛されて大切に育てられたお方だったので、あまり他人の悪意に触れた事が無かったんでしょう。王女という立場もありますし、何より幼くして生みの母上を亡くされた素直で健気な姫様に、皆が同情的でした。
だから、継母になったお后様の悪意に気づくのが遅れたんだと思います。いや、わかってても認めたくなかっただけかもしれません。
自分の周りで妙な事が起こり始めて、薄々ながらお后様の仕業かもしれないと思っても、自分が誰かの憎悪の対象になる事にピンとこなかったのかな…。

姫様は、豪華な城から連れ出され森の中の質素で小さな家に身を隠す事になり、そこで何度か命を狙われても、結局は初対面の老婆が差し出した食べ物を口にしてしまったほど、人を疑う事に向いてないお方でした。
良く言えば純粋、悪く言えば愚鈍。
普通、何度か痛い目を見たり疑わしい事があれば、人は人を疑う事を学習するものです。

しかし、残念ながら姫様はまんまとお后様の毒牙にかかってしまいました。あの頃の僕は、世界中何処の出来事でも見る事ができる能力を持っていたので、姫様が林檎を口にして倒れた時には、思わず罅が入ってしまいそうなショックを受けました。
僕がお后様に姫様の位置情報を漏らさずに済めば、あのいたいけなお姫様はその命を奪われずに済んだのにと、無い心が痛みました。

…ま、実はそそっかしい姫様が林檎をノドに詰まらせていただけというオチでしたが。
え?毒林檎の欠片が食道に滞留していたとしてもそこから毒が回るんじゃないのか?

僕もそう思いますけど、実際蘇生してますしね。

しかもその蘇生の瞬間も、素敵な王子様とのキスで欠片が出て、なんてロマンチックなものじゃありませんでした。
そこについては諸説あるようですが、僕が見ていた限りでは、『こんな美女なら死体でも良いから持ち帰りたい』、なんてサイコパスな事を抜かした隣国の変態王子がしつっこく姫様を欲しがって、配下の大男に姫様の入った棺を運ぶように言ったんです。男が棺を肩に担いで運んでいる内、それが木にぶつかった拍子に姫様の喉から欠片が外れた、なんて嘘みたいな経緯でした。
意識の戻った姫様は、最初何が何だかわからない様子でしたが、そんな姫様を変態王子は上手く丸め込んでしまい、命の恩人として結婚を要求。
『君をあんな目に遭わせた継母に復讐してあげるね!』なんて言いながらお后様を断罪し、その苛烈さに怯えた姫様は仕方なく変態王子の言いなりに結婚したんです。

ぶっちゃけ、あの変態王子は顔と育ちが良いだけの、めちゃくちゃ気持ちの悪い男でした。流石の姫様も、本当は王子が自分を助ける気は無くて、美しい死体を好きにしたいだけのサイコパスだったとわかっていたんでしょうね。だからこそ彼に恐怖心を抱いてしまって、逆らう事ができなかったんだと思います。
そんな姫様が、后様の憎悪から解き放たれて果たして幸せになったのかは、僕にはわかりませんでしたが…。

ですが…先ほどのセリフからして、幸せな結婚生活とは言えなかったらしい事がひしひしと伝わってきましたね!!


「あ、あの、姫様?なんですよね?
どうか落ち着かれて…」

「落ち着いてなんかいられるか!」

なんて良く通る美声。興奮した怒鳴り声すら美しく鼓膜を揺らすとか、流石は120点ですな…。
しかしあまりの剣幕に、通行人も足を止めて此方を見ています。
一気に集まってしまった注目に、僕はオロオロと姫様を宥める事しかできませんでした。

姫様はハッと我に返った様子で周りを見渡し、掴んでいた僕の腕を引っ張りました。

「くそっ、ちょっと来い!」

「えっ、えっえっ」

そうして、その清楚な面立ちからは想像できない強い力で引き摺られるようにして、僕はその場から連れ去られたのです。





「鏡、お前、名前は?」

「はあ、各務です」

「ふざけてんのか?今の名前だよ」

「はい、ですから、各務です。各務 宇一」

先ほどの地点からやや離れ、人の往来のあまりない通路の端の柱の陰に連れて行かれた僕は、鞄の中から学生証を取り出して姫様DKの目の前に呈示しました。暫しそれを見つめていた彼は、

「…あ、あー…そういう…。まっぎらわしいな…」

と、何故か複雑そうな表情で理不尽なキレ。
すいませんね、鏡が各務家に生まれてややこしくて。
僕が学生証をしまうと、何故か姫様も律儀に自分の学生証をブレザーの内ポケットから取り出しました。

「ま、俺も人の事言えねえけどな。ほらよ」

見せられた学生証の氏名欄には、姫宮 雪人という文字。

「…なるほど…相変わらず姫様なのですね」

「ぅるっせえ」

姫様は何故こんなにも短気になってしまわれたのだろう。生をまたいで遅れてきた反抗期でしょうか。…時を超えた反抗期?(笑)

僕がじいっと姫様の顔学生証を見比べていると、姫様は長く白い指先2本を使って学生証を挟み、また内ポケットへ戻しました。
そして、溜息を吐きながら苛立たしげに眉を寄せ、言いました。

「気配はすると思ってたけど、まさかマジで人間に生まれてたとはな。
…お前が居るって事は、アイツも居るって事だよな?」

「アイツ?」

「ババァだよ。俺を殺そうとした厚塗りババァ」

「あ、ああ~はいはい、…お后様…」

う、う~ん…

これ、正直に答えると不味い事になるような気が…。


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