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滲み出ている闇

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あの後、ヴェイグ様はアベルとどこかへ行ってしまった。
カレディア国の祝祭には、ヴェイグ様がシュタルベルグ国から出席するというから忙しいのだろうけど……。

私は、ヴェイグ様と一緒の寝室で昼の続きのパズルを必死でしていた。そして、皆が寝静まったであろう時間にヴェイグ様が帰ってきた。

「今帰ったが……本当にパズルがお気に入りだな……」
「カレディア国では、毎日忙しくて自分の時間などありませんでしたから……それよりも、ヴェイグ様は夜までお仕事ですか?」
「リリノアが来たからな……ここに、セレスティアがいることがバレないように、少し邸の周りに魔法の仕掛けもして来た」
「だから、すぐにどこかに行かれたのですか?」
「そうだが? 他に理由が?」
「女二人に挟まれて逃げたのかと思いました」
「逃げる理由にならないな」

経験済みですかと言いたくなるほど、女慣れしている雰囲気を感じる。

「……ヴェイグ様は、婚約者がいたのですね」
「正式に婚約しているわけではない」
「リリノア様が王妃様の姪なら、結婚のお断りは難しいのでは?」
「俺は断るぞ」

きっぱりと言うヴェイグ様にこの男なら、本当に断りそうだ。
ヴェイグ様は、ソファーに向かってマントを脱ぎ捨てると、シャツを緩めながらベッドサイドに腰を下ろした。

「確かに、リリノアは王妃の姪だ。結婚は勧められていたが、正式には受けてはいない」
「王妃様のご紹介なら断れないのでは……」

一国の王妃の姪、しかも、リリノア様は若くて可愛い感じだった。断る男がいるのだろうか。
身分も良く、家柄もいいのだ。

「結婚はセレスティアだけとするから、気にしなくていい」
「ご本人は、そう思ってないようですよ? 勘違いさせるような行動は慎むべきです」
「勘違いさせたかな? 勝手に勘違いしている気がするが……」

だったら、なぜ、このヴェイグ様の邸にリリノア様がいつも使っている部屋があるのでしょうか。
そう思いながら、最後のパズルのピースをはめた。ヴェイグ様に視線を移すと、おいでというように手を出されて立ち上がり、少しだけヴェイグ様に近づいた。

「でも、お部屋があるのは、婚約者だからではないのですか?」
「いつも使っている客室だが……気にすることはない」
「でも、婚約者がいるなら邪魔をしたくないのです」
「言っとくが、シードは返さないぞ」
「そういうわけでは……」
「もしかして、機嫌が悪いのか?」

そう言って、ベッドに座っているヴェイグ様が私の手を取った。怒っているつもりはないけど、また同じことが起きると思うと胸が重くなるのは感じている。
でも、私自身よりも、ヴェイグ様のほうが私の気持ちに気付いている気もした。

「さりげなく、手を握らないでください」
「好きだから握るんだが……」

思わず、不機嫌な様子で言ってしまう。いつもこうだ。だから、マティアス殿下と笑い合うこともなかった。でも、マティアス殿下と違うのは、ヴェイグ様は私から手を引かなくて……。

「本当ですか?」
「本当だ……それに、セレスティアは一人にしておけない」
「一人でも生きていけますよ?」
「無自覚なのか、強がっているのかよくわからんが……何かあれば、すぐに俺を呼べ」
「……ヴェイグ様が、近くにいなければどうするのですか?」
「どこにいても、見つけるから心配するな」

私の手を取ってくれるのは、きっとヴェイグ様だけだ。そう思うと、自分の秘密を話したくなる。でも、それは、カレディア国の重要機密に関わることで……。

「……キスをしてもいいか?」
「私を婚約者と思っているならいいですよ……」
「すぐに結婚したいと思っている……」

ヴェイグ様の男らしい指が私の唇を撫でると、そっとキスをされる。
切なくなる。私を恐れずに触れてくれるのは、ヴェイグ様だけなのだ。



真っ暗な部屋では、セレスティアが必死でやっていたパズルが完成していた。
そのセレスティアが腕の中で静かな寝息を立てて眠っている。

その背後から、闇が滲み出てきた。

「__セレスティアから出ていけ」

セレスティアを起こさないように、それでいて凄んで言うと、霧のような闇は夜に溶けるように消えていった。

セレスティアは、闇に触れている。セレスティアを連れて逃げてから、毎夜この闇が出て来ていた。しかも、本人は気づいてない。

可哀相なほど強いセレスティアに胸が痛む。
今も、何も頼ってくることすらしない。

「すまない……もっと早くに迎えに行くべきだった」

そう呟くと、セレスティアを想って抱いている手に力が入った。





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