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<六> 甘い夜
17 甘い夜
しおりを挟む17 甘い夜
ソファーの上で一部始終を済ませてしまった。
仰向けの瑛斗の上に寝そべって、先生はかすかな寝息を立てていた。
「しゅーちゃん……重いよ……しゅーちゃんてば」
んん、と寝ぼけた返事が聞こえるが起きる気配はない。
悩んだ末に「三田せんせ」と呼ぶと、はっとした様子でようやく顔を上げた。
「いつも終わった瞬間寝るの? ダメな男みたい」
「うるさい……」
眠そうな声で「今何時?」と時計を見て、とっさに起き上がると、「瑛斗くんごめん、こんな時間」と慌てた様子で体の上から下りた。時計はもうすぐ二十一時を示そうとしていた。
「おうち大丈夫かな。親御さんに電話した方が良い?」
前屈みになってブラジャーを着けながら早口でしゃべる先生を見て、瑛斗は笑いをこらえることができなかった。
「親に電話してなんて言うの? 『息子さんとセックスしてました』って言うつもり?」
やっと気づいた様子で動きを止め、拗ねたような目で瑛斗を睨めつける。
ああ、可愛い……。瑛斗は立ち上がってその体に抱きついた。
「泊めて。うちは大丈夫だから」
今さらながらに真っ赤になった先生が「ほんとに?」と訝しげに瑛斗を見る。
「電話でちゃんと連絡すれば外泊オーケーだから、俺んち」
「……ほんと?」
「ほんと。あと、ちゃんとゴム着けることだけ守れば何しても大丈夫なことになってるから」
「……もう!」
耳まで真っ赤に染めた先生が瑛斗の胸元を押しのけようとする。そんな仕草さえ刺激的で、誘惑しているみたいに感じられる。その手を掴まえてキスを迫ると、今度は顔を押しのけて「早く電話しなさい」と言い、服を拾いながらキッチンの方へ逃げていった。
先生がキッチンに立っている間に五分ほど先のコンビニエンスストアへ着替えの下着を買いに行くことにした。
制服のままで出かけようとして、先生に引き留められた。
先生はリビング横の部屋から「弟のだけど」とスポーツブランドのスウェットを抱えて出てきた。
「男の人来てるじゃん」
「家族はカウントしないでしょ普通」
何言ってるの、と言わんばかりに笑う先生の顔を見て、会ったこともない男兄弟にまで嫉妬している自分に気がついた。
借りたスウェットを着て、コンビニまで歩きながら二本の電話をかけた。一本目は大学に進学した元野球部の先輩、二本目は自宅だ。さすがに「先生の家に泊まる」とは言えなくて、ひとり暮らしの先輩の名前を借りることにしたのだ。
「また新しい女か」とか「もうヤったんか」とか下世話なことを訊く先輩の言葉を適当に聞き流し、今度食事を奢ることで交渉を成立させた。
コンビニで下着類と歯ブラシと、少し迷ってゴムも買った。レジは学生アルバイトらしき男で、不審な目を向けられずに済んだ。
先生の部屋に戻ると、テーブルの上には既に食事の準備が出来上がっていた。
肉じゃがと豚汁、玉子焼き、ほうれん草のおひたしが並んでいる。
先生は「足りるかな」とか「残り物ばっかりでごめんね」とか心配そうに呟きながら瑛斗の向かい側に座り、はにかんだ微笑みを浮かべて瑛斗を見つめては箸を口に運んだ。
先生の手料理は、シンプルだけれどとても美味しかった。肉じゃがと玉子焼きは、ほんの少しだけ甘めの味つけだった。
食べ終わると順番に風呂に入った。
瑛斗が先に入り、リビングでスマートフォンやテレビを見るともなしに眺めているうちに、ソファーに座ったままうたた寝をしていた。
ふわりと温もりを感じて目を開けると、後ろから腕を回したパジャマ姿の先生が、瑛斗の髪の毛にそっと頬をあてがったところだった。
「変な気分」
耳元でささやく先生の湿った髪の毛が、瑛斗の顔に触れる。手のひらで先生の頭を引き寄せると「ふふっ」と笑う吐息が瑛斗の頬をくすぐった。
「瑛斗がうちの匂いになってる」
化粧を落とした艶やかな肌が間近にある。薄いピンク色の唇をちゅっと音を立てて吸って、尋ねた。
「弟さんと間違えそう?」
「そんなわけないでしょ」
やめてよもう、と離れようとする体を腕で引き留め、キスを求めた。
何度も唇を啄みながら、風呂上がりとは別の理由で体が熱を発するのを感じた。
「しゅーちゃん、ノーブラ……当たってんだけど……めっちゃ興奮する」
抱き寄せようとすると、「もう」と言って赤らんだ顔でちらりと見てから、腕を引っ張って瑛斗を立ち上がらせた。
「……ベッドで寝ようよ」
瑛斗は今にも爆発しそうな下半身をかろうじてなだめながら、さっさと寝室に向かうパジャマ姿の後を追った。
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