子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

文字の大きさ
37 / 83

母親の生家

シンクレア子爵邸へと到着すると、今か今かとシンクレア子爵が待ち構えていた。以前も細身の外見だったシンクレア子爵は、ずいぶんと痩せていた。

「リクハルド様。お久しぶりです」
「ご無沙汰しておりました。リクハルドです」

馬車から降りて、シンクレア子爵に挨拶をする。続けてシリルが降りてくると、シンクレア子爵の表情が緩んだ。初めて見る大人のせいか、シリルが足にしがみついてくる。

「その子が……」
「セアラの子供です。シリル。セアラの父上だ」

シリルに挨拶を促すと、緊張しながら前に出て、挨拶をした。

「シリルです。はじめまして。お祖父様」

キーラが教えた挨拶を思い出して言ったのか、以前よりもはっきりと挨拶をしたシリルに、シンクレア子爵が両手をシリルの肩に乗せて感動していた。

「セアラに似ている。子供は本当だったのか……」

ずっと、セアラが密かに子供を出産していることを信じてなかった。いや、信じたくなかったのだろう。だから、ずっとシリルの存在を否定していた。だけど、日に日にセアラが他界して、唯一残されたシリルが、娘の忘れ形見だと思い始めたのだ。

そうして、セアラの面影が残るシリルを見て、確信に変わった。初めて会う祖父なのに、シリルは呆然としている。

シンクレア子爵が、感動して泣いているからかもしれない。

「シリル。どうした? ほら、土産を渡せ」
「お祖父様。どうぞ」

淡々と大事に抱えていたセアラの肖像画を出すと、シンクレア子爵が涙ぐんで受け取った。

「私にか?」
「お母様の絵です」
「セアラの……大事にしてくれていたのだな……ああ、嬉しいものだ」

セアラの肖像画は捨てられない。シリルにとって大事なものだからだ。

「ルミエル。よく連れて来てくれた。感謝するよ……」
「私は何も……そろそろお会いになっては? と根気よくお話ししただけです」
「セアラが他界してから、君がよく来てくれたおかげだ」
「まぁ、シンクレア子爵様……親友のお父上ですもの。気にかけるのは当然のことですわ」

セアラが他界してから、病んだシンクレア子爵を気にして、ルミエルは何度も足を運んでいた。そのせいか、シンクレア子爵はルミエルを娘のように思っており、三人で並んだ姿を微笑ましく見ている。

「それよりも、大事なお話は邸でしましょう。リクハルド様がお疲れです」
「ああ、そうだな。少し休んで晩餐で話そう。シリルや。セアラの部屋においで」
「お母様の?」
「そのままにしてある。是非とも見てみるといい」

シンクレア子爵に連れられてセアラの部屋へと行くと、今でも掃除は欠かしてなく、綺麗なままだった。

「まぁ、あの頃のままですわね」

ルミエルが懐かしそうに言う。

「そうなんですか? お父様」
「さぁ、あまりシンクレア子爵邸に来てないから何とも……」

はっきり言えば、覚えてない。あの頃は、王都の騎士団の宿舎で過ごしていたから、セアラとも、あまり会うことはなかった。
そのせいで、セアラに責められたことがあった。「たまにはお会いになってください」と。

そうして、浮気していることにもまったく気付かなかった。

「ここは、シリルの部屋にするつもりだ。今夜はここで過ごせばいい」
「ここで?」
「ああ、本当にセアラに似て……どうだ? 気に入ったか?」
「よくわかりません」

淡々と応えるシリルを上からジッと見下ろすように顔を近づけたシンクレア子爵。シワのある初老の笑顔を向けられたシリルは、目を大きくして呆然とした。緊張しているのだろうが、驚いているのはわかる。他人には、わからない反応だけど。そんな反応の薄いシリルを抱き上げた。

「どうした?」

すると、シリルがギュッと抱きついてきた。

「緊張しているのか? あまり笑わないのう……セアラはよく笑う娘だったが……」
「そのようで……シリルは人見知りです」

あまりどころか、まったく表情を崩さないシリルを見てシンクレア子爵が戸惑う。だけど、最近はキーラのおかげで少しずつ表情が出てきていた。それでも、まだキーラ以外にはそう表情を崩さないでいる。

「やはり、子供には母親が必要なのではないか?」
「そうでしょうか……」

シンクレア子爵が言う。
キーラに、母親を求めて婚約を受けたわけではない。だけど、シリルが唯一懐いているの、キーラだけなのだろうと思える。

「シリル。母親が欲しいか?」
「お母様はいます」

ちらりとシンクレア子爵が持っているセアラの肖像画を見るシリル。この子には、母親はセアラということなのだろう。まだ、新しい母親という認識がないのだ。

「そうだな……だが、キーラはどうだ?」

すると、眉間にシワを寄せて睨むシリル。

「なんだよ。その顔は……」

キーラの話になると、どうもシリルの顔が不機嫌になる。思わず、ため息がでた。

「……わかったよ。どのみちキーラを迎えに行くつもりだった。明日には戻るから、一度王都の邸に戻る。かまわないか?」
「キーラ様も来ますか?」
「絶対に連れてくる」

ここにいれば、ルミエルが夜にはやって来そうだと思える。それ以上にキーラが気になっている。シリル一人で来させられなくて、一緒に来た。一人置いていくことに不安はある。

だけど、ルミエルのことを疑われたままでいるのも不安だった。

「シンクレア子爵。少し早いが……これで、失礼します」
「晩餐もご一緒しようと思っていましたが……」
「少々用事があります。ケヴィンの部屋はシリルの部屋のそばにしていただきますか?」
「それはかまいませんが……執事を?」
「シリル一人を置いていくので……連れて来たメイドと下僕(フットマン)も何かあればすぐにシリルのところに来させてください」
「では、執事は向かいの部屋を用意しましょう」
「感謝します」

執事の部屋を上階にすることはない。だけど、現在はシリルの教育係も世話係もいない。
ルイーズのことがあってから、すぐには次の教育係を決めようとは思わなかったのだった。

その時にバタバタとケヴィンがやって来た。

「リ、リクハルド様!」
「どうした? 邸で騒ぐものではない」
「し、失礼いたしました! しかし……っ! 邸から伝達が来まして……」
「何の伝達だ?」
「それが……奥様が出ていったと」

思わず、青ざめフラリと倒れそうになる。

なぜ、出ていく!?

浮気をしたわけではない。だが、色々不味い気がしてきた。抱っこしているシリルが不審な目で睨んでいるからかもしれない。

「すぐにキーラを連れ戻すから心配しないように」
「意地悪しませんか?」
「あれは意地悪ではない」
「僕も一緒に行きます」
「早馬で行くから、シリルはここにいなさい」
「むぅ」
「だからその顔はやめろ」

シリルを降ろすとシンクレア子爵が「ワシといよう」と声をかけてくる。

「セアラの好きだった菓子もある。食べてみないか?」
「お母様の?」
「ああ、夕食もセアラの好きなものばかり準備しておる」
「……食べます」

セアラのことには興味ある様子で頷くシリル。

「では、すぐに出る。明日には迎えに来るから、何かあればケヴィンを頼れ」
「はい」

シリルが不満気ながらも返事をする。

「では、ケヴィン。あとは頼んだ」
「かしこまりました」

そうして、急いで王都へと帰った。






感想 13

あなたにおすすめの小説

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

《完結》とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫
恋愛
 若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。  婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?  そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。  主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。 ※他のサイトにも投稿しています。

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。