異世界でも商売!商売!

矢島祐

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01 ヌーボー・レース

価値ある商材

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 大昔は自動車の販売、といえば訪問セールスが中心だった。
ところが昭和の終わり頃、バブル景気になると
『お客さん自身がディーラーに出向いて店頭で購入する』
ことも増えてきたのだが、当時の自動車販売店には店頭で車を売るノウハウが無かった。

 で、ある自動車メーカーは思いついた。
「逆にアメリカは店頭販売がメインだから、向こうの手法をコピーすればいいんじゃね?」
そこで大金はたいて、アメリカのディーラー向けマニュアルを買い取った。
さっそく喜び勇んで翻訳したのだが
「……これ、このままじゃ使えねぇ!!!!」
商習慣もまるで違う、法律も違う世界の手法をそのまま持ち込める筈もなく
苦労してローカライズを行っていたが、バブル崩壊でそのメーカーはひどい経営危機に陥り
そんなマニュアルの事はいつの間にか忘れ去られていた――

 ちなみに俺もそのマニュアルに振り回された一人だったりする。

 とはいえ、今考えると
「そのマニュアルにもいくつかの真実は書かれていたよなぁ」
と思う。

 そのひとつが
『試乗前に価格を提示するな』
という鉄則。
試乗させてる間にセールスポイントを説明し「これいいな」と言わせてから、価格を提示。
ぶっちゃけ車の場合、新車はどれでも乗ってみればよく感じるもので
そこにつけこんで高い価格でも納得させやすい状況をつくるわけだ。

 と言うことで。
同じ乗り物ならそのまま流用できるだろう、と異世界でも試してみたわけだが

「これは……!まるで浮いているような乗り心地だぞ!」

効いてる効いてる。
大きなゴムベルトでキャビンを浮かせたフローティング構造。
乗り心地が劇的に変わるので、むしろ高級馬車にこそ合う筈という事を説明する。

「ダニー、正直ここまでとは思わなかったよ……!」

試乗は好感触。
そして(これもマニュアルにあったのだが)その感触が消えないうちに即商談。

「馬車用の製造権と技術指導で一億払おう」

試乗を終え、俺とエド、エドの叔父さん、ララガの4人で応接室で商談を行う。

「いちぉ……!」
「安すぎます。それに馬車用に限定と言っても製品が出来てしまえばいくらでも流用可能ですから、現実的ではありません」

 初回の提示をノータイムで断るが
「ララガの技術指導は交渉に含みましょう。上質な製品が顧客に提供できなければ良いビジネスとは言えません」
交渉範囲のほうには同意する。

 交渉ごとは歩み寄りだからお互いの
『購入してもいい条件』と『売ってもいい条件』
をすり合わせる。
もちろん交渉なのでそりゃ決裂することもあるが、
そのあたりのことは、以前外国人相手の店に勤めていたころ
毎日値切られていたのでよく理解している。

「おいら、勝手に売られてるよ……」
ララガはとほほ、という顔をしているが彼女しか製造法を理解していないので仕方ない。

「というと、こちらに全製造権を売るつもりなのか?」
「そうです。というかすべてのゴムをあなた方で独占してはいかがでしょうか?」

『独占』というワードを思いついたのでそのまま先方に投げてみる。
事前に準備を整えたプレゼンでも、その場の空気に合わせてアドリブを入れることはあるが
今回は何の準備もしていないので、すべてアドリブだ。
そのぶん、資料を渡すこともしていないしパワポのプロジェクターも無いから
すべての目は俺に集まっているので、言葉ひとつひとつの重要性は上がっている。

 そしてこれが思いもかけない効果を及ぼした。

「可能ではあるな。ゴムの生産地はうちのいとこだし」
「生産をはじめたものの、販売先には困っていましたからね」

 そういう事情もあったのか。
ん?と言うことは商品化にむけたゴムの改良、というのは彼らにとっても既定路線だったのか?
もしかして?と思い確認する。

(……ララガ、そもそも君がゴムを知ったきっかけって何?)
(……そういやたしか、城主さんから『親戚の土地で取れた珍しい植物の樹液です』って見本をもらったっけ?)

 ぐはっ、そもそも城主のエドがララガを焚き付けたのか!
ララガって、薬草学だけじゃなくて発明でも有名だったらしいからなぁ。
『良い製品作ってくれたらラッキー!』みたいな思惑はあった筈。
下手したら、欧州で白磁を作らせるために監禁されつづけた錬金術師のようになったかもしれない。

 あれ?じゃぁ俺の借金も本当は必要無かったのか?
本来直接ララガに資金を貸し出すなり提供すれば良かった話で、
俺を経由させたのは、まとめて城主エドの手駒に引き入れるためか?

 そこまで想像をめぐらせて、ぞっとした。
海千山千の貴族様は陰謀詭計がお上手だから一筋縄ではいかないようだ。

「しかし馬車用はまだいいとしても、全部を独占してそのほかの用途向けを作るとなると工場の規模が大きくなりすぎる。とてもそこまでの余裕は無いよ」

 当然の反応が返ってくる。
いくら城主様とはいえ、予算は無尽蔵ではないだろう。

「ビジネスは『小さく始めて大きく育てる』という手もあります。まず広い土地を確保してほしいのですが、最初は小さい工場だけを建てて、軌道に乗ったらだんだん大きくすれば初期投資は少なくて済みます」

 俺が自分の工場にこだわらない理由がこれ。
『住民の環境に影響を与えない場所で広くて輸送の便が良い土地』
なんてのを確保するためには多大な資金と政治力が必要だから、個人では難しい。
そこは力のある人に任せて、俺は俺でやれるところに注力することを選んだ。

 ちなみに『小さく始めて大きく育てる』というのは
昔読んだある自動車メーカー創業者の本からパクった。
日本の企業では珍しい個人的カリスマで世界的にも有名だったあの人なら、
こんな状況でも一人で大企業を作りそうだが、俺にはあんなすさまじいほどの情熱は無い。

 ハードルが下がったことで、城主2人の雰囲気も『それなら……』という感触になる。
案外、こういう『空気』は商談の場を大きく支配する。

「商品アイテムをどうするか?は今後の検討事項となりますが――」
良い流れとなってきたので、俺の目標を提示する。

「具体的な金額は別途協議を行って決定したいと思いますが、ララガには顧問料の支払いと利益に応じた配当を。そして私には馬車用以外の販売権と当面の資金として一億を頂きたいと思います」

 『画期的製品の独占販売』
古今東西どの商人であろうと一番欲しいそれを俺は手に入れる!

「それはどうだろう。君の能力はよくわかったが、商売が拡大したときに対応できるか心配だ」
「それは個人の範疇ならばそうでしょう」

ご心配はごもっとも。
だが、こちらにも考えがある。

「新製品の販路をいくらでも拡大する秘策があります。しかも初期投資イニシャルコストはゼロです」
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