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9 望まぬ再会、のち、拳で決着(姫宮side)
しおりを挟む前世の記憶を持つ俺が、憎いと思っているワースト3がいる。
3位は、俺をさんざん亡きものにしようと目論んだ継母ババア。2位はその継母ババアをナビゲートしたババアの鏡だが、何せ人じゃねえから見つけ次第叩き割るくらいしか出来ない。そして栄えあるワースト1位が、ババアの所為で(?)仮死状態に陥っていた俺を助けたと主張してその後の俺の人生を縛りに縛ったクソモラ旦那・変態王子である。
特に、結婚して人生の大半を共にしたクソ旦那は、マザコン・姑の嫁いびりからの放置・望まぬ夫婦のイトナミの執拗な強要・嫌がらせのようにたくさん囲った妾、などなど、思い出すのも腸が煮えくり返るほど恨みが深い。
数十年に渡るヤツとの結婚生活で、おっとり天然と言われた俺の性格は、日々の緊張感と抑圧とで臆病になり、無力感に苛まれ続けた心は暗く閉ざされていた。で、そんな状態のまま死んだんだが、その時何も反撃出来なかった事が心残りだったからか、現世でその反動が一気に来た。
そんな背景がある俺と元旦那の変態王子が中等部で再会した時何が起きたか...大体わかるだろ?
どういう事だか、前世が同じ世界で、尚且つ縁が深かった人間や物というのはお互いにわかるようなのだ。元・小人の連中に会った時もそうだったし、アイツもそうだった。だから当然、中2で同じクラスに編入してきて黒板前で挨拶する若王子を見た時にもすぐにわかった。
金髪に近い明るい茶色の髪に整った顔立ちは、前世で出会った若かりし頃の変態王子の面影を十分に宿していたからだ。
驚いてガン見している俺と視線が合ったアイツも、こっちを見て超びっくりしてたわ。
もしかしたら7人以外の誰かにも会うかもとは思ってたけど、まさか同じクラスにワースト1が来るなんて想像もしてなかったから、その時の俺はめちゃくちゃ嫌な顔をしてたと思う。
案の定、休み時間になると向こうから声をかけてきた。まずまずのイケメン顔に、どこか下卑た笑いを浮かべて。その表情を見ただけでロクな事を口にしねえなとわかった俺は、若王子に着いてくるように言って立ち上がった。同じクラスの三苫と五木と七沢が着いて来ようと立ち上がるのが見えたが、それを視線で牽制して小さく首を振ると、3人は再びゆっくり席に座った。それを見てから、俺は廊下を歩き出した。
大人しく後ろを着いて来た若王子は、俺が比較的人の通らない階段の踊り場で立ち止まって振り返るといきなり壁ドンしてきて、こう言った。
『また会えて嬉しいよ、愛しい僕の姫。まさか男性になっていたとは思わなかったけど。相変わらず僕のお姫様はうっかりさんだな。でもそんな些細な事、僕は気にしないよ。またこれから楽しませておくれね、...僕のお人形さ...』
最後まで聞かず、俺は切れた。
俺の握りしめた右の拳はヤツのニヤけて緩んだ頬にクリーンヒットして、体ごと吹っ飛んだ若王子は無様に床に倒れた。
『てめぇ、それが13、14のガキの言う事か?中身はそのまま変態ヒヒジジイ継続中か』
仁王立ちで見下ろす俺と、目を見開いて見上げている若王子...いや、もうバカ王子でよくね?
『...え、え?え?』
語彙が え 以外消失したのか?と俺は片方の眉を吊り上げた表情で少し背中を丸めて奴に顔を近づけた。
『あの時は色々世話んなったよなあ...今のは手始めの礼だぜ』
そう言うと、バカ王子の顔からはみるみる血の気が引いていき、今度は唇を震わせながら『あ』とか『う』しか言わなくなった。 多分、前世そのままの俺の顔を見て、同じように扱えると舐めたんだろうが、その頃の俺は小学校時代に通っていた拳法道場は黒帯五段で退所、中学から始めた空手でも既に黒帯に手が届こうというところまで来ていた。
はっきり言って、その辺の高校生なら数人いても相手にはならない程度には強い。バカ王子を殴った時は加減したが、それでもそれなりの威力はあった筈だった。
信じられないものを見るような目で、バカ王子は改めて俺の顔を見つめていた。それから、自分を殴った俺の手を見て、顔を強張らせながら声を震わせて問いかけてきた。
『き、君は...本当に僕の姫、なのか?』
それに俺はせせら笑いながら答えたぜ。
『お前、生まれ変わってもバカのままなんだなあ。...良いか?ご覧の通り俺はもう、あの頃のトロ臭い女じゃねえんだよ。オラ、この手ひとつ見てもそうだろ?』
ヤツを殴った拳の手首から甲には太い血管が何番も浮き出ていて、天然白雪姫だった頃の華奢で傷1つ無かった柔らかい小さな女の手ではない。
鍛錬でマメだってたくさんできたし、それが潰れて癒えたところは角質が厚くなって硬くなって、それで殴られれば痛いだろう。同じように鍛えてきた足なら、その威力は言わずもがな。
他人の目は、妙に王子様チックなうちの学園の制服に視覚操作されているようだが、俺の場合この下には中学生離れした筋肉が隠れている訳だ。そして、性格も真逆に変わってしまった。
バカ王子はそれにやっと気づいたようだった。
『良いか、よく聞けよ。この先俺に余計なちょっかいかけて来やがったら、その都度グレードアップした技でノしてやるからな。
それが嫌なら必要以上に俺に関わるな。話しかけるな。そうすりゃあの頃の積もり積もった恨みつらみも、今の1発で勘弁してやる』
視線を合わせたまま噛んで含めるようにゆっくりと言って聞かせた。怯えている様子から、てっきりすぐに頷いて逃げていくだろうと思いながら。
だが意外にも、バカ王子は少しメンタルを建て直したようで、今度はハッキリした口調でこう返して来たのだ。
『なるほど、残念ながら僕の愛する妻だった頃の君とは違うというのは理解した』
『あっそ。理解が早くて助かるぜ』
『顔は同じでも、もう僕の従順なお姫様ではないんだね...残念だよ』
『それ以上気色悪い事を抜かしたら、もう1発行くぞ』
俺が顔を引き攣らせながら押し殺した声で言うと、バカ王子は立ち上がって制服をはたきながら苦笑いした。
『悪かった。もう言わない。別人、だものな。
僕の好みと今の君は、完全に真逆だとわかったし』
痛むのか、左頬を手で押さえながらそう言って、バカ王子は肩を竦めた。
『少なくとも、そういう意味ではもう君に手を出したりはしないさ。僕の好みはヤマトナデシコだし』
『大和撫子?』
『そ。君に会えて運命かと思ったけど、今の君はとてもそんな感じではないものな。諦めたよ。
僕は今世の僕のお姫様を探す事にするさ』
『は!てめぇのそのツラと猫かぶりに騙される可哀想な女が出ない事を祈ってやるよ』
コイツの性癖は最悪だ。
日頃の言動で対象の心身の自由を奪い、ベッドの中では物理的にも拘束して犯す。平気で苦痛を与えるし、嫌がっても自分が満足するまではやめない。
とにかく相手の全てをコントロールしたがる。
思考停止していた前世の俺は、とうとう死ぬまでコイツから逃げられなかった。
それはその頃の俺がとても御し易く、最高にコイツ好みの女だったからに他ならない。
だから、顔以外全てが変わってしまった今の俺がコイツの好みじゃないというのは本当だろう。
だが、話は纏まったなと教室に戻ろうと歩き出した俺を、バカ王子は呼び止めた。
『ねえ、姫...姫宮君。君、随分強いみたいだけど、しょっちゅうこんな事してるんじゃないよね?』
『当たり前だろ。俺を何だと思ってんだ。誰彼構わず自分から暴力振るうほど野蛮じゃねえよ。
お前みたいに、恨みでも抱いてる人間相手じゃなきゃな』
『そっか。なら良いんだ。僕、風紀委員に入るつもりだからさ。
流石に一度は愛した人を処罰対象にしなきゃならなくなるなんて事、避けたいしね』
そう言って、妙にねっとりした笑みを浮かべたバカ王子は、次の学期から本当に風紀委員に入った。
そして、執拗く言い寄ってくる上級生やストーカー化した同級生達を撃退していただけの俺の方が何故か風紀にマークされ始めるという、かなり理不尽で迷惑な状況に陥ったのだった。
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