虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

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第一部 一章、旅の始まり

8、確認とこれからの方針

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 さて。ここ数日の間に、いくつか分かったことがある。
 


 ①まずはビックリ仰天。解除不能の呪いを解くために異世界へと転生してきたら、なんと二百年以上の時が経っていた!

 ②どうやら、俺自身の一度に使える魔力量が制限されてしまっているらしい。【魔力抑制の呪い】とでも、呼ぶことにしよう。
 【死の呪い】に関しては、転生魔法の影響で解除できている筈なのにね。
 ……何故だろう?考えてみても原因がわからない。完全にお手上げ状態である。

 ③師匠がいない。迎えにも来ない。つーか、今どこで何やってんだ。
 師匠の種族は森人エルフなので、それなりに長い寿命がある。多分、まだ生きてるよね。そう思いたい。
 そもそも、俺を異世界に転移させたのって師匠の筈でしょ?
 ――異常事態イレギュラー。つまり、想定外の何かがあったのだ。
 こちらも暫定的に【転生妨害の呪い】のせい、ということにでもしておこうか。



 ……まるで呪いのオンパレードだな。色々と無理ゲーすぎて笑えてくる。デフォルトで最初から強力なデバフを受けているようなものだ。 
 難易度極級。激ムズ設定で新たな人生をリスタートってところだろう。
 

 肉体を転生させたことによって、既に解かれている【死の呪い】。
 
 一定以上の魔力を使用した場合、死の危険性が起こり得る【魔力抑制の呪い】。

 意図した時期タイミングから、強制的に遅延をおこなう【転生妨害の呪い(仮)】。


 分かっているだけでも合計三つ。それ以外にもあるかもしれない。
 まったく嫌になるね。俺が何をしたっていうんだよ。
 ともかく、今は様子を見るしかない。具体的な計画案もなく、下手に動いてどうにかなる状況ではないだろう。
 

 リーゼに対して文字の読み書き、魔法の勉強を教える。
 それと並行して、俺自身が取れる戦闘手段の幅を増やしていく。
 師匠のことについては後回し……よしっ!こんな感じでやっていくことにしよう。


 幸い、環境は全て整っている。衣食住についても問題ない。利用できるものは何だって使うのだ。
 となれば善は急げ。早速行動を起こすとしよう。まずはそうだな……俺のこの転生後の身体に関して。


 筋量と、それに伴う運動能力は最低レベルだ。スタミナもない。
 俺が盗賊たちとのやり取りの中で、気絶してしまった一番の要因はこれである。
 


 (基礎から鍛えないといけないのか)

 
 
 年端もいかない小さな子供が、無理やり長距離のマラソンを走りきったとする。
 ――うん、間違いなく気絶しちゃうよね!つまりそういうことだ。


 魔法を使うためには体力がいる。連続で使用すればする程、それだけ肉体に掛かる負担も大きい。継続戦闘なんてまず無理だ。マジで赤ん坊の頃からやり直さなくて良かったよ。


 
 「んっ?そういえば――」



 俺はあることを思い出し、自室の床上に放置されていた一冊の分厚い本を手に取ってみる。
 『聖痕を巡る、大陸の歴史』。初めて異世界を訪れた際、俺が倒した【深淵の魔術師】について記されているものだ。



 ――聖痕を強制的に得るための手段とは、その所有者を非所有者が直接殺害することである。
 


 この一文。これってあれだよね。
 まさに今現在の俺自身が、この条件を満たしていると思ってオーケーってこと?


 当時のあの瞬間。俺は確かに直接この手で、簒奪者【深淵の魔術師】の息の根を止めたのだ。絶対に、間違いなく確実に。それだけは自信を持って断言することができる。
 本には、聖痕を得るための一つの手段として『その所有者を非所有者が直接殺害すること』と書いてあった。



 (ふーむ。……聖痕か)



 無限の魔力を得られると、そのように伝えられている聖痕。かなり胡散臭い代物である。
 その存在自体は師匠に聞かされていたのだが、実際に実物を目にしたことはない。聖痕……つまり刺青タトゥーみたいなものだろうか?
 


 (調べてみる価値はあるか)



 身体のどこかしらに、それっぽいものがあるのかどうか。一度、鏡で確認してみる必要があるだろう。
 ローレンの家の風呂場。そこに置いてある大きな鏡の前に立ってみる。
 黒い髪、二重の目蓋、見覚えのある形の口元。転生前の頃と変わらない、以前の俺が幼い子供の姿でそこにいた。
 
 
 はて?これは一体どういうことなんだ?
 この家に来てから二日目の夜。初めて鏡に映された自分を見たとき、俺は驚いた。明らかにおかしい。果たしてこれは転生と言えるのか。
 


 (あの時、師匠が俺に対して隠し事……或いは嘘をついていた?)



 その可能性は大いに考えられるが、結局のところ何もわからないのだ。
 真実を知り得るためには、本人に直接会って聞くしかない。今はとりあえず聖痕だ。恐らくだが、目に見えて理解することができる情報。それらを一つ一つ積み重ね、最終的に今後の俺が取るべき方針を見定める。
 

 腕、足、顔――露出した肌の部分に、気になるようなものは何もない。
 口を開けてみる。歯並びが凄く良かった。健康的だがどうでもいい。
 上半身に着ている服を脱いでみる。薄ピンク色の綺麗な乳首が、左右に一つずつ付いていた。
 背中も見てみる。当然、何もない。となると考えられるのは下半身の方だな。
 
 
 俺は一気に全裸になった。


 別に、全部を脱いでしまう必要性はなかったのだが、何となく流れでやってみた。
 俺は仁王立ちをしながら、全身を上から下までじっくりと観察してみる。  ――こちらも外れのようだ。成長途中のマイサンが、哀れにも寒さのせいで小さく縮こまってしまっている。
 残りは背後の……つまり尻の部分を残すのみ。そんなところに聖痕があったらどうしよう?かなり不安になってくる。



 (頼むぞっ――!!)



 恐る恐る、窺うような視線で鏡を見てみた。股下の間から覗く、俺の両目とバッチリ視線が交差する。
 真っ白な尻だ。ホクロの一つもない。これで安心と思っていた矢先に、部屋の入り口がある方向から僅かに人の動いている気配がした。



 「………」



 リーゼがそこにいた。無表情のまま、一言も声を発さずにこちらを見ている。
 俺は全裸だった。生まれたままの姿で、立ったまま自らの尻を突き出している。かなり不味い状況だ。客観的に見た今の自分の姿を、あまり想像したくはない。


 リーゼが入り口のすぐ脇にある、扉の引手部分に手を掛けた。
 変わらず無表情のまま、ゆっくりとした動作で扉のすぐ後ろ側まで、逃げるようにして回り込む。互いの間に流れる気まずい沈黙。それから、



 「……ごめんなさい」



 リーゼはそれだけを俺に対して告げると、入り口にある扉を閉めて、直ぐにどこかへと行ってしまった。
 


 (さてと、今回はどうやらハズレだったみたいだぞ)



 俺は、全てを無かったことにした。


 聖痕を他者から直接的に奪い取れる手段。この本に書かれている全ての内容が、絶対に正しい答えであるとは限らない。
 無限の魔力とやらに関してはかなり魅力的に思えるが、【魔力抑制の呪い(仮)】という強力な制約がある以上、安易に手を出すべき代物ではない……ということは確かだろう。
 


 (どうしたもんかねぇ?)



 今の俺自身が聖痕の所有者であるのか否なのか。はっきり言ってしまうと、判断をつけることが非常に難しい。
 まぁ当面の間は、己の戦力強化活動に勤しむべきだな。元異世界最強クラスの魔術師が、そこら辺にいる一般の盗賊相手に苦戦しているようでは、これから先が思いやられる。


 
 ――グゥゥゥゥゥ。


 
 そんな感じで考え事をしていると、唐突に腹の方から空腹感を示す音が鳴り響いた。
 時刻は既にお昼時。何はともあれ、とりあえず飯にしよう。
 俺はウキウキ気分で、リーゼがいるであろう食卓のある部屋へと向かう。当たり前のことだが、床に落ちていた自分の服をしっかりと着直して。
 

 室内へ入ると先に来ていたローレンが、木製のスプーンを握っている状態で、椅子の上に座って待っていた。お茶目な爺さんである。
 今日は仕事休みの定休日。昨日の夜は、遅くまで起きていたのだろうか?僅かに眠そうに見える。


 
 「おおっ、来たか!エドワーズ」



 ローレンは食卓の席に着いた俺の姿を一目見るなり、嬉しそうな様子で声を掛けてきた。



 「最近、調子はどうなんじゃ?
リーゼとしている勉強の方は、順調に進んでおるのかのう?」

 「まぁまぁです。
リーゼはとても賢い子なので。教えている俺自身も、かなり驚かされました」

 「じゃろう?あの子は昔からああなんじゃよ。
 こちらが教えたことを、何でもすぐに理解して覚えてしまう。
要領が良くて頭もいい。――所謂、『天才』というやつじゃな」



 俺も、その意見には全面的に同意しかない。
 確かにリーゼは頭がいいのだ。あの歳で料理、洗濯、掃除まで出来る。
 ……魔法に関しては、まだ全然ダメだが。それも仕方のないことだろう。


 文字を読むことができないリーゼは、見様見真似で難解な術式図を覚えるしかなく、基本的な魔術師としての教育を受けたこともない。
 保護者であるローレンの教育方針としては「そこまで急ぐ必要はないだろう」というものだった。――これは俺が思い描いている将来図とは全然違う。
 


 最終的に誰もが行き着く、この世界共通のルールと言えば弱肉強食。
 上位の実力を持つ魔術師であれば、例えどのような危険地帯に放り込まれたとしても、そこで生き残れる確率は格段に上がるだろう。


 
 (……どうやって説明する?)
 

 
 これからお遊び感覚でやっていくのか。それともその遥か先の方を目指していくのか。俺自身の中では既に答えは決まっている。問題はローレンだ。
 最終的な決定権を握っているのは爺さんである。「色々と面倒を見てやって欲しい」なんて言われてはいるが、俺の独断ですべてを判断してしまうのは不味いだろう。やるなら徹底的にリーゼを鍛え上げたいと、俺は考えていたのだ。



 「で?あちらの方に関してはどうなっておるんじゃ?」
 
 「えーと……何がです?」

 

 男なら誰もが経験することになる、あちらの欲求についてだろうか?



 「魔法じゃよ。お前さん、リーゼに教えるつもりなんじゃろう?
 いつになったら本格的に始めるのかと思っての。気になっていたんじゃ」

 「……でも、いいんですか?
リーゼに聞いた話だと、ローレンさんがそこまで急ぐ必要はないからと――」
 
 「別に良いと思うぞ。相手はお前さんじゃしな。
 聞いた話ではリーゼが描き出した初級魔法の術式を、真横から直接上書きして修正したそうじゃな?」

 

 リーゼが俺を初めて、森の中の広場にまで連れてきた時のことか。
 


 「そんな芸当、余程魔法について深い知識と理解を得てないと不可能なことじゃ。
 だからお前さんに全てを任せてみようと思う。必要な物があれば遠慮なく言いなさい。なんと言っても、ワシらは同じ屋根の下に住んでいる『家族』なんじゃからな」



 少し照れたように話をするローレン。何故だろう?なんか俺まで恥ずかしい気持ちになってくる。
 ちょうどその時、リーゼが目の前にある食卓の机の上に、各々が使用するための食器皿を並べ出し始めた。どうやら昼食の用意ができたらしい。
 
 

 「おっ、そういえば――」



 食事の時間が始まる直前、ローレンがふと思い出した様子で俺に訪ねてくる。



 「エドワーズ。お前さん、風呂場に置いてある鏡の前で、裸になって自分の尻を眺めておったと聞かされたんじゃが……本当のことかのう?」

 「………さーて?どうなんでしょうか?」
 
 

 俺は死にたくなった。
 
 
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