上 下
2 / 4

中編

しおりを挟む


 怪しい風俗かなあ、なんて思いながらの応募。ま、半分あわよくば、半分冷やかしだった。

 電話に出た担当者は、落ち着いた男性の声だった。若…若い?かな?でもオッサンの声には聞こえなかったから、暫定で若いと思う事にした。

『この度は求人へのご応募ありがとうございます、IMPインフォメーションセンター・求人担当の笹原でございます。お名前とお歳、IDナンバーとバース性を教えていただけますか?』
 
 あやしげな求人募集からは想像もしていなかった、きちんとした対応に一瞬虚を突かれる。
 俺の方はダラッと寝そべってスマホを操作していたから、その対応を聞いてこれじゃいかんとすぐに我に返り、ベッドの上に起き上がって居住まいを正して答える事に。それにしても、IMPってなんか聞いた事あるような…なんだっけと引っかかったが、その時は思い出せなかった。

「あ、はい。ユウリン・リーランス、20歳。IDは5182860‐E。バースはオメガです」

そう答えると、すぐに次の質問が来る。

『ユウリン・リーランス様、確認が取れました、ありがとうございます。現在居住されているお住いは皇都K区のご実家でお間違いございませんか?』

「はい」

『結構です。では、少し立ち入った事をお伺いしますが、おつき合いされてらっしゃる方などは』

「先々月別れました」

『なるほど』

などなど、簡単な質疑応答の後、ウェブ面接に切り替えたいが可能かと聞かれたので了承して、スマホ画面に表示された案内をタップした。 


 

『お美しいですね』

 モニターに映る、公務員然としているがなかなかの眼鏡イケメンに褒められて悪い気はしない俺。
 そもそも『容姿端麗』なんて募集要項に応募してるんだから、実は顔には結構自信がある。迂闊にもエリアスみたいな屑に惚れてしまってからは、扱いが悪くて自己肯定感がダダ下がりだったが、元々俺は容姿は悪くないんだ。寧ろかなり整っているほう。オメガだけど、かわい子ちゃんタイプではなく美人タイプなので、エリアスとつき合う前は男女問わずまあまあモテた。
 よって、面接官の賞賛はごく当たり前のものなのだ。しかし、エリアスと付き合っていた2年間で自尊心がけちょんけちょんに踏みにじられ削られ続けた俺にとっては、他人からの面と向かっての褒め言葉は心の栄養である。もっと褒めてええんやで。

「いやあ、それほどでも。ありがとうございます」

 好感度の為に謙虚ぶって礼を言ったけど、内心は鼻高々だった俺に、面接官は頷いた。そして、すました顔で予想外の質問を投げかけてきたのだ。

『交際相手の方とお別れしたのはつい先々月だというお話ですが、現在妊娠などの可能性はございませんか?』

 思いがけない問いに、俺は暫し黙る。だが、すぐに首を振って答えた。

「いえ…相手はベータの男性でしたし…それに一応は避妊もしていましたから」

 そう答えながら、何となく虚しい気分になる。
 避妊以前に、エリアスが俺を抱いたのは2年の間で実に片手の指にも満たなかった。俺の押しとオメガへの好奇心に負けてつき合いはしたものの、男性体である俺の体では不満だったんだろう。まあ、不満という点でいえば俺の方も同じで、ベータであるエリアスのセックスでは、心も体も満たされはしなかった。だけど、好きだったから。  
 
 好きだったから、体が満たされない事には目を瞑っていたんだ。だって世の中、満たされた性生活を送ってるカップルばかりじゃない。
 そう言って自分を納得させ…いや、誤魔化しながらエリアスとつき合っていた。

 今考えてみると、あの状態が本当に恋人同士だったのかさえ疑わしい。それに、多分避妊しなくたって妊娠はしなかったと思う。
 何故なら、ベータとオメガの間に子供が出来る確率は、とても低いから。

 
『…わかりました。では、来週でご都合の良い日を教えていただけますか?採用にあたり、ちょっとした健診を受けていただきたいのです』

「え、採用?もう採用前提ですか?」

 びっくりしながら聞くと、面接官は少し微笑みながら頷いた。

『容姿は申し分ございませんし、あとは体が健康ならば問題無しです。ご都合の良い日時をご指定いただければ、こちらからお迎えの車を手配します』

「そうなんですか…ありがとうございます。じゃあ、えっと…来週の14日で…」
  
 どうやら俺はいともあっさりと採用されたらしい。
 勝因は何だ。顔か?やっぱ顔かな。
 俺は少し浮かれながら翌週の月曜日を指定した。

『では、14日月曜日、午前10時にご自宅までお迎えにあがります。成人されておられますので、必要な物は身分証のみで結構です。健診で問題が無ければ、待遇面などの詳細をご説明させていただきます』

「はい」

『では、月曜日に』  

「よろしくお願いします」

 面接画面が切れ、俺はしばらくぼんやりとスマホを眺めた。
 本当にこれ、決まっちゃうのでは?


 そして週明け月曜日。

 最終面接と病院での健診をクリアした俺は、あれよあれよという間に本採用となった。

 因みに、職種が後宮の側室だってのもその日に知った。秘密事項なんだそうである。

 あんなバイト感覚の募集で???


 




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

コスモス・リバイブ・オンライン

SF / 連載中 24h.ポイント:937pt お気に入り:2,342

妹にあげるわ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:132,359pt お気に入り:4,478

短編まとめ

BL / 連載中 24h.ポイント:397pt お気に入り:102

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:945

百年の恋も冷めるというもの

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,541pt お気に入り:23

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,854pt お気に入り:2,078

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:16,402pt お気に入り:3,348

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:15,863pt お気に入り:7,992

家電ミステリー(イエミス)

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:327pt お気に入り:4

処理中です...