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〜萌と爆笑の狭間で〜
しおりを挟む「殿下と私は幼い頃に少し面識がありまして…。」
話し初めたエリオは当時を回想するように目を閉じたが、直ぐに眉間に皺が寄った。
多分、良い感じの記憶では無いんだな、その顔はな。
「会った瞬間から求愛されました。」
「……わぁ…。」
「そして、求愛されたのは私だけではありませんでした。」
「なんて?」
「5つ上であり嫡男である私の兄も、殿下に求愛されました。しかし兄には既に婚約者がおりました。可愛らしい伯爵家の令嬢です。
兄は珍しく完全なる異性愛者でして。」
「なるほど。確かに珍しいですが…え、それで殿下は直ぐに諦められたんですよね?」
「まあ、兄は確かに美しい人ですから殿下の気持ちもわからなくもありませんが、家の跡継ぎでもありますし、王室入りする訳にも参りません。
当時未だ子供だった殿下の仰った事とはいえ、もし話が大きくなると子供の戯れ言では済みません。父は断固拒否しました。」
「5つ上、という事は殿下よりも4つ上…。まあ、それくらいなら射程圏内ですよね。」
流石は色狂いポンコツ殿下。
美人ならちょっとやそっとの障害はものともしないらしい。
「まあそれで。
殿下は仕方なく私で妥協されたのですよ。」
眉を下げて困ったように微笑むエリオ。
は?
いや、え?
「は?」
何を言ってるんだ、この子は。(同じ年)
兄が駄目だったから、自分?
「それは、殿下が仰ってらしたのですか?」
有り得ないとは思うが、一応俺は身を乗り出してそう聞いた。
「…いえ、そういう訳では…。
ですが、そう思ってらっしゃるのはわかります。
特に最近は事ある毎に、私に性根が悪いとか、腐っているとか。兄やセス様を見習ってはどうか、とか。」
しょんぼりと、そう答えるエリオ。
「無理もありません。
生来の負けず嫌いで、つい言い返してしまいますし、兄のように黙している事が出来ません。
そういうキツい性格が、学園でも皆に疎まれているのだ、と殿下に指摘されてしまい、何方とも話せなくなってしまいました。」
「……殿下以外の方の何方かにも、そう仰られたのですか?」
「…いえ、何方とも話した事は無いのですが…。
殿下とのやり取りを聞かれていて、そう思われてしまったのでしょうね。」
そう言うエリオはとても寂しそうだった。
「殿下とのやり取り、とは、例えば?」
ここ迄来たらもう踏み込んでしまえ、と俺は続きを促す。
「ええと、次の休暇には一緒に別荘に行こうとか、週末は王宮に泊まれとか、主にそんな感じの?」
「ヤりたい狙いばっかじゃねーか。」
「は?」
「あ、いえいえ。私とした事がつい。ふふっ」
いかんいかん、つい地が。
「それで、エリオ様は何とお答えに?」
「毎回お断りしております。
私は子供の頃から、空気が変わると寝付けないのです。
あと、…あの、内緒にしていただきたいのですが、」
「何でしょう?」
エリオはそっと俺の耳元に唇を寄せてきた。
ドキッとする。
あれ?なんかふわん、とした良い香り…。
エリオは人目を憚るように1度周囲を目線で確認してから、
「私、ずっと一緒に寝てるぬいぐるみがいて。その子がいないと…。」
と、可愛い秘密を教えてくれた。
ほわぁん、と顔が綻ぶ。
「7歳の頃に愛犬が天国に逝ってしまって消沈した私を心配した父上が誕生日に下さったんです。 とても良くあの子に模されていて。」
でも大型犬だったので、ぬいぐるみも大きいのです、とエリオは恥ずかしそうに手指を膝の上でもじもじしながら小さく告げた。
「……。」
それに俺の脳内と心は萌死。
「だから、私 その子がいないと眠れないのです。でも、一応、想像はしてみたんですが、殿下とはちょっと寝付けそうにないなと思ったんですよね。」
「…そうなんですか?」
「殿下って、なんかこう…暑苦しいじゃないですか?傍に寄られるとむわっとしますし。
体温が高い人、苦手なのでちょっと無理かなあって。あと臭いし。」
「臭い。」
俺の心はこの時点でオーバーヒート。
萌えと爆笑の狭間で揺れた。
エリオ、ポンコツ殿下の事
、臭いと思ってたんだぁ…。
俺もだよ!!
というか、エリオ、思いの外、無垢なんじゃない?
こんな何も知らないような子を、あのスケベポンコツは閨に引きずり込もうと画策していたのか。しかも、婚前に。
なんつーふてぇ野郎だ。
「お断りしても執拗いので、毎回言い争いになるのです。
声を荒らげてしまう事もしばしばで。
それを見られてしまっていたんだと思います。
婚約者である殿下に声を荒らげるなど、あるまじきですよね。」
エリオは自分が悪いと思っている様子。
いやでもそれ、違うぞ、目を覚ましてエリオ!!
「それで、私、考えたのです。
いっそその噂に便乗して、殿下に嫌っていただいて、婚約を破棄にしていただこうと!それで思いつく限り、皆様にキツくあたらせていただこうと思いまして。」
「……それで、この間も?」
「あ…、あの時は…ありがとうございました。暖かかったです。
私のリムにとても似た手触り肌触りで、ついうっとりしてしまいました。」
「ふふ、どういたしまして。」
思い出したのか、ニコニコし始めたエリオ。可愛い~。
なるほど、本来の彼はこういう感じなのか。
確かにこの顔にこの性格では、知られた途端に皆のアイドル化してしまうわ。
ポンコツはポンコツなりに、自分がエリオを独占しておけるように無い頭を使って策略を巡らせたのだろう。
αとしての本来のランクはド底辺だが、ヤツには実家という無駄に権力を持った後ろ盾があるからな…。
ポンコツの気持ちも分からなくはないが、手段がクソだな…
と、俺は自分を棚に上げて思ったのだった。
あと、ひとつ確信した。
エリオはポンコツ殿下が嫌いだ。
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