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4話目

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異世界だとヒールと唱えれば傷なんて痛みもなく綺麗に消えた。
久しぶりに感じる傷の痛みに耐えると軟膏をガーゼに塗り、傷口に当てると散らばっていた包帯を上から巻いた。

スキルのお陰か痛みが和らいだ。

人の悲鳴は幾分離れた場所から聞こえる。
皆遠くまで逃げたようだ。
逃げ残ったのは自分くらいかと落胆する。

現れたモンスターたちがあれだけなのか分からない。
診療所の外がどうなっているのか分からない。

だがここで足を止めていたのではまた狼たちが戻ってきてしまうかもしれない。

落としたハサミを拾い深呼吸する。

(……どうにかして逃げないと)

恐る恐る診療所の外を覗く。

そこら辺に倒れた人らしき物があった。
倒されたモンスターらしき物もあった。

見るからに生きてなどいない亡骸を見て目を背ける。

でもここから逃げるためにはいちいち逸らすわけにもいかない。
覚悟を決め辺りを見渡した。

(生きているモンスターは……見えるところには居ない、でも死角に隠れていたらどうしよう)

深く深呼吸する。

(落ち着け……落ち着け……どうせここにとどまってても先ほどの狼が戻って来てしまう)

まずは隠れられそうな場所を目で確認し、辺りを伺い飛び出した。

(なるべく音を立てずに素早く……速っ!!)

自分が思っていた以上にスピードが出て足がもつれそうになる。

(さっきレベルが上がったんだった、ゆっくりゆっくり!!)

転ばないようにスピードを落として建物の影に移動した。

(ここから病院まではせいぜい数百メートル、何とかなるかも)

スタンピードの規模が分からないけれども物資も豊富な病院にまでたどり着けたら何とかなるだろう。

そう希望をもって走り出した。

いくつ目かの建物の影に入る。
人の悲鳴やモンスターの声も近くなる。
ここから先はさらに注意して進まなければいけない。

そんな事を思いながら建物の影から辺りを伺うと建物の中から声がした。

(……人が居る?)

助けてもらえるかもしれない。

僅かな希望をもって声の聞こえる窓に近寄る。
そして中の様子を伺った。
どうやら数人中に居るようだ。

「……だ。 なぜ……て……る!!」

「し……。 わ……てし……じゃ……か!!」

何やら揉めているようだ。
今中に入るのは得策じゃなさそうだ。

「声……お……い。 しず……ろ」

耳を澄ませて聞いてみる。

「それで……あの女は始末できたのか」

「診療所にはモンスターが大勢押しかけていたのは確認したぞ」

「ふふ……ならば命は無いな」

年老いた男性の声が可笑しそうに笑う。

(あれは見覚えあるな……)

「あの女がモンスターから逃げきれるとは思えんからな。 ……それで……これからどうするんだ」

そう問いかけている方には若干焦りの色が見えた。

「……さあな」

記憶を探れば研究所でいつも嫌味を言ってきた頭が寂しくなってきた小太りのおっさん達だ。
問われた方も余裕はなさそうだ。

「さあなとはなんだ!! 話では数匹のモンスターをけしかけるだけじゃなかったのか、なんだこのスタンピードは!! ……話が違う!!」

「知らん!! お前が金を出したんだろ? 雇ったのもお前じゃあないか」

「俺は金しか出してないぞ、お前があの女を始末するために金さえ出せば何でもやってくれる探索者に声を掛けたんだろ!! どうなってるんだ!!」

「俺はあの聖女もどきの目障りな女を始末できれば誰でも良かった。 何の能力のない無能がワシらより価値があるだなんて意味が分からん。 橋立教授もそう言っておられた!! 国も手違いで手に入れてしまって処分に困ってたから感謝するだろうと。 だからわしは始末してくれるならごろつきでも構わんと思い、適当に声を掛けたにすぎん、顔も見てないしな」

「は? じゃあこの後どうするんだ!! まだそこいらにモンスターがうようよしてるんだぞ!!」

「まぁ……そんなに焦るな。 ここから病院まで目と鼻の先だ。 すぐに援軍が来るだろう!! 立てこもってさえいれば助かるさ、幸いここには食料も水も保管されているじゃないか」

2人の男性の話はまだ続いていたが、話の内容を聞いて頭が真っ白になった。

(聖女もどきって……私の事? 始末? ごろつきの探索者が私を狙ってるって……なんで?!)

言われた意味をゆっくりと咀嚼し手に力が入る。
力を入れた腕に痛みが走る。

(痛っ……)

背筋が冷たくなる。
……逃げなきゃ。


「ヒール……」

異世界の癖でぼそっと回復魔法をつぶやいた。
異世界に居た時はこの言葉を呟けば怪我はたちまち完治していた。

(……あ、こっちでは使えないんだった……治る訳ないか……)

落ち着け落ち着けと深呼吸を繰り返す。

(どうしよう……このまま病院に戻ってもまた狙われるだろうし……でもどこに行けば……くそ!! 良い給与だったのに!!)

このままここにとどまっていては危険なままだ。
さあ、どうしようかと腕をさする。

(ん? ……あれ?)

さっきまであった痛みが消えた。
包帯とガーゼを取り傷口を見る。
さっきまであった裂傷は綺麗に消えていた。
腕に残っていたのは傷があった証拠の血がにじんだ軟膏だけだった。

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