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頭が高いですわ 4
しおりを挟む「頭が高いですわ。王太子殿下」
「うるさい!!」
私が冷たく言い放つと、焦りと憤りを感じるマティアス様が感情のままに叫んだ。
「……王太子殿下が、私に勝てるとでも? 返り討ちにあいますよ」
「いつもいつもすました顔して……それが、嫌いなんだよ!!」
「言っていることが支離滅裂ですわね」
「セレスティアになど、わかるものか!」
力任せに肩を掴まれた。ドレスが少しだけ乱れる。ヴェイグ様がお揃いにと、私のために用意したドレス。胸が痛くなる。
「イゼル!! セレスティアはしばらく謹慎だ!! 脱出できないように、魔法で閉じ込めるんだ!!」
「何を言って……」
「あの男には、返さないからな」
低くて強い声音に驚いた。
見たことがないほど、マティアス様が激しい怒りを私にぶつけたのだ。
「マティアス殿下。少しおちついてください。セレスティアにそんなことをすれば……」
イゼル様が弱々しく言う。マティアス様を止めようとしているところを見ると、彼の味方には見えない。
「大人しくしないと、眠らせてでも連れて行くからな」
冷たく言うマティアス様の言葉に戦慄した。
眠らされて既成事実を作られたら、私はどうなるのか……。
そうなったら、王弟殿下であるヴェイグ様のところには帰られない。
「……嫌よ」
「セレスティア?」
「私は、ヴェイグ様が好きなの。王太子殿下」
目の前で、私のドレスに手をかけているこの王太子殿下が幼い頃から決められた私の結婚相手だった。
幼い頃は、この方が私と結婚するのだと、淡い気持ちを抱いていた。
それが初恋と言われればそうなのかもしれない。
だから、好かれようと頑張って妃教育も聖女の修行も頑張った。王太子殿下の妃として相応しくならなければ、と。
でも、彼は私を隣に置く置き物ぐらいにしか思ってなかった。
見栄えのいい自慢できる置き物。
妃になるのだから、普通の令嬢ではいられないのはわかる。聖女でも、私は大聖女候補だから、皆の見本にならないといけないのもわかる。
だけど、いつしか幼い頃にあった淡い気持ちが消えていることに気付いた。
それでも、私の婚約者はマティアス殿下だった。
あの浮気を疑い始めるまでは……やっと、婚約破棄ができるのだと安堵したことを覚えている。
それなのに、私が婚約破棄をされて、闇のシード(魔法の核)もすでにカレディア国にはないのに、今は私のドレスに手をかけて、謹慎という名目で私を監禁しようとしている。
「マティアス様! セレスティアを離してください……っ!! 今セレスティアに手を出すのは……!!」
イゼル様が、マティアス様を止めようと、声を大きく叫んだ。そして、言葉が止まる。
そのマティアス様にそっと手を伸ばした。彼の胸に伸ばした手に魔力を集中させようとすれば、マティアス様の肩の上からヴェイグ様の頭が覗かせた。
「それ以上何をする気かな? カレディア国の王太子殿下」
ヴェイグ様の静かで凄みのある声音に、マティアス様の動きが止まる。
すると、ヴェイグ様がマティアス様の首を掴み後ろへと投げた。
「……っ!!」
凄い。これもドラゴニアンシード(竜の核)の力のおかげなのだろうか。
「人の婚約者に手を出そうとは、カレディア国は、よほど俺を敵に回したらしい」
声にならない呻き声を上げて、苦痛にゆがませた表情で首を抑えているマティアス様に、イゼル様が駆け寄る。
ヴェイグ様が、私を抱き寄せると優しい目つきに変わった。
「ヴェイグ様。陛下のところへは?」
「途中で行くのを止めた。不審者がこちらに向かってきているのが見えたからな」
じろりとマティアス様を見下ろすヴェイグ様。マティアス様はイゼル様を追いかけて来ていたようだから、どこかでヴェイグ様の目に留まったのだろう。
「し、失礼を……! 決してカレディア国はシュタルベルグ国に逆らう気など、ありません! もちろん、ヴェイグ様にも、です」
「では、その不審者を下げてもらおうか。その王太子殿下は謹慎にする今夜の晩餐会にも出席を遠慮願おうか」
そう言って、ヴェイグ様が私を抱き寄せたままで、片手から真っ黒な闇を出した。
闇を恐れているカレディア国では、これだけで充分な脅しになる。
「すでに、陛下より謹慎処分を受けております。その、おそらく部屋に帰る途中でこちらに来たのだと……」
歯切れ悪くイゼル様がマティアス様を庇おうとしていた。
「では、そのまま部屋まで連れていけ。イゼル。これは命令だ」
「ふざけるな! こんなことになるなど……っ!」
「押さえてください。マティアス様。今は、カレディア国の立場を悪くするわけには……」
イゼル様を、呼び捨てた。ヴェイグ様が、聖女機関の最高責任者のイゼル様を『イゼル』と呼び捨てたのだ。
これで力関係がハッキリとした。カレディア国は、シュタルベルグ国に逆らえない国になったのだ。
そうして、マティアス様が苦々しく打ちひしがれた様子でイゼル様に連れて行かれるのを、ヴェイグ様の腕の中で見ていた。
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