虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

文字の大きさ
62 / 85
5章、呪われた二ディスの沼地

13、クラーケン討伐戦①

しおりを挟む
 
 「お、おいっ!早いところ、この場所から退散しようぜ!」

 「何をバカなことを。それをするのは、他の者たちも助け出してからに決まっているでしょう」

 「怖いのなら、ガロウジあなた一人だけで逃げればいい。私たちは、誰も止めたりしないから」

 「俺だけで帰れっていうのか?冗談じゃねえ。命がいくつあっても足りねえぞ!」

 「なら、これ以上お前は口を開くな。
 ――まだ見つかってはいないだろう。うまくいけば、クラーケンとの戦闘は避けられるかもしれない」

 

 ブレイズはそう言いながらも、己の得物である背中の大剣に手をかけた。
 わかっている。時間の問題だろう。敵は水の支配者クラーケンだけではない。深手は負わせたが生きている。遠目にしか見てないが、あれも普通ではない個体の筈だ。



 ――ギギギィ!……ガリガリガリ。
 


 (なんの音だ?)


 
 岩肌を引っ掻くような音。石柱の向こうから、何かがこちらを覗いていた。
 沼地の監視者、黒い鳥型の魔物である。頭部と上半身が異様にデカイ。翼の先には三本の鋭利な爪。片側に残る傷痕は、【虹の魔法】で貫いたものだろう。 
 飛行能力は失われているが、脅威が無いわけではない。人間の肉なんて簡単に引き裂ける。こちらの姿を捉えた巨大カラス。その喉奥から、身を震わせるような絶叫が辺りに響いた。
 

 
 《ギョワアアアアアアアッ!!》



 ミレイナが、真っ先に怯むことなく距離を詰める。正面の方向から、高い殺傷力を持つ岩の雨が投擲された。
 俺とリーゼの魔法援護が、的確にその全てを潰していく。
 巨大カラスの足が大きく地面を蹴った。信じられない跳躍力。ミレイナのレイピアは届かない。暗闇の向こうから水の支配者クラーケンの触手が伸びてくる。



 「下がれ、ミレイナ!」

 「待ってください、ブレイズ。あれは――」



 俺たちを狙ったものではない。巨大カラスが、水の支配者クラーケンの本体がいる場所に引きずり込まれた。



 「結局こうなるのかよぉ!?」

 「こっちは最初からそのつもりで来てるんだ。
 ――ブレイズは皆の救出を。予定通り、あとから合流してください」

 「最善を尽くそう」

 

 繭の切断時に使用する『熱包丁ヒーターナイフ』を渡しておく。ブレイズは、早速作業に取り掛かり始めた。


 
 「魔物の退治?腕が鳴るわね!」

 「そんなこと、させるわけない」

 
 
 リーゼが、駆け出そうとしたティアの首元をむんずと掴む。
 
 

 「えっ……な、なんでよ?」
 
 「怪我しているだろ。その足じゃ、まともに動けない」

 「もう直ったわ!」
 
 「そんなわけあるか。大体ティアは苦手なんだろう?ああいう相手は」

 「それは目を閉じるとか……頭から被り物をしたりすれば、何とかなるわよ!」
 
 「話にならない」



 当然だが、ティアはこの場に置いていく。ミレイナの仲間や、助け出したばかりの者たちも同様だ。
 遺跡内が大きく揺れる。地響きと共に聞こえる咆哮。食事の最中、巣穴の中に入り込んできた侵入者。心底怒り狂っているらしい。
 俺とリーゼ、ミレイナの三人は臆することなく、水の支配者クラーケンが待ち受ける穴の向こうに足を踏み入れる。



 「酷い魔力溜まりですね。これ程のものは初めてです」
 
 「今までの中で、一番イヤな感じがする。
 ――エドワーズ、気をつけて」

 「ああ、リーゼ。わかっているさ」



 灯りは必要ない。入り口とは違い、奥の方には無数の蝋燭ろうそくクラゲが漂っている。ダンジョン内の環境は絶好の生息地。警戒しながら辺りを見渡す。
 ドーム型の広い空間。壁一面に描かれた壁画、彫刻。どうやらいにしえの祭壇らしい。中央に建つ、巨大な祠らしきものは半壊していた。



 「おかしいですね。あれ程の巨体が一体どこに――」

 

 ミレイナが思い浮かべた疑問の答えは、すぐに分かった。
 ボタボタと、上から何かが垂れてくる。見覚えのある白い液体。それが水溜まりのように広がっていた。



 (まさか……!)


 
 はっきりと視線が合った・・・・・・。透明化の魔法が解け、灰色の化け物が姿を現す。
 天井に張りつく触手。タコ型の胴体。円形の口の中にビッシリと生えた牙。無数の触手で自重を支えながら地上に降り立つ。



 「なんて……大きさ!」

 「驚いている暇はないぞ、リーゼ。
 ――ミレイナさん。俺たちは作戦通りに、奴の注意をそらしましょう」

 「えっ?ええ!いや、しかし……。
 あなたはこのような状況でも冷静ですね。本当に大した子どもです」



 腹の底を震わす地響き。俺たちの目前で水の支配者クラーケンの巨体が起き上がる。
 同化した触手の数は全部で十本。【極彩セレヴィアの魔剣】で切り落とした二本は機能していない。速さではなく、攻撃性に特化した形状。攻略する余地はある。
 
 

 「あれ・・は魔法を使います。くれぐれも無理はしないように」

 「『超特殊個体《ノーヴァ》』とは、それ程のものですか……!とにかく、やるしかありませんね」

 
 
 俺とミレイナは二手に分かれた。左腕の傷は完治していない。最低限の動きだけで触手の攻撃を掻い潜る。
 


 ――ブオオオオオンッ!



 頭上スレスレを、灰色の影が勢いよく通過した。大きな風切り音が耳に入る。当たれば即死級の威力だが、ターゲットは分散しているので焦ることはない。
 ミレイナの方を見る。余裕で回避していた。俺たち二人はそれでいい。あとはリーゼに任せてある。



 ――準備の時間さえあるのなら。



 リーゼは言った。それなら触手の『魔力防御』を突破してみせると。
 六種の魔法を複合させた氷の刃。冷気がこちらの方にまで伝わってくる。水の支配者クラーケンの反応は早かった。三本の触手が盾となり、正面から放たれたリーゼの初撃を迎え撃つ。



 《――ヴォォォオオオン!?》



 痛み、驚愕、それらの感情が混じったような叫びが響いた。三層目のなかばまで容易く切り裂く。
 


 (隙ができたっ!)



 至近距離から、数発の【岩の魔矢ストーンショット】をお見舞いする。眼球を狙ったものだが、鬱陶しそうに弾かれた。
 しかし、本命は別にある。



 「これならッ!」



 リーゼの魔法二撃目が、水の支配者クラーケンの頭上高くから突き刺さった。……ように見えたが、直前で防がれる。
 魔法で透明化した触手を隠し持っていたのだ。リーゼも、予想はしていたらしい。だからこそ威力を押さえて、無駄な魔力消費を避けたのだろう。
 


 (あれを攻撃に回されたりしたら、厄介だな)



 手の内は理解した。それは向こうも同じである。
 切断した触手の再生が始まっていた。細長い形状。数本が絡み合い、肥大化して元通り。キリがない。
 水の支配者クラーケンの狙いはリーゼだ。突如、大木のような太さの巨影が、数十の触手に分裂する。網目状に広がり、逃げ場がない。



 「リーゼ!作戦変更だ。――あれをやる!」

 「(コクリッ!)」

 

 リーゼが頷く。氷の障壁で身を守りながら、すぐに後退していった。
 俺の狙いは遥か上。【岩の魔矢ストーンショット】を限界まで撃ちまくる。ミレイナは、とっくに水の支配者クラーケンの側を離れていた。


 
 ――ズドドドドドドッ!



 天井に着弾した魔法。付近の岩を砕き、広範囲に落石を発生させる。
 俺たち三人は、それを盾にして水の支配者クラーケンからの攻撃を凌ぎきった。一歩間違えれば、こちらも巻き込まれてしまう。諸刃の剣だが、それに見合う効果はあった。



 「とんでもない作戦ですね……!まさか、こうも上手くいくなんて」

 「今のうちに畳み掛けましょう。これで仕留め切れるのなら、俺たちの勝ちです」

 

 落石の中で、苦しそうに呻く水の支配者クラーケン。とどめを刺すために、リーゼとミレイナの二人が動く。
 この程度であれば問題ない。だが、奴は『超特殊個体《ノーヴァ》』と呼ばれている化け物だ。その意味は「とても恐ろしく、理解できない存在」。最後まで油断できない。
 俺たちがいるこの空間には、姿を見せない敵がどこかで息を潜めているからな。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...