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〈不安〉
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あれからレイは宣言通り毎日病室にやって来た。僕と雑談することもあれば机で宿題をしていることもある。
そして予想していた通りレイは面白い人だった。ほとんど静かだった病室に、明るい笑い声が響くことも自然と増えていった。
幸い一人部屋なので多少声が大きくても注意されない。
今日もレイは紙の束を持って部屋に来た。いつもと違ってむぅっとした表情でカバンを漁りなにやらぶつぶつと呟いている。
これはなにかあったな。何があったか予想をしていると、隣から不機嫌そうな声に思考を止められた。
「ねーハル聞いてる?」
「あぁごめんごめん。なんの話だっけ?あっ雨降ってる」
ふと窓を見るといつのまにかポツポツと雨が降り始めている。さっきまで晴れていたのに。
ちゃんと聞いてよー、とむすぅっと頬を膨らませてレイが僕を突いてくる。
はいはい、とそんな表情がころころ変わるレイの姿を面白がりながらも、愚痴くらいなら聞くよ、と彼の方へ向き合う。
「これ見てよー明日までって酷くない?まぁ手伝うっていったのは俺だけどさーこんな多いとは思わないよ」
レイの手元を見ると薄い教科書一冊分くらいの厚さのプリント……というかチラシ?が積み上げられていた。
これが原因で不機嫌だったのか。詳しく聞いてみると
「死神募集中!初心者でも大歓迎!優しい先輩に囲まれたアットホームで明るい職場です!」
と言う文字をひたすら赤ペンで書くという仕事を、レイは任されたらしい。多分人のいい彼は、他の人たちに押し付けられたのだろう。
……って待てよ?え、ん?死神?いやいやちょっと待ってーな。
よし一旦落ち着け。あの日の質問でレイが人間だってことはほとんど確定している。じゃあなんでこんなものを持っているんだ……?ドッキリにしては数がおかしい。それにレイは顔に出るタイプだ。ドッキリを企んでいたらすぐにわかる。つまりこれは、本当のチラシということだ。
「ねぇブラック企業の特徴って知ってる?」
突如レイが話し始めた。いやちょっと待って。一旦状況整理させて。
「アットホームとか初心者歓迎とかは危ないんだって。あと明るいとか優しいとかそういうのを使っているところは気をつけた方がいいんだって」
つまりここはブラックですよってこと、とフーとため息を吐くレイを問い詰める。
「え?本当に死神なの?」
「……うん」
いや今の沈黙怪しいな?
「僕、死ぬってこと?」
「うんん?」
いやどっちだよ!
「え?ちょっと待ってよ。つまりレイは僕を殺しに来たってこと?」
「うーむ悩むなぁ」
「真面目に答えてよ!」
「まあまあ落ち着いてよ。どうせわかるんだから。今はとりあえず俺を手伝って?」
ほれこれ、と半分くらいのチラシを渡してきた。もっと言いたいことがあったが、これ以上何か言っても全部躱される。まだ付き合いは浅いがレイがそういう性格だということはわかっている。
「僕、部外者だけど手伝って大丈夫なの?」
「まー大丈夫でしょ」
「……ここ赤で書いたらいいの?」
そうそう、と呑気に頷くレイを横目にここから少しでも情報を、とチラシを隈なく見る。死神の可愛いイラストに……向いている人?
「死神に向いている人
①現世に未練がある人
(一個だけ願いを叶えられるよ)
②感情移入しない淡々とした性格の人
(感情移入しすぎちゃうと仕事にならないよ)
③なにか秀でてるものがある人
(死神は現世で動くこともあるからね。秀でてるものがあると職業を決めるとき楽なんだよ)」
①だけ赤い文字で書かれている。重要なことなことのかな?未練、か。とりあえずこっから詰めるか。
「レイが死神になったってことは何か未練があるの?」
するとレイは悲しそうな顔をして俯いた。答えていいのか迷うように、えっとねあーと……と何度もつなぎ表現を繰り返している。
そして意を決したかのように手をグッと握って顔を上げ僕と向き合う。
「大切な人を残したってことかな……多分」
「……多分ってなんだよ」
自分以外の人間が彼を悲しめるなんて、なんだかモヤモヤした。複雑な思いが身体中を巡る。この感情はなんだろう。
「じゃあさ願いを一つ叶えれるってのはなんなの?」
そっけなく言葉を吐き捨てる。そんな僕の様子に彼は気づいてないようだ。
「大抵のことなら叶えてもらえるんじゃない?というかどんなことでもほとんどいけると思うよ」
返事ともいえない返事にこりゃだめだと諦めて作業に集中する。
雨音しか聞こえない病室でその後はお互い一言も喋らず四時半になった。
いつもなら面会終了時間の五時ギリギリまで残るレイが、今日はもう帰るね、と出来上がったチラシを抱えて部屋を出ていった。
……ミスったかな
そして予想していた通りレイは面白い人だった。ほとんど静かだった病室に、明るい笑い声が響くことも自然と増えていった。
幸い一人部屋なので多少声が大きくても注意されない。
今日もレイは紙の束を持って部屋に来た。いつもと違ってむぅっとした表情でカバンを漁りなにやらぶつぶつと呟いている。
これはなにかあったな。何があったか予想をしていると、隣から不機嫌そうな声に思考を止められた。
「ねーハル聞いてる?」
「あぁごめんごめん。なんの話だっけ?あっ雨降ってる」
ふと窓を見るといつのまにかポツポツと雨が降り始めている。さっきまで晴れていたのに。
ちゃんと聞いてよー、とむすぅっと頬を膨らませてレイが僕を突いてくる。
はいはい、とそんな表情がころころ変わるレイの姿を面白がりながらも、愚痴くらいなら聞くよ、と彼の方へ向き合う。
「これ見てよー明日までって酷くない?まぁ手伝うっていったのは俺だけどさーこんな多いとは思わないよ」
レイの手元を見ると薄い教科書一冊分くらいの厚さのプリント……というかチラシ?が積み上げられていた。
これが原因で不機嫌だったのか。詳しく聞いてみると
「死神募集中!初心者でも大歓迎!優しい先輩に囲まれたアットホームで明るい職場です!」
と言う文字をひたすら赤ペンで書くという仕事を、レイは任されたらしい。多分人のいい彼は、他の人たちに押し付けられたのだろう。
……って待てよ?え、ん?死神?いやいやちょっと待ってーな。
よし一旦落ち着け。あの日の質問でレイが人間だってことはほとんど確定している。じゃあなんでこんなものを持っているんだ……?ドッキリにしては数がおかしい。それにレイは顔に出るタイプだ。ドッキリを企んでいたらすぐにわかる。つまりこれは、本当のチラシということだ。
「ねぇブラック企業の特徴って知ってる?」
突如レイが話し始めた。いやちょっと待って。一旦状況整理させて。
「アットホームとか初心者歓迎とかは危ないんだって。あと明るいとか優しいとかそういうのを使っているところは気をつけた方がいいんだって」
つまりここはブラックですよってこと、とフーとため息を吐くレイを問い詰める。
「え?本当に死神なの?」
「……うん」
いや今の沈黙怪しいな?
「僕、死ぬってこと?」
「うんん?」
いやどっちだよ!
「え?ちょっと待ってよ。つまりレイは僕を殺しに来たってこと?」
「うーむ悩むなぁ」
「真面目に答えてよ!」
「まあまあ落ち着いてよ。どうせわかるんだから。今はとりあえず俺を手伝って?」
ほれこれ、と半分くらいのチラシを渡してきた。もっと言いたいことがあったが、これ以上何か言っても全部躱される。まだ付き合いは浅いがレイがそういう性格だということはわかっている。
「僕、部外者だけど手伝って大丈夫なの?」
「まー大丈夫でしょ」
「……ここ赤で書いたらいいの?」
そうそう、と呑気に頷くレイを横目にここから少しでも情報を、とチラシを隈なく見る。死神の可愛いイラストに……向いている人?
「死神に向いている人
①現世に未練がある人
(一個だけ願いを叶えられるよ)
②感情移入しない淡々とした性格の人
(感情移入しすぎちゃうと仕事にならないよ)
③なにか秀でてるものがある人
(死神は現世で動くこともあるからね。秀でてるものがあると職業を決めるとき楽なんだよ)」
①だけ赤い文字で書かれている。重要なことなことのかな?未練、か。とりあえずこっから詰めるか。
「レイが死神になったってことは何か未練があるの?」
するとレイは悲しそうな顔をして俯いた。答えていいのか迷うように、えっとねあーと……と何度もつなぎ表現を繰り返している。
そして意を決したかのように手をグッと握って顔を上げ僕と向き合う。
「大切な人を残したってことかな……多分」
「……多分ってなんだよ」
自分以外の人間が彼を悲しめるなんて、なんだかモヤモヤした。複雑な思いが身体中を巡る。この感情はなんだろう。
「じゃあさ願いを一つ叶えれるってのはなんなの?」
そっけなく言葉を吐き捨てる。そんな僕の様子に彼は気づいてないようだ。
「大抵のことなら叶えてもらえるんじゃない?というかどんなことでもほとんどいけると思うよ」
返事ともいえない返事にこりゃだめだと諦めて作業に集中する。
雨音しか聞こえない病室でその後はお互い一言も喋らず四時半になった。
いつもなら面会終了時間の五時ギリギリまで残るレイが、今日はもう帰るね、と出来上がったチラシを抱えて部屋を出ていった。
……ミスったかな
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