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8 友達っていいな
しおりを挟む初めての唇同士でのキスは何だか不思議な感覚だった。猫との鼻スリなら毎日してるんだけどな~…。
されるがままに下唇を軽く吸われたり舌で舐められたりして、同性相手だったというのに何だか心がふわふわして思いの外気持ち良かった。
そっか、キスってこんなに気持ち良いのか。だから皆、したがるんだな、と納得したりして。
でも実はそのキスは、一ノ谷さんが俺を最大級に慮った初心者向けの超ソフトバージョンだったなんて、もう少し後から知る事になる訳だが…。
とりまその後、ふわふわした気分のまま一ノ谷さんの肩に凭れて朝日が昇るのを見てたのは覚えてる。
今更ながらここで俺の金勤務する、超高級会員制レンタルクラブ 『普通男子を愛でる会』についての話をしようと思う。
クラブの現在の在籍人数は、常勤・バイトを合わせて42人。
このご時世に普通・平凡男子をよくこれだけ集めたなー、とちょっとびっくりする。
ナンバー(売上・指名総合での10位内)のキャスト達には移動の機動性が必要な為、専用車と個別マネージャーがが割り当てられているが、それ以下のキャストは出勤直ぐに予約が入っていなければ店舗と呼ばれているビルに出勤して待機するらしいが、俺はスカウトされた最初の1回しかその店舗に行った事が無い。そんな訳で他のキャストに会った事も無い。一年以上在籍していながら?と思われるだろうが、キャスト間の無駄なトラブルに巻き込まれる事が無いから、まあ良いか。
俺の出勤は週四日。
火水、金土。18時から26時迄。これは入店当初から変わっていない。
決められた出勤日に休んだ事も無いし遅刻した事も無い。とはいえ、それは今迄がアクシデントも無くラッキーだっただけで、飼い猫の内の一匹でも具合いが悪くなろうものなら俺は迷いなく休むつもりだ。
で、その週四の出勤日の内、週末2日間は一ノ谷さんにガッツリ押さえられていて、残り2日は1日2、3人の予約が入っている。
通常、会員であるお客さんは、キャストと連絡先交換をしていたり、どんなに親しくしていても、予約だけは専用ホームページから入れて店舗スタッフとの遣り取りをする事になっているらしい。まあそれも、トラブル防止なんだろうな。厳しい審査をクリアしたウチの顧客だから、本来そこ迄やる必要は無いんじゃないかと思うんだけど、その辺の事は一介のキャストでしかない俺の領分じゃない。管理運営側にはそれなりの理由があるんだろう。
まあそれで、聞いたところによるとなんだけど、俺の火水の予約は半年先迄埋まってる競争率の高さなんだそうだ。ごく稀に当日キャンセルが出ても、キャンセル待ちの客に振り替えられて直ぐに枠が埋まるんだと言う。週末に限っては店を辞める迄一ノ谷さんに押さえられているらしい。
ほんと、世の中の金持ちは好事家が多いな。ありがたやありがたや。
で、サラッと書いたからお気づきかはわからないけど、ウチの店にも専用ホームページがあるのだ。お客から聞く迄知らなかったけど、あるのだ。その存在を知ってから、俺はお客に頼んでそのホームページにアクセスした事がある。
キャストには俺と似たり寄ったりの平凡面が並んでいて全く華が無かった。
マジでウチのお客は何がたのしいんだろうなと心配になってしまうくらい、地味だった。
まあその中のキングオブ地味が自分な訳だがな?(自虐)
んでまあ、何が言いたいのかと言うと、その時そのホームページを見てて、俺は見た顔がいる事に気がついたんだ。
ウチの大学でたまに見掛ける、俺より少し背の高いメガネの男子。学部は違うけど、同じ教養科目を取ってて毎週見るから直ぐわかった。そのメガネ男子・ミズキの画像の上にはNO.8の文字があって、出勤は毎日らしい。が、頑張るな…。
で、感心した俺は、それからさり気なく講義が被った時に、そいつの近くに座ってみた。自分と同じ仕事をしてる人間に対する、単なる好奇心だ。ちょっと観察したら気が済むと思って。
するとなんと、そいつもすすっと近寄って来たのだ。
「ユイさんですよね。お疲れ様です。」
「えっ」
びっくりした。俺は大学では常にマスクで過ごしてたし、見えてる目元や体型から"普通"だとはわかるだろうけど、顔立ちの全体像まではわからないと思ってたからだ。因みにそんな状態で歩いてた俺をスカウトしたのが今の店のオーナーなんだけどな?
それはそうとして、俺はコソコソと小声で聞いた。
「…え、なんでわかったの?」
「え、何でわからないと思ったんですか?」
逆に聞き返されてしまって返事に窮する俺。
え、そんなに?そんなに分かり易いの俺?
「その目、その髪、その雰囲気。カリスマ平凡・ユイさんをわからないなんて人がいたら、そいつ視力に問題ありでしょ。」
「そ、そんなに?」
カリスマ平凡…。
俺をアベレー神と呼ぶ一ノ谷さんが頭を過ぎる。
俺って…。
「僕、ミズキです。本名は苅谷 瑞希。良かったらこれからよろしくお願いします。」
隣の席からニコニコと俺に笑いかけるミズキの笑顔は、平凡と言うには何故かキラキラして見えた。
そしてその日から俺とミズキの友人としての付き合いが始まった。俺も、自分と似たような環境の人間と友達になれるのは初めてで少し嬉しかった。
だけどミズキは、とある秘密を抱えていたのだ。
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