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2章、暗がり山の洞窟
1、最初の街
しおりを挟む*これまでに作中で登場した虹の魔法
・【極彩の魔剣】――――複数の光剣を重ね合わせて圧縮、一振の刃としたもの。呪いの影響を受けて尚、その威力は絶大である。あらゆる形状変化を可能とする近接複合魔法。エドワーズの場合は、特に長剣を好んで使用する。戦闘時、間合いの度合いに左右されることがない。また、斬撃面の回復系能力を阻害する効果を持つ。
八大神徒の一人、セレヴィアは「女神と称される程の美貌の持ち主だった」とされている。所持する神装は『天剣エーリア』。またの名を『霊体切り』と呼ぶ。冥界からの災いを『霊魔の森』へ封じ込めたあと、その管理を長寿の森人族に依頼した。
全ての【虹の魔法】には上位派生が存在する。この魔法の真価は人ならざる存在、死者たちとの戦いで発揮されることだろう。
・『光輝の断罪』アドマイオ
――?????
・『黄金の守護者』バルメル
――?????
・『万物を貫く者』ドゥーラハル
――?????
・『解放の翼』ロバス
――?????
・『至高の導き手』ユナレ
――?????
・『狭間の眼』アーモスゲリム
――?????
・『最後の神徒』名も無き八人目
――?????
********************
ベシュリンの街を出てから一晩が経つ。
あの出来事から、リーゼは変わってしまった。俺の言葉に対して頷くだけで、それ以上のやり取りはない。立ち直るためには時間が必要だった。
……信じられない。あのローレンが死んでしまったのだ。いつも俺たち二人を笑わせてくれた大切な家族。
あの顔を目にすることは、もう二度とできない。何かに突き動かされるように、俺とリーゼは殆んど休むことなく歩き続けた。
しかし、それもやがて限界がやってくる。今の俺たちに必要なものは食事と休息だ。明らかに疲れ果てている。精神的にも肉体的にも……酷いものだ。
追手の心配はしていない。連中は魔族である。その大半は、北の領域から出てくることがない。
魔族領は魔境だ。それもとびきり広大な、平和とは無縁の地。……噂では、人族に対して友好的な者が治めている国があるという。ただの噂か作り話か。それ以外のものだと、どれも少人数の集まりにしか過ぎないらしい。小さな村や街が各地に点々としているだけだ。
信頼できる魔族の友人なら数人いたが、この世界の時間で二百年以上も昔の話である。現在は何処にいるのかも分かっていない。……生きているのかも。
ちょっとやそっとじゃ死にそうにない奴らだが、今回の件に関して助けを求めることは不可能だろう。
あの黒騎士は、俺たちを殺すために送られてきた刺客である。恐らく、連中の中では一番腕が立つ筈だ。
確実に目的を達成させる……そのような主の意図を感じ取った。
失敗することなど考えてはいない。あともう少しのところで仕留め損ねたのが悔やまれる。
古代魔導具と、ローレンに関する全ての情報が漏れていたと、そう考えるべきだろう。いずれは決戦になるかもしれない。その時は――、
(ひとまず街で休もう)
初めて訪れる街だ。中へ入るための通行許可証は持っていない。が、つい最近になって登録することができた、冒険者の証であるギルドカードがその代わりとなる。
十四歳になれば、誰でも登録する権利を得ることが可能なシステムだ。ローレンの口添えもあって、俺とリーゼが出した申請はすんなり通った。
人族の領域内であれば、基本何処でも使用することができる。
国によっては、冒険者ギルドと提携していない場所もあるため、例外はあるのだが。それでも便利なものに変わりはない。
俺たちが今いる国。レーゲスタニアはその辺りの規制が緩いので、咎められるようなことは本来ない筈である。街の守衛は「若い子どもが二人だけ」ということに対して、若干眉をひそめていたが。特にこれといった問題もなく街に入ることができた。
ベシュリンから北に向かって凡そ三十キロほど。
……汚ならしい場所だ。見てくれの悪い風貌をした奴らが多い。
下衆な視線が向けられているのを周囲から感じ取る。リーゼの整った容姿は人目を引きすぎるのだ。表の通りでこの有り様とは、街の雰囲気は最悪である。
背後から伸びてきた何者かの腕を、リーゼの肩を引き寄せながら躱していった。
行き交う人の数が多い。その波の中に継ぎ目を見つけて、建物と建物の間の細い裏道を抜けていく。
……酷く臭かった。小さなネズミが至るところを走っている。
「スラム街か……」
灰色に濁った水溜まり。道端に棄てられている生ゴミなどの残飯。汚れた壁の一部には、赤い血のようなものが染み込んでいる。ベシュリンの街中とは比較にもならない光景だ。
北へ少し行ったところに、こんな街があるなんて……。
ここ数年で起きた魔物の大量発生で、各街の内情はそれはもう厳しくなっているらしい。
通路の真ん中で子供が膝をついて座っていた。穴だらけの衣服、ボサボサに伸びた髪の毛。
近づく俺たちの気配を察して顔を上げる。
「あっ……!」
ビクリと、隣にいるリーゼが、俺の服の裾を掴んで反応した。彼女がこれまでの人生の中で見たことのないタイプの者。硬貨を数枚手渡してやると、そいつは礼も告げずに明後日の方向へと去っていく。
奥に進んでいった先で、数人の男たちが屯していた。こちらを見つめながらニヤニヤと、面倒なことだ。
すぐ右横の通路に入ると袋小路になっていた。唯一の引き返す道は、いつの間にか先ほどの男たちによって塞がれてしまっている。
「よぉ……どうしたお前ら?こんなところでのんびり散歩中か?」
「「(クックックックックッ!!)」」
何が面白いのか、リーダー格と思われる男の取り巻き連中が笑っていた。数は五人。その全員が俺ではなく、隣に立っているリーゼの方を見ている。
(さっきの大通りで、後ろからちょっかいを出してきた連中か)
つけられているのは知っていた。俺たち二人の進行方向に先回りして待ち構えていたことも。
「チッ!黙りこくったまま、挨拶もろくに出来ねえとはな。
まぁ、なに……用件はひとつだけだ。
――男のガキの方はとっとと消えろ。女はここに残って、そのまま俺たちの相手をして貰おうか?」
「兄貴ぃ!俺ぁこんな上玉、今まで見たこともありませんぜ!!」
「今日はツイてるなぁ!まさか、こんなお愉しみにありつける日がくるなんて……」
……反吐が出る連中だ。今すぐ目の前から存在を消し去ってしまいたい。
「………」
「なんだお前?ビビって声も出せないか?あぁっ?」
腹の底から沸々と怒りが湧いてくる。なぜこんなゴミのような奴らが、のうのうと生きていられるのだろうか?
「仕方ねえ……。なら、この俺が人様に対する礼儀ってものを、直々に教えてやるよ!!」
近づいてきた男が大きく拳を振りかぶる。本気でこちらを殴るつもりのようだ。
至近距離で、そいつと俺の視線が合う。次の瞬間、
「な、なんなんだお前……その眼……は……?」
強気な態度を示していた男が、自身の表情をコロリと変えて、俺のそばから離れていく。
こちらを見て驚いている様子だった。それと……何故か怯えているらしい。
「……兄貴?」
「どうしたんです?」
事情が分からずに、その場で狼狽えている取り巻きたち。リーダー格の男の方を見る。先ほどまでとは違い、まったく目を合わせようともしない。
どうやら「もう行ってもいい」ということなのだろう。
「なんですか?俺たちゃあ、てっきり……」
「黙らねえかっ!!――やめておけ。よく分からねえが、そいつはヤバい気がするんだよ。関わらない方が賢明だ……」
リーゼを連れて、彼らの間を真っ直ぐに通り抜けていく。……引き止められることはなかった。
スラム街から出た俺たちは、今夜泊まることになる宿を探し始める。
その途中、同じ冒険者の男を見つけたので話を聞いてみた。最近はどこの街に行ってもこんなものらしい。ベシュリンや王都は例外なのか。自身の平和ボケもここまでくると、ほとほと呆れてしまう。
今まで大抵のことはローレンに全てを任せていた。俺は自分のことばかりで、他所の街で起きている重要な情報を知ろうともしなかったのだ。……そのツケがこれである。
三件ほど回り、その中で一番外観のマシな宿屋を選んだ。
建物内に入ると、いかにも意地悪そうな顔つきをした太っちょ婆さんがこちらを睨みつけてくる。
「子ども二人、一泊でお願いします」
「なんだい?うちはガキンチョなんかを泊めるなんて、死んでもお断りだよ!!」
銀貨を十六枚渡して黙らせた。この宿四日分の代金である。
金払いが良ければ何でもいいらしい。「死んでもお断りだよ!」なんて言っていた割には、簡単に案内してもらえたな。
結局、世の中金だ。金なのだ。大抵のことは金で全てが解決する。
連れていかれた部屋の状態は……まぁ多分、それなりにマシな方だろう。ベッドの上にある布団が破れて、内側の綿が外に飛び出してしまっている。黄ばんだ壁、部屋の隅は埃だらけだ。
――ワオ!こいつは実に快適そうだね。
「泊めてやるのは一晩だけだよ。面倒ごとを起こしたら承知しないからね!!」
「食事は出たりするんですか?」
「……別料金だよ。一食、銀貨四枚からさ」
宿代と同じじゃねえか!値段がぼったくり過ぎるし、この調子では何を出されるのか分かったものではない。
「子どもは厚かましいね。礼儀というものがなっていないよ。……何でも善意で受け取れるものだと思ってる」
礼儀……ね。ついさっきも、この場所へ来る前に同じようなことを言われたよ。
(そういえば――)
気になることがあった。俺はダメ元で、しかめっ面をしていた目の前の婆さんに聞いてみる。
「鏡、ありません?」
*****
宿にある小さな手鏡を借りることができた。料金は銅貨数枚ほど。勿論、きっちりと金は取られている。
鏡を覗き込んで自分の眼を見た。スラム街で出会った男の様子が気になっていたからだ。左右の状態を見比べていた俺は、そこに明らかな異常を見つける。
「まさかこれって……?」
右側の瞳の表面。映されているのは何かの模様だった。薄っすらと発光している。魔法の術式とはまた違う。あえて言うとすれば、肩翼の翼だろうか?
意識した途端、すぐに消えてしまった。どうやら自由に出したり引っ込めたりすることが出来るらしい。
これに関して思い当たることは一つしかなかった。……聖痕である。俺自身が、過去に『深淵の魔術師』を倒して奪い取った力の象徴。
――やはり持っていたのか。
切っ掛けは、森の中で黒騎士と戦った時だろう。あの戦闘で、俺の中の潜在能力が解放された可能性がある。あの距離にいた黒騎士も、当然目にしているだろう。報告を受けた親玉がどう動いてくるのか。今のうちから色々と考えておく必要が出てきたな。
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