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9 ミズキの志望動機
しおりを挟む俺とミズキは顔を合わせればそれなりに話したり、昼食を一緒に食べたりする仲になった。
たまに俺が別の友人と居る時は遠慮しているような時もあるけど、大概はニコニコしながら声を掛けてくる。
そうして少し馴染んできた頃、学食のカレーを食べながら向かいに座って日替わり定食を食べるミズキと話していたら、何故入店したかの話になった。
俺は街中でのスカウトだったと言ったら、ミズキは納得といった感じで頷いた。
「やっぱりね。何かこう、光るものがあったんだね。」
「…いや、逆じゃない?平凡は光らなくない?」
どれだけ普通の若者の出生率が落ちて珍種扱いされようが、光は放たなくない?やっぱキラキラするのは美形だって相場が決まってるし。
俺が首を捻りながら人参を皿の端に避けて1箇所に集めていると、ミズキがそれを箸で摘んで食べてくれた。助かるわ。
そんで人参咀嚼後に水を一口飲んだ後、口を開いた。
「何言ってるのさユイ君。ユイ君の普通さは一際輝いてるんだよ?自分で気づいてないんだね…。」
「でもさ、万が一俺が光っちゃったとして、その時点でもう"普通"じゃなくね?」
少なくとも俺はそう感じるし、輝かないからこその平凡だと思っている訳だが。
そしてそんな俺の言葉に、ミズキも首を捻り始めた。
「…それは、そうだ、ね?」
「だろ?いいか、ミズキ。」
俺は少しテーブルに身を乗り出してミズキに話しかけた。
「同世代や少し歳上の連中が俺達を特別視するのは、単に見慣れないからだ。
今現在、34、35歳くらいの年齢の連中が産まれた辺りから"普通"が産まれなくなって、周りの同級生達が同レベルに綺麗だったから。
だから物珍しくて扱いに困ってるだけだ。」
だから35歳以上の人達の場合は圧倒的に普通の人の方が多くて、それ以下の年齢の若い普通は珍しい訳だ。
"普通の子供"の親はワクチン接種者×未接種者だから、美×普の遺伝子って事で普通は産まれても、それ以下の不細工は生まれて来ない。もし、未接種者×未接種者だとどうなるんだろうと考える事はあるけど、何故かその例は聞かないな。そんな奇跡的なカップリングが居たとしたら、普通や普通以下の不細工も産まれたりするかも?でももし、若い世代に不細工が発見されたら、普通以上の珍種扱いになって俺達以上に尊ばれたりしてな。いや知らんけど。何か人間って数が少ない程貴重だと思う生き物らしいし。
まあでも今迄聞かないって事は、そういう可能性はこの先少なくなってくだけだろう。そもそも残ってる未接種者自体が少ないし、そんな人達もそれなりの年齢な訳で、歳を重ねる毎に生殖能力は落ちてくばかりなんだから。
ミズキは、なるほどね、と尤もらしい表情で頷き、定食のおかずの高野豆腐を口に運んだ。
「だからまあ、別に俺らが何か特別すごいとかそんな事もねーよ。俺らは単にマイノリティ中のマイノリティなだけだ。で、たまたま今はそれを好む人が結構いるから、俺達みたいな仕事が成り立ってるってだけ。」
「…まあ、そうかもしんないけど…。」
「それにな、基本的に人間って綺麗なものの方を好むもんだよ。だから最初は珍しくて大事にされても、じき飽きる。そんで結局、同じようなレベルのコミュニティに帰ってそれなりの相手を選ぶんだ。」
わかったような事を言ってるけど、これは母さんの受け売りだ。要するに、調子に乗って浮かれるなって事だ。それもあって、一ノ谷さんの気持ちもなかなか受け入れられないってのもある。今は"普通"の俺に夢中になってても、どうせ何時かは目が覚めるだろ、アンタって。そりゃ今は本気なんだろうが、一ノ谷さんの言う事を真に受けてマジで結婚して、何年か後に後悔されても俺には責任取れないからな~。
しかしそんな事を口にしては身も蓋もないので言わないけどさ。
「…ユイ君、めちゃくちゃ稼いでるNO.1なのになんか言う事世知辛い…。」
「そうかな。」
必要以上に夢を見ないってだけだ。
俺は俺自身の"普通"ってものに、そこ迄の商品価値があると思ってないから。
でもそれは俺個人の思っている事で、ミズキがそれを聞いてどう考えるかはミズキ自身の自由だし、俺みたいなつまらない考えで生きる必要は全く無いと思ってる。
「でも、そういうちょっとクールなとこがまた普通っぽくて良いんだろうなあ。」
「……。」
ミズキは自分も"普通"の癖に、何か俺に夢持ち過ぎてる気がするな…。
何だかつまらない話になってきたので俺は矛先をミズキに向けた。
「で、ミズキはどんな切欠で入店する事になったの?」
「僕は…お金をどうにかしなきゃって思ってた時に、人伝てにそういう仕事があるって知って、面接に行って…。」
「え、そうなの?ウチの店って募集とか出してるの?」
そう聞くとミズキは、いやー、えーと…と歯切れの悪い返事をした。
「募集は知らないけど…。その頃、偶然再会した小学校の同級生が未だ店に在籍してて、その人に頼み込んで…。」
「なるほど。そういうルートか…。」
特殊過ぎる仕事故に、どうやってキャスト集めてるのか気になってた俺は興味津々でミズキの話を聞いていた。
「でも何で金が必要だったの?あ、言いたくなかったら言わなくて大丈夫だけど。」
俺が少し突っ込んで聞いてみると、ミズキはすんなりと『学費』と答えた。
どうやら大学に入学して数ヶ月した頃にミズキのお父さんが失業して、後期の学費や生活費を早急に自分で工面しなくちゃと思ったんだそうだ。意外にもかなり切羽詰まった動機だった事と、見た目より苦労人だったミズキに、俺は感心した。
「そっか。じゃあ、ミズキの場合は"普通"だった事がプラスになったんだな。良かったな、マジで。」
ウチの店の歩合いは高いし給料は破格だ。ナンバーに入ってるくらいだから、ミズキもそれなりの額は手にしてるんだろう。
実際、ミズキは今でも大学に通っているんだから…。
俺は、良かったな~と安心して、呑気に残りのカレーを食べた。そんな俺の様子を、向かいに座るミズキがメガネを光らせながらじっと見ていた事に気づかずに。
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