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 靴を脱いだその場でまおさんを抱き締め、唇を奪った。昨晩と異なり、まおさんは自ら舌を差し入れてきた。もちろん俺はすぐさまそれを絡め取り、柔らかくて甘いその舌に自分の舌を這わせて、まおさんの咥内を思う存分味わった。まおさんは唾液で濡れた唇の合間から熱い吐息とともに「んっ」と小さな声を何度も漏らしては、俺に両腕でしがみついたまま身をよじり、火照った身体をこすりつけて、ますます俺を高ぶらせた。
 唇を貪り合い、身体をもつれ合わせながら、薄暗い俺の部屋に辿り着く。ベッドに倒れ込んだ時には、俺はほとんどの服を失っていた。
 まおさんは俺の身体に残されていた下着を剥ぎ取ると、全裸になった俺の太腿の上に跨がり、妙に遅い動作で、ゆっくりと一枚一枚自分の服を脱ぎ捨てた。それは躊躇しているようにも焦らしているようにも感じられたが、明かりの乏しい部屋の中で表情を読み取ることはできなかった。
 ようやくすべての服を脱ぎ捨てたまおさんの裸の肌が、廊下から差し込む淡い光で白く浮かび上がった。初めて見たわけではないというのに、俺は目を釘付けにされたまま、音を立てて生唾を飲み込んだ。
 太腿に直接触れるまおさんの皮膚が燃えるように熱く感じられる。そのまおさんに向かって、早く欲しくて欲しくてたまらないと言わんばかりに、よだれを垂らしながら打ち震えている俺自身を横目に、留守の間に用意していたらしいゴムとローションをベッド脇から引き寄せ、とろりとした液体を指に塗りたくると、おもむろに自らの背後に腕を伸ばした。
 電灯の灯されていない室内で、顎を上げて眉間に眉を寄せながら深く吐息をつくまおさんの表情を、廊下からのわずかな光が浮かび上がらせている。
 まおさんが、自分の指で解している。そう確信するなり、じっとしていられなくなった。肘をシーツに突いて上体をゆっくり起こすと、苦しげに目を閉じていたまおさんがぱっと俺に目を向けた。
「見るな……っ」
「無茶言わないで」
 俺もしたい。感触を確かめたい。大輔が指を使うところを見たこともあった。他人どころか自分のものでも抵抗のある箇所だけれど、まおさんのものなら話は別だ。
 手を伸ばすと、しかし素早く「だめ」と払われた。
「もう、大丈夫だから」
 小声で言いながらまおさんが俺の肩に手を置いた。身体がぐっと近づき、熱い吐息が鼻先に降りかかる。
 それから、ギンギンに張り詰めた俺自身にまおさんの指があてがわれた。
 俺はまおさんの顔を凝視したまま、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込む。
 先端に、窄まった部分が触れた。
 まおさんが背中を丸めるように顔を近づけ、ほんのかすかに、かろうじて聞き取れるほどの儚い声で囁いた。
「きて」
 一瞬で頭の中が真っ白になった。
 
 
 
     *
 
 
 
「んっ……んん……ああ……っ」
 薄暗い部屋の中で、聞いたことがあるようで、初めて聞くような、艶めかしい声が反響している。
 大輔との時よりも明らかに大きく響いて聞こえるのは、俺の目の前で、俺との行為によって発せられるものだからなのだろうか。
 まおさんの中は熱くて、狭くて、きつくて、強く俺に絡みついてきて、経験したことがないほどの快感を俺にもたらしていた。
 根元まで収まるまで、少しばかり時間がかかったように俺には思えた。まおさんも想像以上に苦しげにうめいていて、途中で心配になるほどだった。
 それでも、収まってみればあれほど抵抗感を示していたそこは、俺をけっして逃すまいとするほどの執着で俺にまとわりつき、締めつけた。
 まおさんの口から漏れる声は次第に大きくなり、次第に甘い響きに変化した。
 気持ちいいの? まおさん。
 そう尋ねてみたくて必死に顔を近づけたが、俺自身は下半身にもたらされる快楽と視界に映る刺激的な光景に、油断すればすぐさまいってしまいそうで、人間らしい言葉を発する余裕なんてかけらも存在しなかった。まおさんの方も喉を反らしたり、首を振ったり、うつむいたりして、なんらかの感情から逃れることに精一杯のようだった。
 時折まおさんが背中を反らせて身体を遠ざけることに気がついた。なんとなく気に入らなくて、まおさんの揺らめく腰をぐっと掴むと、思い切り下から突き上げた。
 同時にまおさんの口から「ああ……っ!」と甲高い悲鳴が上がった。
 内心ぎょっとしたが、本能的にやめられなかった。
 まおさんの中が一段と強く俺を締めつけたからだ。
 片手でまおさんの身体を掴んだまま、逆の手をシーツに突き、同じ角度で何度も腰を突き上げた。
「やっやだ、まって、それ……やっ……あぁ……っ!」
 子供のように首をイヤイヤと振りながら、明らかにこれまでとは違う反応で身を捩らせる。それでも完全な拒絶ではないとわかるのは、俺の肩を掴む手の力が、爪が食い込むほどに強かったから。
 だから俺は夢中になってまおさんを貫いた。
「あっ、あっ」と完全に止まらなくなったまおさんが、嬌声の合間に泣きそうな、とろけそうなほどの甘ったるい声で「しょう」と呼んだ。
「いっちゃう」
「まおさん、俺も」
 不意にまおさんが両腕で俺の肩を抱き寄せる。汗で濡れたまおさんの背中に手を回すと、まおさんが舌を差し出し、唇を求めてきた。
 もちろん俺はその唇にむしゃぶりついた。
 塞いだ唇の中から「んんっ!」と聞こえた。腕の中の身体が硬直し、唾液の糸を引きながら顎を仰け反らせる。
 まおさんは俺の腕の中で声を嗄らして叫びながら、これまでよりもずっと強く、ぎゅうぎゅうと俺を締めつけ、びくびくと全身を震わせた。
 まおさんの身体に何が起こったのか、すぐさま把握することは不可能だった。
 なぜならば俺自身が、まおさんの声に負けないほどの大声を上げながら、まおさんの中で達しようとしていたからだった。
 
 
 
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