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5章、呪われた二ディスの沼地
10、敵の正体
しおりを挟む寝ている最中、これが夢の中であると理解する。
たまにあることだ。不思議と心地よい。出来ることならこの場所に長居をしたいが、それは今度の機会にしよう。
俺は、ふかふかのベッドの上に横たわっていた。
腹部に僅かな重みを感じる。青い髪の色。見慣れた愛しい表情。
リーゼが顔を突っ伏したまま、静かに寝息をたてていた。ひとまずホッとする。
(テントの中……つまり、村の近くにある拠点の方にまで帰ってきたのか)
前に滞在していた場所とは違う。もっと豪華な所だ。
左腕を見る。しっかりと包帯による処置がされていた。リーゼの頭を撫でながら考える。他のみんなは無事なのだろうか?
迫り来る触手。声が聞こえた。地面の上に倒れ、気がつくとこれである。
(さてと。身体の方は――)
当然、只では済んでいない。骨という骨、関節の全てが痛む。
無茶をし過ぎた。幸い右腕の方は何ともない。俺もリーゼも、回復系の魔法は苦手だ。傷の完治には時間が掛かる。
蓋を開けてみれば、散々な結果に終わってしまった。唯一の報酬は、敵である魔物の正体を掴めたこと。規格外の化け物。しかも、通常の種とは違う個体だ。勝ち目は薄いだろう。
純魔石はスッパリと諦める。それで決まりだ。
ティアが獣人族であることがバレてしまった。人の口には戸が立てられない。ガロウジの場合は、特にそれが当てはまる。
少しだけ休んだら、騒ぎになる前にここを出よう。
――ティアの安全が最優先だからな。
「ん……おき……てる?……エドワーズ!!」
「ああ、今起きたところだよ」
リーゼが目を覚ます。途端に飛びついてきた。
俺の頬を何度もバシバシ叩いてくる。随分心配をかけてしまったらしい。
「大丈夫?どこか痛いところ、ない?」
「フォッぺたが痛い」
「ガマンして。本当に……もう目を覚まさないかと思った」
「んな大袈裟な……グェッ!」
容赦のない腹パン。『魔力防御』による強化なしでも、リーゼの拳には中々の威力がある。
「どれくらい寝てた?」
「だいたい三日ほど」
「そんなにか……」
「一度目は私のせいだけど。エドワーズは、もっと自分の体のことを大切にして。それが守れないのなら――」
「どうなるんだ?」
「私が先に、エドワーズのことを死なない程度にまで大怪我させる」
「怖いわ!」
リーゼの場合は本気でやりかねない。
腹の内側から音が鳴る。三日前から何も口にしていないのだ。胃袋の中はとうの昔に空っぽである。
「待ってて。なにか作ってあげる」
「助かるよ。食事をしたら、すぐにここを出発だ。俺もティアも怪我人だからな。これ以上の危険は冒せない。面倒事が起こる前に退散しよう」
「――ッ!?」
「今回はツイてなかった。お手上げだよ。まぁとにかく、リーゼが無事で本当に良かった」
「そんな……そんなの、ぜんぜんよくないッ!!」
「……リーゼ?」
様子がおかしい。リーゼが急に声を荒げるなんて。何かよくないことが起きた証だ。
「一番最初に言わなくちゃいけないことなのに。わたし一人だけじゃ、もうどうすればいいのか分からなくて……」
「俺が寝ている間に何かあったのか?」
「捕まったの。……ティアが」
「マジか」
予想よりも手回しが早い。
……ガロウジめ。ティアの正体をさっそく言いふらしたのか。
「助けに行こう」
「えっ?」
「今がチャンスだ。サイラスがあんなことになっただろう?きっと大規模な捜索隊が組まれる筈だ。見張りに割く人的余裕はないに等しい。なら――」
「違う……違うのっ!エドワーズ。そっちじゃない!」
「なら、どっちだよ?」――その言葉を口にする前に、ある可能性が頭をよぎる。
あの時。触手に襲われる直前、俺の傍にいたのはティアだった。
耳に残る声。俺を真横に突き飛ばした。結果、俺はこうして無事でいる。じゃあティアは?
「まさか――」
「ティアはね、エドワーズのことを庇ったの。私はすぐに動けなかった。
どうしよう……エドワーズ。私たち、これからどうすればいい?」
最悪の事態。答えを返すことは出来なかった。
*****
大勢の人間が、俺のことを囲うようにして立っている。
客人用のテントの中。俺とリーゼのためだけに、わざわざ用意された場所だった。
ブレイズ、ミレイナ、ガロウジの三人。あの窮地を共に戦い、生き延びた者たちだ。評議員のバロウもいる。
サイラスとは違い、話が通じそうな相手だ。それだけで歓迎できる。
とにもかくにも、俺たち全員が目指すところは同じだった。
「単刀直入に言おう。我々に力を貸してくれないか?」
「俺は反対する……と言いたいが。エドワーズ、お前たちの協力がなければ、遺跡内部への侵入は無理だろう」
「ワタシからもお願いします。……あの時は、子ども扱いをしてしまい、本当に失礼しました」
「別に気にしていませんよ、ミレイナさん。俺たちの方も、これから向かおうとしている場所は同じですから」
「そこの二人……ブレイズとミレイナが、口を揃えて言うものだからな。君たち抜きでは、他に何人連れていこうが確実に全滅すると。
私自身は、戦いに関しては素人でね。現場の意見に対して口は出さないと決めている。必要であれば報酬も支払おう。仲間の件については、そうだな……私も含めて『誰も何も知らなかったことにする』ということでどうだろうか?」
「それは……!こちら側にとっては、かなり破格の条件ですね」
「ただの行方不明探しとはわけが違う。
サイラス殿の安否を確認することが最優先だ。何としても見つけてくれ。最悪の場合は、彼の所持品の一部を持ち帰ってくるだけでいい」
「最悪の場合?でもそれって――」
「サイラスの生存を最初から諦めている」ってことにならないか?
「生死は問わない、ということだ。君たちも、あれと一緒にいたのなら分かるだろう?その方がよい時もある。
私と同じ立場につく者たちを、納得させられるだけの材料さえ手に入ればいい」
その言葉でだいたい察した。ただ「死にました」という報告だけで、済まされるわけがない。
話が纏まったところで、俺は近くの地面に転がされている薄汚い男を見つめた。
「頼む……頼むから勘弁してくれ!なぁ?あんたら全員どうかしてるぜ!」
「こうでもしておかないと逃げ出すだろう?遺跡の内部を実際に目にしたことがある者は、こいつだけだ」
「逃げ出さねえ!逃げ出さねえよ絶対に。約束するって!!」
「……ガロウジほど信用できない人物は、そうはいません」
「そりゃ確かに」
「エドワーズ……俺とお前の仲だろう?旦那たちを説得してくれ。
あんな化け物、俺たち人間の力だけじゃとても勝てねえ。お仲間を助けに行く?ご立派な考えだが、そいつは無理だ。死んじまってるよ。今ごろ全員まとめて奴の胃袋の中さ」
ガロウジは最初から逃げ腰だ。リーゼが鋭い視線を向ける。
「バラバラと串刺し、どっちがいい?」
「うわぁ!や、止めてくれ!すまねえ……すまなかった。命だけは助けてくれぇ……!」
突きつけられた氷の鎌。たったそれだけで、ガロウジはヒビり倒した。ミレイナも、自身の腰に装備したレイピアを引き抜いている。
道中の見張りは、二人に任せておけば安心だろう。ブレイズが俺を見る。何か聞きたいことがあるらしい。
「体はどうだ?」
「まあなんとか。でも、あまり無茶はできません。それと――」
これだけは先に伝えておく必要がある。
「触手をまとめて撃退したあの魔法。反動なしで使えるのは、一回きりです」
「なるほど……いや、構わない。それで十分だ。他に何か言っておくことはあるか?」
「一応。あの魔物の正体に関してです」
「……!それは確かなのか?」
「はい。昔、俺の師匠が……ゲフンゲフンッ!
魔物の生態が記された本で読んだことがあります。大まかな特徴は合っているので、間違いありません」
リーゼに頼んで取り出してもらった紙とペン。俺はそれを使って、魔物の全体像を一枚の絵に描いていった。
「これが沼地の魔物……『超特殊個体《ノーヴァ》』と呼ばれている個体。水の支配者です」
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