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3章、水の都の踊り子
10、リーゼの頼み
しおりを挟む必殺技。間違いなく、そう聞こえた。
つまり、こういうことか?さっきのカッチョいい俺の姿を見て、小さな子どものように憧れを感じたと。
ふむ、それは結構……悪い気はしない。
「なら、これからはリーゼと仲良く一緒に修行だな」
「修行!うーん……それもいいけど……。
あたしね、何でもいいから、今すぐにそれっぽいものを使ってみたいわ!!エドワーズがやっていたみたいに、ピカピカーって光るやつ!」
「そんな簡単にいくわけないだろ。……いや、待てよ?光らせるだけでいいなら、そうでもないか。
――ティア、お前ちょっと頭を貸してみろ」
「えっ?頭を?――分かったわっ!!」
ティアの期待に満ちた視線。イヌのように、その場で「待て」の状態。俺は、突き出された栗色の頭の上に伸ばした手を置いた。
すると、触れた部分から徐々に発光し始める。暗い洞窟内を照らしていた魔法と同じもの。ティアの身体全体が眩い光によって包み込まれる。まるで人間電球だ。
「なによこれー!?何も見えないじゃないー!!」
ひっくり返って転がり回る。苛めているわけではない。望み通りにしてやったのだ。
隣にいるリーゼが「大人げない」と口にする。言っているだけで、助けるつもりはないらしい。大騒ぎするティアの様子を、少し離れた位置から二人並んで眺めていた。
「アホ丸出しだ」
「うん。でもね?エドワーズ。多分だけど、私とティアが考えていることは同じだと思う」
そう話すリーゼの意識は、周辺に転がる白い岩宝亀の残骸に対して向けられていた。
「私たちには足りないものがいくつもある。こんなの相手に苦戦しているようじゃ、全然ダメ」
「だから必殺技なのか?ティアはともかく、リーゼには【氷竜】の魔法があるだろ」
オリジナルの複合魔法。あれは強力だ。
まさに奥義と呼べる代物である。
「あれは発動させるまでに時間がかかるし、未完成。
言いたいのはそういうことじゃない。『エドワーズみたいな対応力が、今の私には欠けている』ってこと」
目の前にある砕かれた岩の塊。リーゼがその内の一つを指差した。そこだけ断面の色が他とは違う。
先ほど倒した魔物の背中。亀の甲羅を形作っていた岩の一部だ。
「気づいたか」
「ここだけ魔力の通りが薄い。さっき私が使った魔法の威力でも、十分に突き抜けられる」
そう。一か所だけ『魔力防御』の薄い所があったのだ。ほんの僅かな差ではあるが、見て分からないということはない。
「……失敗しちゃった」
「狙いは悪くなかったぞ?でもまぁ、魔物の重量が想定よりも大きすぎたな」
最初から氷の刃を使うのではなく、凍結させるべきだった。
腹下なら貫通できると考えたのだろう。しかし、足止めにもなっていない。悪く言ってしまえば、リーゼの取った対応は完全に失敗だった。
ティア共々、油断して敵が持つ能力を見誤った結果である。
「誰か助けて~!目が、目が潰れちゃうー!!」
ティアがうるさかったので、俺は全身を光らせる魔法を仕方なく解除してやった。
「ひ、酷い目にあったわ……!」
「何を言ってるんだ?望み通りにしてやっただろ。
いい加減満足したなら、そこら中に散らばっている魔石の欠片を全部集めておいてくれ。勿論、日が暮れる前にな。――頼んだぞ?」
「リ~ゼェ~。エドワーズがぁ……エドワーズが、あたしのことを苛めるのぉ!!」
「……泣いている暇があったら、ティアも私と一緒に魔石をさっさと拾い集めて」
ティアが「そんな!」とでもいうような目つきで、俺のことを見る。
「手伝ってくれないなら、ティアの今日の晩ごはんは抜きになる」
「……!?やるわっ!やるやる!なんでもやるわ!!
もう、あたし一人だけで全部集めちゃうから任せておいて。
――ウワワワワーンッ!!」
半泣きで走り回るティアの姿は、かつてのフレアやサーシャの様子を俺に思い起こさせた。
「エドワーズのアホ~!ヘンタイッ、この人でなし~!!」
「ああいう奴らはみんな揃って、俺に八つ当たりをしないと気が済まないのか?」
「アメとムチの使い分けが重要だって。ミラが昔、私に教えてくれたから。その通りにやってみたら、ああなっただけ」
「ただの調教だろ!」と、叫びたくなる。
リーゼからのアメとムチ。割合は恐らく半々。だが、その威力はムチの方が遥かに高い。
だって俺も経験してるもん。街で見知らぬ女性の後を追いかけて、リーゼからよく引っ叩かれていたからな。
「ティアはあれでも一生懸命。叩いたら叩いただけ、私と同じで結構伸びる子。
――だからエドワーズ。力を貸して」
ティアの指導をしてくれと頼んでいるのだ。俺が、リーゼに対して過去そうしたように。
身体的なスピードは百点満点。しかし経験、技量、攻撃の面には不安を感じる。ティアの強さを今の状態から押し上げるのだ。リーゼも一緒に。
この二人が、いずれ訪れる戦いの切り札になるかもしれないのだから。
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