婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽

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気を引く気はない!

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今日の夕食はクロード様とご一緒する予定だから、邸の自分の部屋にドレスをとりに行った。
どこに行くのかわからないけど、多分レストランだろう。
夜会に行くようなドレスではなく、落ち着いた、スカートの広がりのないドレスを選んだ。
しかし、またドレスが減っている。
どうせメイベルがとったのだろう。

「お姉様、邸に戻ったのですか?」
「いいえ。…メイベル、また私のドレスをとったのね。」
「使わないのを悪いと思わないのですか?せっかくお父様が買って下さったのに。」

勝手にとるのは悪いと思わないのか!

「部屋には勝手に入らないでね。…私は今から出掛けますから。」
「どこに?」
「お食事です。」

私と一緒にメイベルを部屋から出し、扉を閉めると、丁度ハロルド様がいらした。
メイベルはすかさずハロルド様にすり寄って行った。

「どうしたんだ?メイベル。」
「お姉様が外で食事をすると。私達とは食事が出来ないと言っているんですわ。」

メイベルの言葉にハロルド様はキッと私を睨んだ。

「ラケル!君はどうしてメイベルに意地悪なんだ。俺達が追い出しているみたいじゃないか!」
「食事に行くと言っただけですけど。」
「それが当て付けだ。わざわざ、外で一人食事をするなんて、」
「一人ではありませんよ。お誘いを受けましたから。」

するとメイベルが、プッと笑みをこぼした。

「お姉様ったら、そんな見栄を張らなくても。きっとハロルド様の気が引きたいのですわ。」
「そうなのか?メイベルに意地悪をしてまでそんなことをするなんて…俺の気は引けないぞ。」

気を引く気は全くない!
ハロルド様は私が本気で好きだと思っていたのかしら。
一度も好きになったことはありませんが。
むしろ、婚約破棄されて良かったと思いましたが。
メイベルも私がクロード様からお誘いを受けているなんて思いもよらないでしょうね。

「お約束の時間がありますので失礼しますわ。」

そう言いながら、ショールを肩にかけ、何故か勝ち誇った二人の横を振り向かず、淡々と通り過ぎた。

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