4 / 83
火花散る1
__翌朝。
リクハルド様が仕事へと行く。そのために、お見送りに来ていた。
「……シリル様は、お見送りに来ないのですか?」
「シリルは、人見知りだ……あまり、人と打ち明けない」
昨夜の食事で歳を聞けば、シリル様は五歳だと言う。母親はシリル様が幼い頃に他界して、リクハルド様はお世辞にも優しい雰囲気ではない。子供の教育としてどうなのだろうか。
うーんと考え込んでいる間に、リクハルド様に外套マントをかける令嬢がいた。
「リクハルド様。お気をつけてくださいね」
「……シリルを頼んだぞ」
「もちろんですわ」
その令嬢を、リクハルド様が手で避けて私の前にやって来た。
「キーラ。昨夜は紹介できなかったが、こちらはシリルの教育係であるルイーズ・ウェルティ子爵令嬢だ」
「シリル様の教育係……では、シリル様にお会いするときは、お伝えしたほうがいいでしょうか?」
「シリルに?」
「はい。だって、同じ屋根の下で暮らしますから……朝の挨拶はしたいですわ」
「そうだな……」
リクハルド様が、外套マントを羽織っている手が一瞬だけ止まった。一瞬だけだけど、驚いたのだと思う。しかし、まったく感情が表に出ないせいか、驚いたかどうか自信を持って言えない。
そのうえ、ジッとリクハルド様に見つめられると眼力が強すぎて怖い。直視できないでいると影が差した。顔を上げると、リクハルド様の顔が近づいてきていた。
頬にそっとリクハルド様の唇が触れた。
「あの……」
「婚約者への朝の挨拶だ。では、行ってくる」
リクハルド様が淡々と言い、玄関前に準備された馬車に乗り込んで出発してしまった。
残された私は頬を押さえて呆然としていた。
♢
リクハルド様はよくわからない人だ。でも、あの素晴らしい外見だから、シリル様がいても、婚約の申し込みは多かったはず。選り取り見取りだと思う。
『私と婚約をすれば、真実の愛に出会える』そんなジンクスに頼る必要はない気がする。それとも、彼は真実の愛を求めているのだろうか。そんな夢見る伯爵様には見えなかったけど。
それにしても、大きな邸だ。お城ほどもあるマクシミリアン伯爵邸は広すぎて、一日では回れない気がする。
広い邸に多くの使用人たち。今も、メイドたちがおしゃべりをしながら仕事に精を出していた。
「お菓子が捨てられているわ……いいのかしら?」
「でも、ルイーズ様が決めたことよ。私たちは何も言えないわ……シリル様はお菓子が嫌いだというし……」
「子供なんだから、お菓子ぐらい食べればいいのに……」
「睨まれたら、解雇されるわよ」
「ううっ……それは、困るわね」
お菓子? 何の話しだろうか。でも、お菓子には心当たりがあった。もしかしてと思わずにはいられない。
「……あの、今のお話ですが……」
「奥様!? も、申し訳ありません」
いや、奥様ではありません。まだ、結婚をしてないですし、実際に結婚するかどうかはわからない。なぜなら、私はラッキージンクスの令嬢と呼ばれて、ラッキージンクス目当ての婚約しかしたことがないのだ。
「大丈夫ですよ。おしゃべりを咎めるつもりはないですから。それよりも、シリル様はお菓子が嫌いなのですか?」
「はい。だから、いつもお菓子は食べられなくて……」
「でも、お茶の時間はどうされているのですか? 子供にもアフタヌーンティーの時間がありますよね」
「それは……私たちには、わかりません。申し訳ございません」
お菓子が嫌いなら、あんなに頬を紅潮させるだろうか。
「嬉しそうに見えたのだけど……」
シリル様に余計なことをしてしまった気がする。メイドたちは、緊張したままで仕事の手が止まっていた。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまったわね」
「いえ、そんな……」
「お邪魔したついでに、シリル様のお部屋を教えてくださるかしら?」
にこりとして言うと、メイドたちが顔を見合わせた。
「あの……今は仕立ての時間ですので……ルイーズ様が静かにするようにと言われて、訪問を嫌がるんです」
「そうなの? でも、邪魔はしないわ。様子を見るだけだから……お願いします」
両手を合わせてお願いすると、メイドたちが言いにくそうに教えてくれた。
リクハルド様が仕事へと行く。そのために、お見送りに来ていた。
「……シリル様は、お見送りに来ないのですか?」
「シリルは、人見知りだ……あまり、人と打ち明けない」
昨夜の食事で歳を聞けば、シリル様は五歳だと言う。母親はシリル様が幼い頃に他界して、リクハルド様はお世辞にも優しい雰囲気ではない。子供の教育としてどうなのだろうか。
うーんと考え込んでいる間に、リクハルド様に外套マントをかける令嬢がいた。
「リクハルド様。お気をつけてくださいね」
「……シリルを頼んだぞ」
「もちろんですわ」
その令嬢を、リクハルド様が手で避けて私の前にやって来た。
「キーラ。昨夜は紹介できなかったが、こちらはシリルの教育係であるルイーズ・ウェルティ子爵令嬢だ」
「シリル様の教育係……では、シリル様にお会いするときは、お伝えしたほうがいいでしょうか?」
「シリルに?」
「はい。だって、同じ屋根の下で暮らしますから……朝の挨拶はしたいですわ」
「そうだな……」
リクハルド様が、外套マントを羽織っている手が一瞬だけ止まった。一瞬だけだけど、驚いたのだと思う。しかし、まったく感情が表に出ないせいか、驚いたかどうか自信を持って言えない。
そのうえ、ジッとリクハルド様に見つめられると眼力が強すぎて怖い。直視できないでいると影が差した。顔を上げると、リクハルド様の顔が近づいてきていた。
頬にそっとリクハルド様の唇が触れた。
「あの……」
「婚約者への朝の挨拶だ。では、行ってくる」
リクハルド様が淡々と言い、玄関前に準備された馬車に乗り込んで出発してしまった。
残された私は頬を押さえて呆然としていた。
♢
リクハルド様はよくわからない人だ。でも、あの素晴らしい外見だから、シリル様がいても、婚約の申し込みは多かったはず。選り取り見取りだと思う。
『私と婚約をすれば、真実の愛に出会える』そんなジンクスに頼る必要はない気がする。それとも、彼は真実の愛を求めているのだろうか。そんな夢見る伯爵様には見えなかったけど。
それにしても、大きな邸だ。お城ほどもあるマクシミリアン伯爵邸は広すぎて、一日では回れない気がする。
広い邸に多くの使用人たち。今も、メイドたちがおしゃべりをしながら仕事に精を出していた。
「お菓子が捨てられているわ……いいのかしら?」
「でも、ルイーズ様が決めたことよ。私たちは何も言えないわ……シリル様はお菓子が嫌いだというし……」
「子供なんだから、お菓子ぐらい食べればいいのに……」
「睨まれたら、解雇されるわよ」
「ううっ……それは、困るわね」
お菓子? 何の話しだろうか。でも、お菓子には心当たりがあった。もしかしてと思わずにはいられない。
「……あの、今のお話ですが……」
「奥様!? も、申し訳ありません」
いや、奥様ではありません。まだ、結婚をしてないですし、実際に結婚するかどうかはわからない。なぜなら、私はラッキージンクスの令嬢と呼ばれて、ラッキージンクス目当ての婚約しかしたことがないのだ。
「大丈夫ですよ。おしゃべりを咎めるつもりはないですから。それよりも、シリル様はお菓子が嫌いなのですか?」
「はい。だから、いつもお菓子は食べられなくて……」
「でも、お茶の時間はどうされているのですか? 子供にもアフタヌーンティーの時間がありますよね」
「それは……私たちには、わかりません。申し訳ございません」
お菓子が嫌いなら、あんなに頬を紅潮させるだろうか。
「嬉しそうに見えたのだけど……」
シリル様に余計なことをしてしまった気がする。メイドたちは、緊張したままで仕事の手が止まっていた。
「ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまったわね」
「いえ、そんな……」
「お邪魔したついでに、シリル様のお部屋を教えてくださるかしら?」
にこりとして言うと、メイドたちが顔を見合わせた。
「あの……今は仕立ての時間ですので……ルイーズ様が静かにするようにと言われて、訪問を嫌がるんです」
「そうなの? でも、邪魔はしないわ。様子を見るだけだから……お願いします」
両手を合わせてお願いすると、メイドたちが言いにくそうに教えてくれた。
あなたにおすすめの小説
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。