虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

文字の大きさ
60 / 85
5章、呪われた二ディスの沼地

11、沼地の遺跡へ

しおりを挟む
 
 本来は、深い水の底に住む魔物。無数の触手は、トカゲの尻尾のように生え変わる。
 【極彩セレヴィアの魔剣】で切り落とした部位は、暫く再生しないだろう。しかし、あれほどの手数だ。無力化するには程遠い。
 

 叩くなら本体。その見た目は巨大なタコである。
 縦長の頭と胴体。深海魚のように飛び出た目玉。これといった弱点はない。地上の環境に適応している。
 

 同化した触手による攻撃は相当な脅威だ。まだ見せていない能力もあるかもしれない。みんなの目が言っている。
 ――こんなものを相手にして、我々は本当に勝てるのか?



 「そういえば、ギルドの作戦は――?」

 「……失敗だよ。サイラス殿が、主力をまとめて引き抜いていってしまったからな。君たちよりも先に例の触手と遭遇してしまい、あとはまぁ酷いものだ」

 

 「大した抵抗もできずにやられたらしい」――バロウはそのように説明する。
 


 「報告にあるものだけでも、十七名が行方知れずだ。我々評議会やギルドにとっても、頭を抱える事態だよ」

 「……それでもやるしかありません。
 あまり猶予は残されていないでしょう。悩んでいる暇があれば、今はとにかく前へと進むべきです」



 ミレイナが焦る気持ちはわかる。
 こっちもティアの命が懸かっているからな。グズグズしてはいられない。
 


 「私も同じ意見。エドワーズの怪我が心配だけど――」

 「動けなくなるって程じゃない。パーティーの一員として戦う分には問題ないさ」



 大袈裟に腕を振ってアピールする。一番の頼りはリーゼだ。俺は全力でサポートする。厳しい戦いになるだろう。
 それでもやるしかない。ミレイナの言う通り、俺たちに残された選択はそれしかないのだから。



 「他に使えそうな者はいない。拠点の中は、ほぼもぬけの殻になってしまったからな」

 「逃げ出したってことですか?」

 「みな、誰だって命は惜しい。このような化け物を実際に目にしたのであれば、尚更だ。君たちのように、自ら危険に立ち向かえる存在は珍しいのだよ」

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺だってなあ、自分自身の命は惜しいぜ?」

 

 ガロウジのことは、全員無視する。
 戦意を喪失した者は使えない。守れる余裕もない状況では、足手まといになるだけだ(案内役のガロウジは、一緒に連れていく必要があるため例外である)。
 


 「いまクランツが、ギルドの代表として外にいる連中を取りまとめてくれている。……が、あてにはできないだろう。志願する者なんている筈もない。
 作戦の成否は、君たちの手に賭かっているということだ。たった五人の少数精鋭。見事沼地の魔物を討伐し、無事にこの場所へと帰ってこれることを願おう」

 「……こうなったらやるしかねえか。
 任せとけ。この俺が、お前らのことを確実に遺跡の中まで案内してやる」

 「そう言って裏切りそうだからな。事前に、腰につけるための縄を用意しておいた」

 「気が利きますね。ブレイズ」

 「だ、旦那ぁ……!そいつはいくらなんでも酷すぎるぜ!
 ちょっとは信用してくれよぉ……」

 「それはムリな話だろ」

 「うん。私もそう思う」



 まるで罪人のような扱いだ。とはいえ案内の報酬はキッチリ支払うつもりなので、我慢してもらおう。でないと安心できないし。
 それから各自、手早く準備を済ませて拠点を発つ。
 



 最初に目指したのは、触手との遭遇地点。
 抉れた大地。広範囲の枯れ草が焼き払われている。魔力溜まりの要因となっていた霧は出ていない。
 

 同化した触手から射出された白い液体。捕らえられた者たちと一緒に消えていた。
 巨大なスプーンで、地面の上をすくったような跡がある。とんでもない力だ。自然による災害でも、こうはならない。



 「クラーケン例の魔物に連れ去られたとみて、間違いはないだろう」

 「獲物を捕らえる網のようなものですか……!最初の時とは違い、随分と固くなっていますね」



 辺りに散らばる白い欠片。手に取ってみると重く、冷たかった。



 「こんなもので全身を塗り固められたら、一貫の終わり」

 「まさしくその通りだな。……気をつけよう」



 リーゼが、ゾッとした様子で口にする。まるで石膏。
 ティアのことを考えているのだろう。「今ごろ、同じような目に合っていたりしないだろうか?」と。
 
 
 
 「きっと無事さ」

 「……うん、大丈夫。わかっているから」



 根拠のない励まし。前に進む足取りが自然と早くなる。
 「もう死んでるだろうよ」――ガロウジが、小声でボソリと口にした。すぐに女性陣からの袋叩きにあう。顔を腫らしながら、俺に助けを求めてきた。言わなきゃいいのに。


 狩場から少し歩いて行った先に、大きな岩場があった。
 遺跡に入るための秘密の抜け道。『暗がり山』の洞窟を思い出す。入り口は、岩と地面の間にある僅かな隙間。枯れ草で覆われているため、外側からだとわからない。
 

 先頭はミレイナ。ガロウジ、俺とリーゼ、ブレイズの順番で後に続く。
 中は非常に狭かった。ブレイズの頭が、天井の上に擦れるほどである。



 「狭いものだな」

 「旦那がデカすぎるんだよ。他は別にどうってことねえ」

 「このような所で、水の支配者クラーケンの触手に襲われでもしたら……ひとたまりもありませんね」

 「そう、危ない。だからミレイナあなたの代わりに、ガロウジこの人の方を先に行かせるべき」

 「は?俺か?冗談はよしてくれ。
 まさか本気でそうするつもりはねえ……よな?」

 
 
 完全な一本道。地上から垂れた水滴が、ここを削ったのだろう。
 ゴツゴツした壁。しっとりと濡れている。何かが通り過ぎたような跡はなかった。肌をなぞる冷たい温度に身震いする。



 「ブレイズ。聞いてもいいですか?」

 「どうかしたのか?エドワーズ」

 「ミレイナさんのことです。二人は、昔からの知り合いなんですか?」

 「そのことか。
 ――ああ。それこそ、お前たちと変わらない歳の頃からな」



 「俺もミレイナも、同じ施設の出身だ」――かつては小さな孤児院にいたらしい。冒険者の活動で得た報酬は、その内の殆どを仕送りに充てているそうだ。


 
 「大勢の弟や妹たちがそこにいる。少しでもよい暮らしをさせてやりたい」

 「それが理由で、ガロウジの話に乗ったんですか?」

 「古代魔導具アーティファクトは高値で売れるからな。俺にとっては、ギルドからの依頼を受けるよりも稼ぎのいい仕事だ」

 

 色々と腑に落ちる。血の繋がりのない家族を養う優しい兄。それがブレイズの持つ、もうひとつの顔なのだろう。
 前を歩いていたミレイナが立ち止まる。俺たちの会話が聞こえていたらしい。不服そうな表情をこちらの方に向けてくる。
 
 

 「彼は手段を選ばなすぎるんです。どこのパーティーにも所属はせずに、単身で危険度の高い依頼を引き受ける。噂は聞いていましたよ。
 ――命知らずもいいところです!」
 
 「だが俺は、こうして五体満足で生きている。それで問題はないだろう?」

 「五体満足?問題ない?――バカなのですか!あなたはッ!!」
 
 「俺は、この先も己の考えを変えるつもりはない。パーティー勧誘に関する件も、無駄なことだ。いい加減に諦めろ」

 「ムダ!無駄と言いましたか?
 ワタシがどれほどあなたの事を考えて――」

 「俺にはいらん世話だ。放っておけ」

 「それができないから困るんです!」


 
 話の内容は平行線。終わりが見えない。
 ブレイズは、デキる男である。敢えてミレイナのことを突き放しているのだろう。でなければ、あのように優しげな目はしない。
 
 
 
 「エドワーズ。もしかしてこれが『痴話喧嘩』?」

 「さあ?どうだろうな」
 
 「呆れたもんだぜ。こんなところで騒いでいたら、奥にいる化け物の方に気づかれちまう」

 
 
 ガロウジは気が気ではない様子だ。
 やがて道幅が段々と広くなる。酷い悪臭が強まってきた。
 足をあげると、靴底から粘り気のある粘液が糸を引く。灰白色かいはくしょくに染まる壁。むせ返るような濃い魔力が辺りに漂っている。
 いよいよ水の支配者クラーケンの棲家に到達したのだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...