光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。

屋月 トム伽

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離宮…

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「本当に、しつこいな……こんなに早くに使者を送って来るとは……」
「もしかしたら、転移魔法を使ったのかもしれません……カレディア国とシュタルベルグ国の国境まで使って追いついて来たのかも……」

許可なく他国へと転移魔法での移動は、禁止されている。それに、転移魔法は珍しく誰にでも使えるものではないのだ。

でも、カレディア国の聖女機関には転移魔法の部屋があった。すぐに使わなかったのは、私たちがまだカレディア国にいたからだ。そして、アルディラの街には偶然にもロクサスがいた。
他の追手を差し向けるよりも、ロクサスに連絡した方が確実だと思ったのだろう。

「それにしても、どこまで行くのですか? ヴェイグ様」
「王城での俺の住まいは、離宮だ」

離宮は、王城の中心からずいぶんと離れていた。一階に下りた先には、広がる緑の庭に庭園が見えた。その先には、少し古臭い小さな離宮が立っていた。

「ここが、俺の住まいだ」
「何だか可愛いですね……近くには、庭園まで……」
「側に見える庭園は、この離宮の庭園だ。使いたいなら、好きにしてもいいぞ。俺は、使わないからな」

勿体ない……。

そう思いながら離宮に入ると、がらんとしており、人の気配はない。

「誰もいないのですか?」
「急遽ブリンガーの邸から来たからな。夜にはシオンたちもたどり着くだろう。それまで、少し休もう」
「寝ているところを、起こされましたからね」

「部屋はこちらだ」と言って、ヴェイグ様に部屋に連れられて行くが、ふと気付いた。
ヴェイグ様は、部屋に着くなりマントを脱いで雑にソファーに投げている。

「ヴェイグ様……」
「なんだ?」
「今気づいたんですけど……もう、一緒に寝なくていいのではないですか?」
「……気付くのが遅いな」
「やっぱりですか……! いくらなんでも、覗き見の魔法で、カレディア国からシュタルベルグ国までは見えません!!」
「別にいいではないか」
「よくありませんよ……私にも……」

お部屋が欲しい。リリノア様には、ブリンガーの邸に部屋があって、私にはないのだ。
そう思うと、言えなくて口を閉ざした。

まるで比べているみたいで、自分が嫌になる。

「どうした?」
「……なんでもありません」
「そうは見えないが……言いたいことがあるなら言え」
「……ヴェイグ様は、ヘルムート陛下と仲がいいのですね」
「……話をずらしたか?」
「別に、です」

ふーんと訝しんだヴェイグ様がベッドサイドに腰を下ろすと、こちらにと手を伸ばす。
仕方なく隣に座ると、ホッとした表情を一瞬だけ見せたヴェイグ様が、いつもの冷静な表情に戻っていた。

「……俺は、兄上に育てられたんだ」
「ヘルムート陛下がヴェイグ様を?」
「俺は、妾の子だ。母親の身分も子爵令嬢と低いものだ。妃にすらほど遠い家柄だったのだよ」

でも、王弟殿下と名乗っている。王族で殿下と名乗れるのは、王位継承権がある王族だけだ。
しかも、今の陛下はヴェイグ様の父親でなくて、兄上のヘルムート陛下で……。

「俺が殿下と呼ばれるのが不思議だろう? 殿下でなければ、貴族の中でも身分が低いからな。ちなみに、俺の持っている爵位では、エヴェント子爵もある。母親の実家の爵位を受け継いでいるんだ」
「そうだったのですか……」
「身分が低くてがっかりしたか?」
「そんなことは……むしろ、私は助けてもらって感謝してます。その……ヴェイグ様で良かったと、思っているのですよ」

照れながらもそう言うと、ヴェイグ様がふっと笑みを零した。

「俺は、子供の頃から問題児だ。不貞の子だと言って、何度も嘲笑や蔑みの的にされた。なまじドラゴニアンシード(竜の核)のおかげで力も強い。放置もできないが、無視もできない。誰も近づかなかったのに、それを兄上が助けてくれたのだよ。俺を引き取ってくれて育ててくれた。そして、王位継承権までもくれた。貴重なドラゴニアンシード(竜の核)を持って産まれたから、間違いなく陛下の血筋であるという証明も出来ていたからな。前王妃は、俺を兄上の影武者にでもしたかっただろうに……それを、兄上が止めてくれたのだ」

「辛かったでしょう……ヴェイグ様は立派ですのに……」

慰めたくとも背の高いヴェイグ様を包み込めることができずに、代わりにギュッとしがみついた。

「俺が怖くないのか?」
「ヴェイグ様は怖くありません」

確かに、あの闇が怖い。でも、ヴェイグ様は違う。肩ぐるしくないからか、あの一日中窮屈だった気持ちが、今はないのだ。

「……俺は、狂っているらしいぞ……闇に侵されてないのを気付いているだろう。闇属性の黒竜が自分に合っているんだよ」
「ヴェイグ様は、闇が怖くないのですか? 闇に触れると……その、精神を侵されます。負の感情に襲われることだって……」
「黒竜が合っていると言っただろう。俺には、闇が心地良いのだ」

それは、性格が真っ黒なのでは!?

「なんだ。その顔は?」
「ヴェイグ様が腹黒く見えてきました」
「嫌いになるか?」

ヴェイグ様が私の両手を握りしめると、額と額がこつんと触れた。

「……なりません」
「では、惚れてくれるか?」
「どうでしょうか……でも、少し私も考えます」
「そうしてくれ」

ヴェイグ様は闇に侵されない。私みたいに逃げてもいない。それが私には、少しだけ眩しいと思ってしまった。

「……一緒に寝てくれるか? 側にいないとどこかへ行ってしまいそうに思える」
「……今度、庭園に連れていってくださいますか? 案内してください」
「約束する。それと、セレスティアに似合う花を贈る」
「はい……」

そう言って、いつも通りヴェイグ様の腕の中で眠りについた。











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