子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

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氷の伯爵様と笑わない子供


リクハルド様の二度目の婚約者になった私は、マクシミリアン伯爵邸に部屋を準備された。しかも、リクハルド様の続き部屋だった。ここに住んでいいのだろうか。

マクシミリアン伯爵領の街に宿をとっていたのに、リクハルド様が部屋を準備してくれていて、私は今夜からマクシミリアン伯爵邸に住むことになった。

私の薄情なお父様は早々に娘を置いて一人で海外へ行ってしまったから、お父様もいない。つまり、帰る家がないのだ。王都の邸は早々に売っぱらってしまったし。

「……キーラ。入っても?」
「はい。リクハルド様」

夜になり、マクシミリアン伯爵邸に来た私の部屋へとリクハルド様がやって来た。

リクハルド様が扉を開けると、そこには彼と小さな子供がいた。茶髪に薄い琥珀色の瞳だ。リクハルド様とは違う。子供は、リクハルド様の足に無言でしがみついている。

「そろそろ食事だ。来てくれるか?」
「はい」

食事に誘いに来たので、リクハルド様に近づいた。視線を感じると、子供が警戒心を持った目で私を見ている。

確かに、父親であるリクハルド様が未婚でも、子供には関係のないことだ。きっと、子供なりに思うところが多々あるのだろう。
子供の不安な気持ちを取るようににこりとすると、子供もリクハルド様と同じでにこりともしない。

子供は親に似るというが……。愛想のない子供だった。

「ああ、この子はシリルだ」
「こちらがリクハルド様の……」
「……そうだな」

子供にも冷たい言い方だ。でも……

「私に紹介してくださったのですね。シリル様。どうぞ、よろしくお願いしますね」

何も言わないシリル様に、リクハルド様が一呼吸おいて自己紹介を促した。

「シリル。彼女が結婚相手のキーラ・ナイトミュラー男爵令嬢だ。挨拶を」

突然の結婚ですからね。初めて会ったその日に婚約を結んで、一緒に暮らすことになりました。

そう思っていると、シリル様が声を発した。まだ、子供らしい可愛い声だ。

「……は、初めまして。シリルです」
「まぁ、ご挨拶が上手ですね。可愛いですわ。私は、キーラです。よろしくお願いしますね」
「……」

驚いたように目を見開いたシリル様とリクハルド様。可愛いなど、子供であろうと男の子に言ってはならなかったのだろうか。

マクシミリアン伯爵家は難しいのです。そう思いながら、持って来た小袋に入ったお菓子を一つ取った。

「ああ、そうですわ。シリル様にも、一つどうぞ」

シリル様に渡すと、緊張しながらも小さな手でお菓子を受け取った。頬が紅潮している。やはり、子供はお菓子が好きなものだ。

「あの……」
「せっかくだ。いただきなさい」

不安気にお菓子を両手で持ったままのシリル様が見上げると、リクハルド様が冷たく言う。

「マクシミリアン伯爵領の街で買ったものですけど、きっと美味しいですわ。私の分もあるのでお気になさらずに」
「では、食事だ。シリルは、もう休みなさい」
「はい。お父様」

ぶっきらぼうな紹介が終われば、リクハルド様がシリル様を部屋へと帰るように促した。素直に返事をして去っていくシリル様の背中はどこか寂しいものだった。

「あの……ご一緒に食事をしなくてもかまいませんのでしょうか? 私なら、気にしませんけど……」
「シリルの食事は終わっている」

そうでした。突然やって来たから、すでに私が到着したのは夜だった。子供はもう寝る時間なのかもしれない。

「差し出がましいことを申しました」
「気にしなくていい。食事は、シリルとはいつも別だ」
「別なのですか?」
「子供はまだ晩餐会に参加できる歳ではない。教育係のもと、マナーも教えている」

まぁ、それが普通の貴族の在り方だ。

それにしても、髪の色も眼の色もリクハルド様と違う。ジッとリクハルド様を見ても似ても似つかない。母親似なのだろう。

「なんだ? 俺の顔に何かついているか?」
「いえ……リクハルド様。食事に迎えに来てくださってありがとうございます」
「……特別なことではないだろう。それよりも、本当に俺と結婚をしていいのか?」

リクハルド様の噂は聞いたことがある。彼は20歳の時には婚約者がいた。でも、彼女は馬車の事故で他界。突然の出来事だったのだ。

そして、結婚前に産んでいた、彼女の忘れ形見であるシリル様だけがリクハルド様に残った。彼女の実家は、美しい娘が突然他界したことにショックを受けて、病んでいると言う。

結婚直前だったリクハルド様は、それから誰とも婚約をしない。ただでさえ、周りから恐れられているリクハルド様。昔の彼女がいまだに忘れられないという噂もあった。

その意志確認なのだろうか。
私に、『結婚していいのか』と聞くのは。

実際に子供を引き取ってずっと結婚もせずに独り身なのだ。忘れられないのは本当だと思う。

では、どうして私と婚約を結んでくれたのだろうか。

思わず、首を傾げた。

私はもう誰とも結婚など出来ないだろうし、修道院など私には合わない。むしろ、私と婚約をしてくれるリクハルド様には感謝するべきなのだろう。

「リクハルド様」
「なんだ?」
「私との結婚を考えてくださってありがとうございます」

感謝を込めて笑顔でリクハルド様に言った。







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