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闇のシード 1

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庭園の水やりをして、ヴェイグ様が私に贈って下さったブラックローズの蕾をしゃがみ込んで見ていた。

「早く咲かないかしら……」

豊穣の魔法で、成長を速めようか……でも、せっかく贈って下さったのだ。自分の手で咲かせたいと思う。

王宮の庭から頂いて来たと言っていたブラックローズ。
私がヴェイグ様の特別だといい。そうすれば、ちょっとは自信が持てる。

そうでないと、独りぼっちで落ち込んで泣きたくなる。そう思うと、顔をしゃがみ込んだ膝に埋めていた。

側に植えた花壇には、きらきらと煌めいているようなシード(魔法の核)が育っている。
シード(魔法の核)を身体に埋め込んでも、リリノア様の適応するとは限らないから、ぬか喜びをさせたくなくて言えなかったけど、落ち込んでいるならリリノア様のためにシード(魔法の核)を造っていることを伝えた方がいいのだろうかと悩んでしまう。

そんな気持ちで、離宮の部屋に帰ると、シオンが書斎から出てきた。

「セレスティア様。お茶にしますか? ヴェイグ様にお届け物があるので、少しお待ちいただけますでしょうか?」
「ヴェイグ様に?」
「ええ。忘れ物なんて珍しいので、必要ないかもしれないのですけど……陛下のところに行くと言っていたので……」
「ヴェイグ様でも、忘れ物をするんですね」
「……今朝は、セレスティア様のことで頭がいっぱいだったのだと思いますよ」


朝の出来事を指摘されて、忘れ物をしたのは、自分のせいのような気がしてきた。

「そ、そうですか……でしたら、私がお持ちしますね。ヘルムート陛下の執務室なら、覚えていますから」
「そうですか……まぁ、お持ちするだけですので、お願いしましょうか」
「はい」

シオンが持っている書類の入ったであろう封筒を受け取り、ヘルムート陛下の執務室へと向かった。

それにしても大きい城だと思う。カレディア国は、豪華さはあるけど大国シュタルベルグのほうがはるかに大きい。

飛竜もいるから、とても広いのだと思う。窓の外を見れば、竜騎士団の本部らしき堅強な建物もある。そのまま進んで行くと、陛下の執務室のある廊下にアベルが立っていた。

「セレスティア様。どうされました?」
「確か……アベルでしたよね」
「覚えて下さりましたか?」
「はい。フェルビアの砦では、ご迷惑をおかけしました」
「そんな……我々は、ヴェイグ様直近の部下ですので、お気になさらずに。今も、ヴェイグ様が陛下といますので、こちらにいるだけですので。それよりも、こちらに何か用事でも? もしかして、リリノア様のことですか?」
「リリノア様のことを、アベルはよく知っているのですか?」
「ヴェイグ様の部下でも、俺は側近ですから……ですが、リリノア様のことは気にしなくても大丈夫ですよ。先ほどヴェイグ様がリリノア様にキスしていたのも、挨拶みたいなものでしてね……」
「そんなことをしていたのですか……」

本当にヴェイグ様は、手が早い。そう思えば、リリノア様との婚約は続けると言うことなのだろうか。胸がちくんとする……。

「セレスティア様。聞いてます?」

呆けたような私に、何かを言っていたアベルが困ったように聞くけど、私には何も言えない。

「あの……リリノア様のことではなくてですね、ヴェイグ様にお届け物がありまして……進んでも大丈夫ですか?」
「セレスティア様でしたら、大丈夫ですよ。お通り下さい」

ヴェイグ様と違って人当たりのよさそうな青年のアベルに通されて、先に進むとヴェイグ様とヘルムート陛下が中庭で何かを話していた。

この先は、ヘルムート陛下の執務室があるから、誰でも通ることは出来ないのだろう。

「では、見つけたのか?」
「ええ。切り札はセレスティアですよ」

私の名前が出て、咄嗟に物陰に隠れてしまった。

「はっきりとした場所は不明ですが、聖女機関にあるのは間違いないです。城か聖女機関か……もしかして、どこかに別の場所に隠している可能性もありましたが、セレスティアのシードのおかげでだいたいの場所は判明しました」

それは、探索のシードのおかげだ。

「闇のシード(魔法の核)の存在は、カレディア国では隠されているようですが、少なくともセレスティアは知っている。そのセレスティアを何としても連れ戻そうとした聖女機関は、セレスティアが必要なのですよ」
「では、セレスティアと引き換えにカレディア国は闇のシード(魔法の核)を出すか?」
「出すでしょうね……むしろ、もうカレディア国では管理できないから、セレスティアが必要なのですよ。いや、セレスティアがいなければ管理できない状況がすでに始まっていると思います。その証拠に、カレディア国では一年以上前から、新たな聖女も聖騎士も減っているし能力が下がっている」
「だが、まだ聖女も聖騎士もいるし、闇のシード(魔法の核)は隠されている」
「だから、それがセレスティアのおかげです。セレスティアが闇のシード(魔法の核)を抑えたか……何かの魔法を施している。だから、シュタルベルグ国が気付くのが遅れた……探索のシードを使って、だいたいの場所はわかっても、闇のシード(魔法の核)の詳細な場所はわからなかったのですよ。あの時は、セレスティアを何としても先に連れ出したかったし……」




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