一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

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103 とある少女たち、再び

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「ああやっぱり何着ても似合うわ!」
「こちらの緑のも如何でしょう? 大変お似合いかと」
「いいわね! そっちもお願いするわ!」
「ありがとうございます」

 なんていう会話が目の前でされているが、聖と春樹にはもはや何かを言う気力はない。
 ただただ嵐が過ぎ去るのをひたすら願っていた。


 ――畳が完成してから早3日が経過していた。

 その間、主に何をしていたかというと、海苔を採って海苔を採って海苔を採っていたと言えばいいだろうか。
 これだけあればしばらく十分だろうというぐらい採ったので、そろそろサンドラス王国へと旅立つことにし、ちょうどグレンゼンに用事があるグレイスと一緒に行くことにした。
 ちなみにウィクトはいまだ書類と格闘しており、泣く泣く見送られた。もろもろの支払いにはまだ時間がかかるそうだ。

 そして、悲劇はデウニッツとグレンゼンの間の不思議空間で起った。
 そう、グレンゼンに入るので再びセイとハルへとなったのだが、まあ、なんというかそれを見たグレイスが暴走した。
 瞳がきらきらを通り越してぎらぎらだった。
 その結果連れてこられたのがグレンゼンの洋服屋さんである。
 ちなみに抗議も抵抗も、すべて無駄に終わったと言っておこう。

「うんうん、聖は青系で、春樹は緑系がいいわね」
「……グレイス、これどうするの……」

 諦めの表情を浮かべる聖と春樹の前に積まれた洋服の数々。普段着っぽいものや、ドレスっぽいものが見える。どうしろと。

「え? もちろん買うわよ、私が」
「……グレイス用?」
「何言ってるの、あなたたち用に決まってるじゃない!」
「や、だからこれをどしろとっ」

 思わず頬を引きつらせ抗議する春樹に、しかしグレイスはにっこりとほほ笑む。

「もしかしたら必要になるかもしれないじゃない。だって、どうせ予備の水はたくさんあるんでしょう?」

 例の水を余分に持ってるでしょう? と言われ、「……否定はしない」と春樹が呟き、聖はそっと目をそらす。
 あの時、どれだけアイテムボックスに入れても、ウィクトは止めなかった。
 しかも直接入れることができたため、気が付けばその総量は10リットル。
 いったい何時何に使うのかはわからないが、ただなので持っていかないという選択肢はなかった。
 本当にいつ使うのかは謎だが。

「ま、とりあえず今はこれ着てね」
「「え」」
「大丈夫よ、女性冒険者用のズボンだから。ちょっと装飾があって可愛いだけだから!」
「「………」」

 そのちょっとが問題なのだが、まあ、スカートではないのでまだ抵抗は少ない。サンドラス王国に行くまでの辛抱だと己に言い聞かせて、それを着る。

「うん、これで違和感ないわね!」
「「……」」

 無言でお互いの恰好を見る。

 聖は、Tシャツっぽいものに膝までのズボン。そして、白地に青色で全体に刺繍が施された、ふんわりとしたマントというかコートのようなものを羽織っており。
 春樹は、わりとぴったりとしたスーツと言えばいいのだろうか。濃い緑色に、ワンポイントで金色の刺繍がある。

 確かに今までの服装から比べれば違和感なく溶け込めているかもしれない。
 だが、はっきりと言おう。

「なんか目立たない!?」
「似合ってるからいいじゃない」
「そう言う問題じゃないだろ!」
「そう言う問題よ? 可愛い女の子が可愛いものを着る。これが世の常識よ!」

 ぐっと拳を握りしめ、きっぱりと言い切る。

「さ、支払いも済んだし行くわよ」
「「いつの間に……」」
「ありがとうございましたー!」

 押し付けられるように渡された洋服たちを、アイテムボックスへとしまい、実に満足げないい笑顔の店員さんに見送られ外へと出る。

「……なんか見られてない?」
「あたり前じゃない! 可愛くて美人な女の子なんだから!」
「全然嬉しくないよねそれっ、……て春樹? どうかした?」
「……なんか視線を感じたような……?」
「だから可愛いからみんな見ちゃうのよ!」
「いや、そうじゃなくて……」

 と、春樹が首を傾げたその時、後方から声が上がった。

「食い逃げだ! だれか捕まえてくれ!!」
「「え?」」

 何事、と思う間もなく男が横を走り抜け、同時にグレイスが動く。
 いつの間にか手に持っていた何かを男に向かって投げる。
 そして。

「捕まえたわ」

 そう言って男のところへと向かっていくグレイスを、2人は呆然と見送る。
 あの瞬間、グレイスが投げたように見えたもの、それは鞭だった。
 素晴らしい鞭捌きによって縛り上げられた男は、蓑虫のように転がっている。

「……似合ってるな」
「……似合ってるね」

 グレイスに鞭。
 何がどう似合ってるとは言えないが、違和感がない。というか、しっくりきてしまう。

 そして、やっと追いついてきた飲食店の店主らしき人に男を引き渡し、何度も頭を下げられながらグレイスは戻ってきた。

「……言っておくけど、好きで鞭を使ってるわけじゃないからね」
「「へー」」
「なんかいろいろ言いたいことはあるけど、これしか適性がなかったから仕方がないのよ!」
「そうなんだ」
「いいんじゃないか?」
「すっごく誤解されてる気がするわ。……まあ、使ってみたら意外と便利なんだけどね……」

 そう言って、若干グレイスが黄昏た。
 まあ、正直なところ春樹はともかく聖はグレイスとある意味お仲間である。適性武器に関しては。

「まあいいわ。っと、そろそろ行きましょうか」
「ああ」
「うん」

 気が付けば夕方である。
 グレイスに案内され、サンドラス王国への国境門へと急ぐ。

「さ、ここを通ればサンドラス王国よ。すぐに宿があるからまずはそこで休んでから行った方がいいわね」
「うん、ありがとうグレイス」
「いいえ、こっちこそいろいろ助かったわ。あ、それとこれあげるわ」

 グレイスが取り出したのは2枚のハンカチのような布。よくみると何かの言葉が刺繍されている。

「これは……」
「魔力布よ、魔法を覚える補助具のようなもの」

 見たことない? といわれ思い出したのは【洗浄】の魔法を覚えたときのこと。内容は違うが、確かに似たようなものだった。

「使い方は大丈夫そうね、これは認識疎外の魔法用。これから必要になることもあるだろうから、覚えた方がいいと思って。たぶん適性はあると思うわ」
「これは助かるな」
「うん、すっごく助かる。ありがとうグレイス」

 笑顔でお礼を言うと、頑張ってねとほほ笑まれる。

「それじゃあ2人とも、いい旅を」
「うん、じゃあまたね」
「またな」
「ええ、またね!」

 笑顔で別れる。
 そして、少しの寂しさと、新しい土地への期待を胸に、聖と春樹はサンドラス王国への門をくぐるのだった。


□ □ □


 2人が門の向こうへと消えていくのを見送って、グレイスは目を伏せ息を吐く。
 わかってはいるのだが、あの2人といると感情が引き摺られ、山下咲希だったころの自分が出てきてしまう。
 精神年齢はずっと上のはずなのに、それは何の役にも立たない。

「……楓、ぜったいに笑うわよね……」

 それこそ指さして笑うとの確信があるが、もうどうしようもない。諦めたようにちょっとだけ苦笑して、そして近づいてきた気配を感じ振り返る。
 ――さて、お仕事の時間ね。

「すまないが、少しいいだろうか」
「――? はい、なんでしょう?」

 目の前には数人の騎士たちの姿。聞いていた通りのそれに、内心頷き、けれど表には出さずに、ただ首を傾げる。

「先ほどまで一緒にいた少女たちのことについて聞きたい」
「……彼女たち、のことですか?」
「ああ、どんな目的で何処に行くと、言っていなかっただろうか?」

 聖と春樹がデウニッツにいる間、セイとハルについて何かと嗅ぎまわっていたとの情報はあったが、やはりまだ疑いは拭えていなかったらしい。まあ、同一人物とまでは思っておらず、何か引っかかっている程度ではあるようだが。

「あの」

 グレイスは周囲をちらりと確認し、ちょっと困ったような表情を浮かべる。

「やめた方がいいと思います」
「なに?」
「確かに可愛いし美人だし、気になるのも仕方ないと思いますけど……」
「は? なにを言って」
「だからと言って、女の子の後を付け回すなんてよくないと思います!」
「なっ」

 騎士たちは絶句。
 そして慌てたように「違う」「そうじゃない」などと口々に言いだすが、どう見ても言い訳にしか聞こえず、狼狽えたように顔を見合わせそのままその場から去って行った。

 それにグレイスは、なんだったのかしら? と言わんばかりに首を傾げた後歩き出し、そして小道へと入る。

「あれでよかったでしょうか?」
「――ああ、じゅうぶんだな」

 すっと、音もなく横に並んだ女性、エインザは満足げに頷く。

「いい加減、うっとうしいからどうにかしてくれと、領主から依頼が来てな。これで帰るだろう」
「そうですね。さすがにうっとうしいからという理由では追い出せませんしね」

 ひたすらひたすら何かを探し回り、嗅ぎまわるイースティン聖王国の騎士たち。正直、非常にうっとうしかったが、それだけでは追い出すことはできない。だが。

「プライドの高い騎士どもだ。明日にでも帰るだろうさ」

 今のグレイスはギルドの所属を示すものを、何もつけていない。ごく普通の恰好をしている。
 そんなグレイスに詰め寄る、明らかに騎士ですという恰好をしたものたちは、それはそれは目立っただろう。
 どうしたのだろうかと、聞き耳を立てていたものたちもきっと大勢いた。
 そして聞こえたその内容は、人から人へと伝わり、変な風に変換されて人々へと広まっていく。

 そう、前世の言葉で言えば『ストーカー』と。

 それはさぞかし居たたまれないことだろう。
 きっと、こんなところにいつまでもいる気になれないに違いない。

「さて、私もあの2人には会いたかったが、次の機会を待つとしよう」
「そうですね、ちょっと先になりそうですけど」

 おそらくサンドラス王国の後は、聖ディモーナ王国にも渡るのだろう。
 次に会うまでに、どんなことを仕出かしてくれるのかしら、とグレイスはちょっと苦笑した。

 それもまた、楽しみである。



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