虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

文字の大きさ
37 / 85
3章、水の都の踊り子

6、ティアの実力

しおりを挟む
 
 風を受けて波打つ草原。右手には広大な森が広がっている。光降り注ぐ美しい大地。つい最近まで住んでいた、ベルリナの風景を思い浮かべる。
 

 前を歩いているティアを見た。栗色の髪がサラサラと風になびく。
 長袖の白いシャツ。太股の部分が大きく開いたズボンを穿いている。ギュッと腰に回されたベルトが、ティアの引き締まった体つきを強調していた。そこに差された一本の剣。相当古く使い込まれているようだ。



 「ティア~。その剣、ちょっと見せてもらってもいいか?」

 「えっ?――うん、いいわよ!」



 こちらに振り向いたティアが、自らの腰に付いた剣を「エイヤッ!」と引き抜く。刃先の曲がっている曲剣だった。構えたその姿は思いの外、様になっている。
 俺の隣に立つリーゼも、感心したような声を上げていた。



 「フフンッ!どうよ?カッコいいでしょ!」

 「そうだな、意外と……!!」

 

 見た目は普通の剣だった。柄とは違い、傷ひとつ無い鋼の刀身。しかし、この感覚には覚えがある。
 使い手のものではなく、その武装自体が微量の魔力を纏っていた。鼓動するかのように脈打っている。まるで生きているみたいだ。恐らく「魔力の流れを見る眼」を極限まで鍛えていれば、その異常に気づくことが出来ただろう。
 

 ティアとリーゼ、先ほどから二人の様子は変わらない。
 分かっていないのだ。術式を必要としない魔法の力。その特異性を。



 「純魔剣……『神装』か。一体どこでこんなものを?」
 
 「あたしの家の蔵に置いてあったのを、持ってきたのよ!」

 

 無許可で持ち出してきたのか。ティアの様子を伺う。特におかしな変化は見られない。体調は問題なさそうだ。
 つまり現段階で、この神装はティアのことを使い手として完全に認めており、同調している・・・・・・

 
 
 「魔剣……なの?でもエドワーズ。ティアの持っているそれ、どこにも魔法の術式が見当たらない」
 
 「ああ、それについては実際に見せた方が早いな。
 ティア、すまないがその剣を鞘に入れた状態で俺に貸してくれ」

 「分かったわ!」



 ティアが頷き、自身が持っていた剣を鞘に収め、俺に向かって手渡してくる。
 不思議そうに見守るリーゼの前で、神装が俺の手に触れようとした、その瞬間。



 ――バチンッ!!

 
 
 「「あっ!!」」



 勢いよく弾かれた。ティアの方は何ともない。
 神装は俺のことを拒絶するようにして、プルプルと小刻みに震えている。



 「な、なによ?今の!」

 「そいつは『神装』と言って、適正のある者以外に扱うことは決して出来ない。つまり、ティア専用の特別な魔装具ってことだな」

 「あたし専用の?スゴいじゃないっ!!」



 ティアは大喜びしているが、それには通常の魔装具ものとは違う危険がつきまとう。



 「喜んでばかりはいられないぞ?『神装』は非常に強力な武装だが、時には使用者の意識を乗っ取ってしまうこともある」

 「えっ?」

 「どういうこと?」



 パッとしないのだろう。俺の言葉を聞いたティアとリーゼは、その意味を理解できずに首を傾げている。



 「簡単に言ってしまえば、ティアが理性を失った怪物になるってことだな」

 「ティアッ!その剣、今すぐどこかに捨てて!!」

 「キャー!!ちょっとちょっと、エドワーズ!この剣、あたしの手から離れなくなっちゃってるんだけど!?」



 パニックに陥ったティアが、掌の部分にくっついた剣を四方八方に向かってブンブンと振り回す。



 「ま、今のところは大丈夫だろ。目立った異常はないみたいだし」

 「お、脅かさないでよ!ビックリしたじゃない!!」

 「でも、私は不安。ティアって凄くおバカさんだから、意識なんてすぐに乗っ取られちゃいそうだし……」

 「『神装』の力の一部も解放できてはいないんだ。その時がきたら、きっと剣の方からティアに向かって語りかけてくるだろうさ」



 昔、師匠の口から聞いた話だ。俺にも正確なことは分からない。
 神装には意思がある。その力を自在に引き出すことができれば、相当な戦力になるだろう。もっとも、それを目の前にいるティアが実際にできるなんて微塵も思ってはいないが。
 

 ティアは早速、自身の手元にある剣に向かって話し掛けている。
 ――あたしはティアよ。これからよろしくね!
 神装はうんともすんとも言わない。これでいきなり言葉を話し始めたら驚きだ。当面の間は、長い目で見ていく必要があるだろう。



 (そういや、まだティアがどれだけ動けるのかを俺たちは知らないんだよな)



 多数の魔物を単独で討伐できる戦闘能力(本人談)。
 その真偽を確かめるためには、お互いに直接手合わせをするのが一番早い。



 「リーゼ、ティア。今から二人で、ちょっと軽く手合わせをしてみろよ」

 「私が……ティアと?」

 

 俺からの突然の提案に対して、リーゼが驚く。



 「俺とリーゼは、ティアの実力に関して何も知らないし、それはティアの方も同じだろう?
 これから一緒にパーティーを組む以上、その辺りの情報は共有していく必要性があるからな」



 俺は腰に付けた魔導具のポーチの中から、四十センチほどの長さの木刀を二つ取り出す。
 一本をリーゼに、もう一本を対戦相手であるティアの手に握らせた。



 「何よこれ?」

 「模擬戦用の木刀だ。相手に触れる直前で動きが止まるように、魔法で細工をしてある」



 リーゼは、俺から受け取った木刀を慣れた動作でクルクルと回している。普段から、俺との訓練で使用しているものだ。
 リーゼが漆黒のマントを脱ぐ。ノースリーブの衣服。肩の下に見えている、健康的な白い脇が美しい。
 
 
 大きく脚を開き、構える。
 得物を後ろに、重心は前のめりに。無理な体勢でもバランスを崩すことなく立っていた。



 「受けて立つ」

 「えっ?嘘!本気でやるつもりなの?
 魔術師のリーゼが、剣士のあたしと?」
 
 「そういうことだ」



 リーゼは完全にやる気である。一方のティアは気が進まないのか、なかなか木刀を構えようとしない。



 「なぁ、ティア。魔術師だからといって、近接戦で剣士に敵わないなんて道理はない。リーゼなら、それを身をもって証明してくれる筈だ」

 「あー!もうっ!……分かったわよ。やってやろうじゃない!!
 ケガしても知らないんだから!」



 ティアが力強く得物を握り締めた。準備完了である。
 


 「まぁいいわ。二人とも、あたしを舐めているようだけど。
 リーゼ、覚悟しなさい!速攻で片づけて――」

 「じゃ、始めてくれ」



 ゴウッと、勢いよく風が舞った。俺の目の前を青い残像が通り過ぎる。
 リーゼの木刀が、ティアの喉元に向かって突きつけられていた。『魔力防御』による一瞬の加速。油断していたティアの方が後れを取ったのは、当然のことだろう。



 「はい、私の勝ち」

 「ま……待って待って!今のなし!もう一度やり直しで。ノーカンよ!!」

 

 ティアは抗議しているが、結果が全てだ。本来であればこれで決着。
 しかし……。



 「油断していたティアが悪い。が、もう一度だけチャンスをやろう。
 ――リーゼ、お願いできるか?」

 「多分、何度やっても変わらないと思うけど?」

 「さーて、そいつはどうだろうな。次やったら、今度はリーゼの方が負けてしまうかもしれないぞ?」

 

 リーゼが、ムッっとした表情で俺の方を見る。相変わらずの負けず嫌いだ。
 だが、俺がこうしてリーゼを煽ったのにはわけがある。
 

 
 (俺の期待が外れていなければ、だけどな?)

 

 ティアが、木刀を垂直に突き出す。リーゼの方は、先ほどと同じ構えだ。
 


 「いくわよ~……リーゼ!!」

 「ティアには悪いけど、偶然でも絶対に勝たせてはあげられない」

 

 リーゼが全身に強力な『魔力防御』を纏う。最初から全力だ。一切の隙がない。
 両者の間に緊張が流れる。音は無く、瞬きもしない。そして、俺がゆっくりと試合開始の合図を出した、その瞬間。



 「……えっ?」



 加速に入ろうとしたリーゼよりも、数段早く動いたティアが、その手に握っていた木刀をリーゼの顔の前に突きつけていた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...