子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

文字の大きさ
29 / 83

胸の痛みと3つのケーキ

しおりを挟む

買い物をして邸へと帰れば、リクハルド様は書斎にいると言う。さっそくシリル様にお土産のケーキを持って書斎へと行った。

「シリル様。ただいまキーラが帰りました!」

元気に書斎の扉を開けると、リクハルド様とルミエル様が抱き合っている。思わず、開けた扉のところで足が止まってしまった。

「キーラ?」

リクハルド様は慌てる様子もない。

「あら、お邪魔でしたか」
「何の邪魔だ」

私を見て、リクハルド様がそっとルミエル様の肩に手を置いて身体を離すと、ルミエル様は照れた顔を抑えながらちらりと私を見た。

「シリル様にケーキを買ってきたので、お持ちしたのですけど……」
「では、お茶の時間にしよう」
「はい。私はシリル様をお呼びしますね」

書斎に入ることなく、笑顔でそっと扉を閉めた。
……リクハルド様は、シリル様と一緒にいるかと思って書斎へ行った。だけど、予想外にもリクハルド様と一緒にいたのは、ルミエル様だった。

ちょっと失敗したかしら?

胸がチクンとした。見ないほうが良いものを見た気分でシリル様を迎えに行けば、部屋で剣を振り回していた。
なんて可愛いのだろうか。これぞ無邪気な子供の姿だ。

「シリル様」
「キーラ様……!」

私に気づくと、シリル様が照れた表情で駆け寄ってくる。足元に抱き着いてくるシリル様の目線に合わせて抱き寄せた。

「今、帰りました。シリル様はとっても強くなりそうですね」
「そしたら、キーラ様を守ってあげます」
「まぁ、シリル様が守ってくださるのですか?」

シリル様がこくんと頷いた。

「嬉しいですわ。シリル様が私の騎士様ですね」
「絶対に強くなります。だから……」
「はい。じゃあ、立派な騎士様になるためにおやつにしましょう。美味しそうなケーキを買ってきました」
「ケーキ……」
「チョコレートのケーキですよ。使用人たちにも買ってきたので、階下へ行ってすぐにお茶も頼んで来ますね」
「僕も行きます!」
「では、ご一緒下さい」

名残惜しそうに剣を置いたシリル様に手を出せば、そっと手を繋いでくれた。

階下の使用人たちの部屋へと行き、そのまま御者の部屋へと行った。

「お加減はいかがかしら?」
「奥様っ!」

部屋で休んでいた御者の見舞いに行くと、慌てて御者がベッドから降りようとしていた。

「そのままで大丈夫ですよ。先日のお詫びにお菓子を買って来たんです」
「じ、自分にですか!?」
「ええ、気に入るといいのですけど……」
「いいのでしょうか?」
「何か問題でも? 使用人たちにも、みんなで食べられるお菓子を買ってきたので、気を遣う必要はないですよ?」
「しかし、すぐに魔法で治していただきましたので……その、特に不自由はなかったというか……」
「では、クリス様に感謝ですね。じゃあ、クリス様にも、お礼をしますね。お食事でも誘うかしら?」

そう言えば、王都に来てから世話になったのに、クリストフ様に何もお礼をしてないと思っていると、ドレスにしがみついているシリル様の手に力が入っていた。

「シリル様からも、お菓子をお勧めしてください」
「おすすめ?」
「はい。どうぞ、と言ってくださればいいのですよ」
「どうぞ?」
「お上手ですよ」

シリル様が御者に声をかけたことに、御者が驚いた。今まで、まともに話すことすらなかったのだろう。階下に来ることもなかった。

「では、ゆっくりと休んでくださいね」
「ありがとうございます……奥様」

シリル様と手を繋いで部屋を去る二人の姿を見て、本当の親子みたいだと御者が思った。

お茶の準備を始めているケヴィンに声をかければ、お土産のお礼を言われる。

「ケヴィン。私のお茶は部屋に持ってきてくれる?」
「リクハルド様とご一緒しないのですか?」
「それが、ルミエル様が来ることを知らなくて、三人分しか買ってこなかったの……ルミエル様だけ違うのを出すわけにはいかないし、私がご遠慮するわ」
「しかし……」

ケヴィンが、お茶に私だけが出ないことを怪訝な表情で言う。足元にいるシリル様も眉間のシワをよせて私を見上げている。視線が痛い。

「キーラ様は、一緒にお茶をしないのですか?」

俯くシリル様の目線に合わせて腰を下ろした。

「……私はお部屋でお茶をしますね。少しやることもありますし……私のことは気にせずに、シリル様はお茶を堪能してくださいね」

シリル様の頭をそっと撫でた。そうして、リクハルド様とルミエル様のいるところへと連れて行くと、二人はサロンでお茶を待っていた。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫
恋愛
 若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。  婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?  そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。  主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。 ※他のサイトにも投稿しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...