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ホワイト家

ゲーム内容と真実

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「これだ、これだ!これがホワイト家に代々伝わる馬車だ」

 童心に帰ったように、父上は木箱をしみじみと見入る。

「懐かしいなぁ……この馬車。30年前に乗車した時ぶりだ」
「はぁ」
 
 ルイスが呆れて溜息をついてしまった。
 僕も顔が引きつりそう。

「埃っぽいから外で話しましょう」というルイスの言葉で、外にあるベンチへ移動した。


 
 3人で倉庫近くのベンチに座り、1息つく。まず、その奇妙な箱について説明して欲しい。
 
「えーと、この箱はなんですか?」

 この指輪入れみたいな木箱に、小指を入れたら、王都へ転送だ。その説を押したい。
 
 父上は誇らしげに箱を開け、その中にある鉄球を取り出した。え、馬鹿かな?

「この馬車は3回しか使えないのだ。大切に保管していたんだが」

「使用方法教えてください。時間がないのです。すみません」

 父さんの言葉に、僕の言葉が被る。
 しゅんとへこんでしまった。僕の父上は昔話が長いのだ。
 
 普通の馬なら、ここから王都まで1週間かかる。
 それだと困るだろうから、3月後半から入学式前日まで、特殊な馬車が辺境に来る制度なのだ。

 そして、現在12時はとうに過ぎている。馬車はもう来ない!

 運が悪ければ、1週間遅刻。
 変に目立ってしまい、死亡フラグが立つかもしれん。
 かといって、この謎の物体に頼るのも怖いな。

 
「兄さん、見てください」

 ルイスが僕の腕をギュッと掴み、目を見張っている。
 
 僕らのいるテーブルベンチのすぐ側に、鉄製の馬車?があった。
 馬が不在というより、完全な球体で乗車の仕方がわからない。

 そして僕と対角に座る父上が、白目を向いている。
 この30秒程で何があった?


「ルイス、どういう状況かな?」

「兄さんが愛らしい笑顔で、空を眺めている時の事です。父上が馬車に息を吹きかけ、呪文を唱えました」

 ルイスが馬車を見て、眉をひそめる。
 球体だけどな。

「その瞬間大きくなり、慌てて父上は手を放しましたが……」
「箱を開けたことで、父上は魔力をあれに吸われたのか」

 父上は魔力により発動すると言っていたな。
 魔力が急激になくなって、失禁したんだろう。


 豚のような音を出した父上は、呼吸を吹き返したようだ。
 血走った目で、僕の瞳を覗いてくる。控えめに言って、超怖い。
 
「父上、ありがとうございます。僕のために、家宝?を使ってくださるなんて」

「今すぐ乗るんだ!」

 今度は父上が、僕の言葉に声を被せて、叫んだ。
 優しく穏やかな父上の荒れた声なんて初めて聞いた。僕も、ルイスも背を伸ばしてしまう。
 
 逆鱗に触れてしまったんだろうか……。

 キィイイイー!という甲高く耳障りな音が聞こえる。
 馬車の方を見れば、球体の上部に穴があるようで、黒い煙が空へ昇っている。
 
 馬車じゃなくて、機関車のようだな。

「出る、出てしまう」と産まれる、産まれるのテンションで言う父上。

「兄さん、荷物は?」
 
 ヤバい、荷物を持っていない。
 
 満面の笑みで言うルイスが、僕の腕を強く掴んだ。喜びが隠しきれていないぞ。
 
 このまま出発しても、碌な事にならないな。   
今日の出発は諦めるしかないの?
 
「父上、すみません。あの馬車らしき何かには乗れません」
「そうか……」

 肩を落とした父上は、何故か焦点が合わない。挙動不審だ。

 青ざめた顔で僕を見てくる。この人、大丈夫なのかな。変な動機がする。
 
「すまない。ずっと悩んでいたが……」
「はい?」

 足に何かが巻き付いている。
 
 テーブルの下を覗き込むと、周囲の雑草が急速に伸びたようだ。ツタのように、僕の足に絡まっている。
 
 意味が分からない!僕はどうして拘束されているんだ?

 横に座っているルイスも、この状況に頭が追い付いていないようで、唖然としている。
 
「国王様からの命令なのだ。私の事は、いくらでも殴ってくれて、かまわない!」
「いや、説明」

 草が僕の上半身まで上ってくる。
 
 ほんと、ヘルプ!なんで、こうなった!?
 
「今すぐ兄さんを放してください!」
 
 ルイスが父上に向かって、怒鳴る。

 どんどん伸びていく雑草に、巻き付かれる。
 身をよじっても、無意味だ。

 僕は神輿に担がれるように、馬車まで運ばれてしまう。
 視界に入るもの全てが、ぼやけて……。

 
 
 ゲームの映像が頭を駆け巡った。
 
 そうだ、僕は人間じゃない。

 インキュバス……淫魔だ。
 
 
 ノアは赤子の時、王都の孤児院に捨てられていた。
 
 淫魔はフェロモンで周囲の人を操り、惑わし、一国を破滅させる程の脅威だ。
 妖艶な外見と狡猾さで、味方を増やし、邪魔者を排除していく魔物。
 
 だから、100年以上前に殲滅されたのだ。
 そして、僕は最後の生き残り。

 赤子の処刑は人道に反してるいと、ホワイト家へ引き取られたんだ。
 15歳になってから、淫魔としての本能は活性化する。つまり、僕は王国にとって危険な存在。

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