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3章、水の都の踊り子
5、水上都市シーリン⑤
しおりを挟む翌朝のかなり早い時間帯から、部屋の扉が叩かれる。
開けてみると、そこにはティアが立っていた。獣人族の証であるケモ耳と尻尾は、髪の下や服の内側へと器用に折り畳んで隠してある。
「おはよう!朝になったから、起こしに来たわ!!」
あわよくば朝食の席にありつこうと考えていたらしい。とはいえ、今日からティアは俺たちの仲間だ。快く歓迎する。
リーゼもそれを予想して、三人分の食事を既に用意していた。焼いたベーコン、新鮮な卵、ふっくらとしたパン。ティアの皿の中身が一瞬で空になる。それでも物欲しそうな目つきをしていたので、俺の分からベーコンを一枚恵んでやった。
「ありがとっ!エドワーズ。ン~……美味しい!!
――あともう一枚ちょうだい!」
「ちょっとは遠慮しろよ」
と、そこでティアの皿の上に、こんがりと焼けたベーコンが大量投入される。冗談みたいな量だ。フライパンを持ったリーゼが見つめる中、ティアはあっという間にその全てを完食してしまう。
「バクバクバクバクッ……絶妙な焼き加減ね!
リーゼ、あなたってホントーに最高よっ!!」
「どれだけ焼いたんだ?」
「手持ちの分全部。だからベーコンはこれで品切れ。
また新しく買い足しに行かないと……」
こんなに細い体つきをしているのに。色々とおかしい。
どういう身体の構造をしているのだろう?
「エドワーズ。獣人族の人って、皆こんなに沢山食べるの?」
「いや、そんな話は聞いたことないけどな……。
そういや、ティアを通りで見た時に着ていたあの衣装は――」
「うん?ああっ、あれね!!故郷のお祭りで使われている装束よ。あれを着て舞を踊ることで、八大神徒の偉い神様に向けて奉納するんだって」
「ティア、お前……そんな罰当たりなものを着て、金を稼ごうとしていたのかよ?」
「そうね!」
悪びれた様子は一切ない。ティアの話では、旅の資金に困った時、あのように各地で舞を踊って小銭を稼いでいたらしい。
「それは?」
ティアが取り出した布地の袋。テーブルの上に置いた瞬間、チャリンと小さな音が鳴る。
「あたしの全財産」
「……確認させて」
リーゼが袋を手に取り、中身をひっくり返す。テーブルの上に転がった硬貨は銀貨四枚、銅貨が僅か五枚だった。
「子どものお小遣い?」
「旅の資金よッ!これでも最初の頃はいっぱいあったのに……」
「なぁティア。そういえば昨日、通りで稼いでいた金はどこに消えたんだ?」
「大通りの屋台でお肉の串焼きを買ったら、全部無くなっちゃった!」
そのあとで、あの量の食事を残さず食べきったのか。
ティアの食費のことを考えると、これから先が不安になる。その辺りに関しては、全てリーゼの裁量次第といったところだろう。
「せっかく冒険者ギルドに登録することができたのに。全然依頼を受けさせてもらえないから、困っていたのよ」
ティアのランクは、俺やリーゼと同じ『銅の一つ星』だった。本来、報酬の高い依頼を受けるためには、時間を掛けて多くの実績を積んでいく必要がある。
「あたしが魔物を倒したってギルドに報告しても、『そんなもの依頼にはない』の一点張りよ?というか、そもそも信じてもらえなかったし……」
「素材はどうしたんだ?ものにもよるが、基本はどこの取引所に持ち込んでも、多少の買取金額は付く筈だぞ?」
「分からなかったのよ!だって素材の剥ぎ取りなんて、これまでにやったことがなかったし……。
でも倒すだけなら簡単だったから、旅の道中で遭遇した魔物たちは、とにかく全部倒していったわ」
そして貴重で金になる魔物の死骸はそのままにしてあると。まるで通り魔だな。
それらを偶然見つけた通りすがりの冒険者たちは、さぞ大喜びしていることだろう。
三人揃って、市場の方に出掛けることにした。旅の出立前に、大量の食料品を買い込んでおかなければならないからだ。
両手に花とあってか、周りからの視線を多く感じる。前を歩いていたティアが「早く来なさいよ!」と、後方にいる俺とリーゼに対して元気よく手を振っていた。
「フフッ!ティアってば、まるで小さな子どもみたい」
「体のデカさは、俺たちとそう変わりないんだけどな」
ティアは世間知らずな面が多く、計画性のない行き当たりばったりな行動はお世辞にも賢いとは言えない。しかし、どこか上品な気質を感じ取れるのだ。
もしかしたらティアは、良いところの家の生まれなのかもしれない。機会があれば、そのうち聞いてみよう。
買い物を終えた俺たちは宿に戻り、荷物をまとめて水上都市を出ることにした。
今後どのルートを行くのかに関しては、昨夜寝る前に情報をまとめ終えている。予定していた滞在期間よりも早くなるが、問題ない。網目のように広がった桟橋から出ている小舟に乗った。目指すのは西の陸地。そしてニディス王都へと続く、北西の『メイル街道』である。
「とうとう始まるのね?あたしたち三人の、伝説の冒険が!!」
「なんでもいいから、水の中には落っこちないでくれ」
テンション爆上げのティアを落ち着かせるのに苦労した。
西の船着き場から、目的地の『メイル街道』までは距離がある。だだっ広い平原を突っ切るだけの道だ。新たに仲間となったティアの実力を測るには、丁度良い。
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