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王弟殿下と陛下と聖騎士

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シュタルベルグ国の王城。
城壁に囲まれた王城は、カレディア国よりもはるかに大きい。何よりも違うのは、飛竜が王城の周りを飛び交っていることだ。

その城壁の中の一部には、飛竜の竜舎もある広い庭まであった。

「あの飛竜たちがいる庭に降りるのですか?」
「いや。俺たちは、あの突き出た上階の通路だ」
「あの広い場所が通路?」
「飛竜が降りるために広く取っているだけだ」

王城を旋回すると、ヴェイグ様が飛竜の手綱を引いてゆっくりと広いバルコニーのような通路に降り立ち、颯爽と飛竜から降りたヴェイグ様が、私を降ろしてくれる。
飛竜が降りる場所なのか、その場所には、騎士が一人やって来ていた。

「ヴェイグ様!」
「今帰った。兄上に挨拶に行くと伝えろ」
「はい。すぐに」

迎えにでた騎士は、飛竜が降りるこの場所にいつも待機しているのだろう。そして、ヴェイグ様が飛竜を慈しむように撫でると、大きな飛竜は空へと羽ばたいて行った。

「飛竜がいなくなってしまいました」
「指笛で呼べば戻ってくる。城の周りを飛んでいるだけだから問題はない」

飛竜の羽ばたきを後ろ目に、ヴェイグ様に連れられて王城へとそのまま入る。王城の中は紅い絨毯が伸びており、ヴェイグ様はその上を真っ直ぐに進んでいた。

「ヴェイグ様の兄上様は陛下ですよね? すぐにお会いできるんですか? 居場所は探索のシードでわかるとは思いますが……」
「この時間は、どうせ執務室での仕事だ。探るほどでもない」

今更ながらに、本当に王弟殿下なのだと思える。

「なんだ。その顔は?」
「いえ……本当に、王弟殿下様なんだなぁと……」
「信じてなかったのか?」
「信じてなかったというよりは、天井から落ちて来たので、怪しいと思ってました」
「落ちて来たのが俺でよかったではないか」
「そうなのでしょうか? むしろ、落ちて来たせいで、マティアス殿下から婚約破棄をされた気がしますけど……」
「まぁ、どちらでもいい。ああ……あそこが兄上の執務室だ」

何が幸運なのかわからなくなってきた。

悩む私の肩を抱いていたヴェイグ様の足が重厚な装飾のある扉の前で止まる。

彼は、迷いなくノックをすると、「兄上、失礼します」と言って、礼儀正しく入っていった。
それなのに、思わず扉のところで足が止まってしまった。

「ヴェイグ。帰って来ていたか。邸に使いをやろうかと思っていたところだ」

執務室には、執務机に座っている陛下であろう赤髪の青年。ヴェイグ様とは似つかわない筋肉質で大柄な男性がいる。

その執務机の前には、執務室に入ってきた私とヴェイグ様を見ているロクサスが立っていた。

「ロ、ロクサス……」
「久しぶりだな。セレスティア」

先日逃げて来たばかりですけどね……。
思わず、ヴェイグ様の腕をキュッと掴んで後ろの隠れようとしてしまう。

ブリンガーの邸で、ゆっくりとパズルをしすぎたせいだろうか。何日も滞在していたから、ロクサスが追いついて来たのだ。

「やっぱり帰ってくるのではなかったかな?」
「そんな気がします」

ヴェイグ様が飄々と言うが、ロクサスは火花でも散りそうな雰囲気を醸し出していた。

「……先日は、失礼した。私は、ロクサス・クリューゲルです」
「俺は、先日言ったと思うが、ヴェイグだ。ヴェイグ・シュタルベルグ。こちらは婚約者のセレスティア・ウィンターベルだ」

空気が重い。こんなに険悪な自己紹介など経験したことがない。そして、私の紹介はいりません。ロクサスは、私のことを知っています。
それとも、ヴェイグ様の婚約者だと言いたくて、言ったのでしょうか?

「……ヴェイグ。それと婚約者のセレスティア・ウィンターベル。こちらの聖騎士ロクサス殿は、お前たちに用事があってシュタルベルグ国の王城へと来たのだよ。しばらく滞在することになるから、みんなで仲良くするように」
「俺の邪魔をしないことを願いますがね」

早くこの場から逃げたい気持ちは一緒なのに、動揺一つしないヴェイグ様が、私の身体が密着するように身体を抱き寄せた。
それに気付いたロクサスの眉根が微かに上がった。

「では、聖騎士ロクサス殿は、そろそろ下がってもらおうか。弟は何やら話があるようだ」
「はっ。寛大なお心遣いに感謝致します」

ロクサスが、「失礼いたしました」と言って下がると、ヴェイグ様が睨んでいる。

「お心遣い?」
「しばらく、滞在すると言っただろう。シュタルベルグ国の王城に部屋を準備した」
「追い返してください」
「追い返す理由がない。ロクサス殿はカレディア国から正式に訪問しているし、彼はカレディア国聖女機関の筆頭聖騎士だ。カレディア国でも、特別なのだよ。それとも何か不都合でもあるか?」
「別に……」

にこりとした陛下に、ヴェイグ様が冷ややかに答えた。

「あの……ヴェイグ様。陛下にご挨拶を……」
「ああ。そうだな。こちらが兄上のヘルムート陛下だ」

ヴェイグ様が紹介すると、ヘルムート陛下が軽くうなずいた。

「兄上。こちらが婚約者にしたセレスティアです」
「お初にお目にかかります。セレスティア・ウィンターベルです」

膝を曲げて礼を取ると、ヘルムート陛下が「よろしく頼む」と言う。婚約に意はないようだけど……私をじっと見据えたかと思えば、視線はヴェイグ様に向かう。

「で、急に帰還したのは、どういうことだ? ヴェイグ」
「リリノアのことです。王妃が勝手に婚約を発表する気だったので、止めに来ました。王妃はどこに?」
「……リリノアは、お前にとってもいい縁談だったが……まぁいい。色々報告も聞きたいところだが……こんな時間に帰って来たということは、夜通し来たのだろう。少し休みなさい。妃には、私から伝えておこう」

リリノア様との縁談にあまり残念そうに見えないけど、ヴェイグ様の味方には見える。

「セレスティア。行こう。では、兄上、失礼します」

そう言って、ヴェイグ様と執務室を後にした。







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