虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

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6章、北の大地

12、歓待の席で②

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 「二人とも、よく似合っているな」

 「あっ……!」
 
 「エドワーズじゃない!」



 リーゼは、ホッとした様子で息をついていた。ティアは、ドレスの隙間からはみ出た尻尾をフリフリとさせている。
 どういった構造をしているのだろう?俺にとっては未知の領域のため、不思議でならない。



 「見てみて!このドレス、イルシアが選んでくれたのよ?」

 「エドワーズ様、どうでしょう?わたくしの見立てに間違いはなかったでしょうか?」

 「ティアにぴったりのドレスだと思うよ。イルシアも凄く綺麗だ。
 良し悪しがあまり分からない、素人の感想だけど」

 「エドワーズ様に誉めてもらえるだけで嬉しいです!ティアは体型がとても良いので、どれを着せるか悩んでしまいました」

 

 我ながら、歯の浮くようなセリフをよく言えたものである。ティアは当然のように、イルシアに対して敬称を付けていなかった。
 少し見ていない間に仲良くなったらしい。その輪には、リーゼも入っている。
 


 「エヘヘッ!エドワーズに褒められちゃった!」

 「私はどうなの?エドワーズ」
 
 「リーゼは、いつもとは違う雰囲気だ。すごく大人びて見える」

 「そう……なの?自分じゃあまり分からないけど、エドワーズが気に入ってくれたのなら、それでいい」

 「同性のわたくしでも見惚れてしまいます!
 ――リーゼが、エドワーズ様のために時間をかけて選んだドレスですよ。もっと褒めてあげてください」

 

 イルシアに言われて、リーゼのことをまじまじと見る。俺のために選んでくれたドレス。特に腰周りが素晴らしい。均整のとれた体つき。褒めるところなんて、それはもういくらでもあった。
 

 
 「どう?エドワーズ。あたしたちにヨクジョーしちゃった?」

 「頭がおかしくなったのか?少なくともティアだけはないな。絶対にない」

 「ウガーッ!なんでよ!!」

 「エドワーズはこういうのが好きなんだ……。
 だったら次は、もっと大胆なドレスを着てみようかな」

 「是非お願いします!」

 「ムゥー!リーゼばっかりズルいわよ。あたしのこともちゃんと見なさい!」

 「ウフフッ!みなさん、とても仲良しなんですね。このまま話していたいのですけど、わたくしが仕切らないとパーティーがいつまでたっても始まりません。
 ――ジェシカ、彼らに人数分の飲み物を用意してくれますか?」
 
 

 イルシアが、傍に立っていたジェシカに声をかける。彼女はすぐに頷くと、色鮮やかな液体が注がれたグラスを俺たちの元にまで運んできてくれた。


 
 「お酒はまだダメそうだから、あなたたちには代わりにこれを持ってきたわ」

 
 
 俺たち三人の分は果実のジュース。イルシアが受け取ったグラスの中身は酒だった。
 


 「ふーん……。あなたがあの・・エドワーズなのね。こうして近くで見ると、なかなか私好みの可愛い顔をしているわ」

 「セシルさんも、ジェシカさんと似たような反応をしていました。
 フレアのやつ、俺のことをどんな風に話していたんです?」
 
 「知りたい?それはねえ……今は秘密よ。でも、あなたの悪口なんて一言も口にしていないから。気にすることなんて、なーんにもないと思うけど?」
 
 

 服ごしでも分かるジェシカの胸の膨らみ。デカ盛り過ぎる。おとなの色気の破壊力。思わずガン見していると、リーゼに脇腹を小突かれた。ティアは、ジトッとした視線を俺に向けている。
 だって仕方がないだろう?あんなもの……見るなという方が無理な話だ。

 

 「今日は記念すべき日です。大切な客人たちを、こうして無事に迎え入れることが出来たのですから」



 イルシアが口を開くと、辺りが水を打ったように静まり返る。堂々とした声色だった。あの若さで、人の心を惹きつける力を持っている。
 


 「五年前に起きた悲劇を乗り越えることができたのは、王国に住む民たちと、この場にいるみなの働きのお陰です。
 我々は力を蓄えました。そして今ここに、わたくしの叔父であるローレン・グレフォード・オストレリアが遺した最後の希望が揃ったのです」



 なんだか大層な話になってきた。イルシアが、俺の傍に歩み寄る。その手には、キラリと光る何かが握られていた。
 銀に輝くブローチ。一本の杖を囲むようにして、三頭のハーマイル神獣の形が彫られている。
 イルシアみずから、それを俺の胸元に付けてくれた。何か特別なものなのだろう。その証拠に、会場内にいた者たちが一斉にザワザワと騒ぎ始めた。



 「イルシア、これは?」

 「『大賢者』の勲章です。ローレン様の意志を継がれたエドワーズ様にこそ、その座は相応しいとわたくしが判断しました(本当は、ソフィアお姉さまが決めたんですよ!)」



 「あり得ない」「さすがに早計すぎるのでは?」「あんな子どもに任せようとするなんて」――そのような声が耳に入ってくる。
 

 フレアと老将軍アルベルド以外の者たち。『地下迷宮』の中で目にした顔ぶれですら驚いていた。ソフィアが口止めをしていたらしい。
 戸惑う俺に、ジェシカが声を潜めながら話し掛けてくる。
 
 
 「それは特別な勲章よ。かつてローレン様が務められていた『王室魔術師部隊師団長』の証でもあるわ。その権限は将軍クラスのものなの。つまり、あなたとアルベルド将軍の判断だけで、王国軍を好きなように動かせるようになる。
 こうして騒ぎになるのも無理はないわね」
 
 「ちなみに……こいつを辞退することは?」

 「難しいわ。女王陛下の決定に対して、公の場で異議を唱えることになっちゃうし」
 
 「ですよねー!」



 ジェシカ自身も「驚いた」と言っていた。そうだろう。そんな権限、余所者に対してホイホイ与える方がおかしいのである。
 


 「思っていた通り。とてもお似合いですよ、エドワーズ様!」

 「ありがとう」
 
 
 
 ニッコリと笑顔を浮かべるイルシア。断れる雰囲気ではない。それがソフィアの狙いだろう。だからこそ分からなかった。
 

 このままでは臣下の者たちが納得しない。周囲からの反感を買うだけである。ソフィアはどうするつもりだろう?
 賢い彼女のことだ。この状況を変えるための策を用意しているはず。遠くから目が合うと、小さく手を振っていた。嫌な予感しかしない。



 「さあッ!食べて食べて、食べまくるわよ~!」

 「待って、ティア。いきなり走り出さないで!」



 乾杯の挨拶を終えると、ティアは真っ先にご馳走の山に向かっていった。リーゼがすぐにそのあとを追いかける。周りにいた者たちの関心は、あっという間にパーティー会場の華である二人の方へ。
 
 

 「エドワーズ様。さっそくですが、わたくしに旅のお話しを聞かせてもらえませんか?」

 「イルシア様。残念ですが、彼にはこわいこわーい、他の話し相手がいるようですよ」

 「ジェシカ、あなたはいったい何を言って……?ああっ!なるほど。
 ――エドワーズ様。あとは頑張ってくださいね!」

 「は?」


 
 ジェシカとイルシアが逃げるようにして去っていく。わけも分からず後ろに振り向くと……そこにいた。眉間にシワを寄せた老将軍アルベルドが立っている。
 俺は思わず「ヒエッ!」と息を呑み込んだ。



 「な、なんでしょう?」

 「少しだけ、話をしたい」
 
 「よろこんでっ!」
 

 
 本音を言えば断りたいが、それは無理だ。「おとなしく付いてこい」と顔に書いてある。
 はいはい、ちゃんと従いますとも。逆らうつもりなんてありゃしませんって。
 会場の外にあるバルコニーまで移動する。ここなら余計な邪魔は入らないだろう。



 「……本当に子どもなのだな。話しに聞いていたよりもずっと小さく、幼く見える」
 
 「俺のことについてなら、話し半分に聞いておいた方がいいですよ。
 あいつ……フレアは、いつも大袈裟すぎるんです」

 「わかっている。だが、あれはともかく、ローレン殿は信じるに足るお方だ。
 ソフィア様が決められたことに対して、私から意見することは何もあるまい」

 

 へぇ?その割には、文句がありそうな顔をしているじゃないか。
 
 
 
 「あなたは、ローレンさんのことをよくご存じなんですね?」

 「昔に仕えていた身だ。ローレン殿は、常にひとりで戦われる。我々の援護すら余計な世話だと言われてな。
 誰かを頼られるような方では無かったはずだ。ましてや、年端もいかぬ子どもに王国の全てを託すなど……」
 
 「本当のことですよ。嘘はついていません」



 こちらは真実を言っている。後ろめたいことは何もない。俺は「品定めするならご自由に」と両手を広げた。



 「昨晩は、シーフライト団長を相手に無傷で立ち回ったそうだな。が……強そうにはとても見えん」

 「結構ギリギリでしたけどね」
 

 
 シーフライト。確かフレアの家名だったよな?初めて会った時に聞かされた覚えがある。
 


 「まあいい。すぐに分かることだ。その時が来たら、お前が王国の行く末を任せるに足る人物かどうか、この目で見定めさせてもらおう」

 「えっ?それはどういう――」

 「エドワーズ・グレフォード。その実力が本物であれば乗り越えられる筈だ。
 期待はしておこう。そうでなくては困るからな」



 老将軍アルベルドは、それ以上何も答えなかった。意外なことに、向こうは俺のことを大して嫌ってはいないらしい。
 

 去っていく背中を黙って見送った。短時間外に出ていただけで、体温がかなり下がってきている。
 建物の中に入ると、会場の一角が騒がしい。そこには想像していた通り、ご馳走の山にかぶりつくティアたちの姿があった。


 
 「これ、どれもホントにおいフィいわっ!!」

 「ティア。話すか食べるかのどっちかにして。せっかくの綺麗なドレスが汚れちゃう」

 「リーゼの言う通りだ。そんなに慌てなくても、目の前にある料理の皿は逃げたりしないぞ?」

 「エドワーズ!……急にどこかに行っちゃったから、心配してた」

 「モグモグモグ。遅かったわね!
 ほらこれ。エドワーズのために、あたしが取っておいてあげたのよ。早く食べてみて。
 とっても美味しいから!!」

 

 ――ズボッ!



 ティアがその手に持っていた骨付き肉を、俺の口の中に突き入れる。無理やり口を塞がれてしまったので何も言えない。
 見ると、すでに数人前の量の食事を平らげていた。なのにティアの腹周りの細さは変わらないままである。どういう魔法だ。
 

 
 「誰かに話しかけられたりしなかったのか?」

 「近づいてくる人はいたけど。ティアが食べ始めたら、いつの間にか皆いなくなっちゃった」
 


 下心を持った若い男どもは、自然と追い払われる形となったらしい。みんな目を丸くして、ティアが食事をする様子を眺めていた。
 


 「こういう場所でも、ティアはいつもと変わらないから。一緒にいてくれると安心する」

 「まぁ、リーゼがいくら綺麗でも、隣にいるティアこれを見て近づいてくる奴はいないだろ」

 「え……?」

 

 リーゼが、俺の方を見る。何かおかしなことを言っただろうか?


 
 「どうかしたのか?」

 「……ううん、何でもない。少し驚いただけだから。エドワーズは気にしないで」

 「リーゼってば、嬉しそうにしてるわね!
 もしかして、あたしのおかげなのかしら?」

 「そう。ティアのおかげ。だから今の私は気分がいいの」

 「聞いた?エドワーズ。あたし、とっても役に立っているって!」

 「そこまでは言ってない」


 
 いちいちオーバーに物を言うティアに呆れてしまう。
 イルシアとジェシカが、こちら側に近づいてきた。揃って当然の反応というべきか。積み上げられた皿の山を目の前に唖然としている。



 「これは……!物凄い食欲ですね」

 「ここにあるのはほとんど全部、ティアがひとりだけで食べたものなんだ」

 「この量を一人でですか?そんなことをして、ティアの体は大丈夫なのでしょうか?」

 「んー。今はこれで大体腹四分目くらいね。何も問題ないわ!」

 「うちの団長……フレアちゃんでも、流石にこの量は食べきれないわよ?獣人族の人たちって、みんなこんな感じなのかしら?」



 フレアの食事量も相当なものだった。氷嵐ブリザードの期間中、ローレンの家にある食糧庫の中身を空にしかけたことは忘れていない。



 「老将軍アルベルドとは、どのような話をされたのですか?」

 「認めてはくれないみたいだ。自分の価値を証明してみせろってことだと思う」

 「エドワーズ様なら、きっと大丈夫ですよ。お姉さまが認められた方なのですから。自信をもってください。
 『大賢者』の勲章……やはり、突然のことで迷惑でしたか?」

 「驚いたけど嫌じゃないよ。今はかなり気に入ってる」

 「……!そうですか。なら、良かったですっ!」

 
 
 安堵の表情を浮かべるイルシア。隣の三人は、先ほどから楽しげな様子で話をしている。途中から姿を見せたセシルも会話の中に加わった。
 先ほどまで騎士団の仕事に追われていたらしい。ようやく全てが片付いたので、一度顔を出しに来たと言っていた。
 


 「お疲れさま、セシルちゃん!そろそろ来るだろうと思って、あなたの分のお酒を用意しておいたのよ」

 「……いただきましょう」

 
 
 ジェシカが差し出したグラスの中身が一気に空になる。だいぶお疲れのようだ。
 
 

 「フレアが団長だと、やっぱり苦労する?」

 「ええ、まぁ。しかし、それが私の役目なので。彼女に対する不満はありませんよ、リーゼ様。
 むしろ自ら望んでこの立場に就かせてもらっているのです」

 「そうそう。セシルちゃんは、フレアちゃんのことが大好きなのよね~?」

 「その呼び方は止めなさいと、前にも言ったはずですよ!ジェシカ」
 
 「あのセシルって人、さっきからピリピリしてるわね。お腹が減っているのかしら?」

 「気になるんだったら、ティアが何か持っていってあげればいいんじゃないか?」

 「ウーン、そうね……(かなり悩んだ様子を見せるティア)。ご馳走はまだ沢山残っているし、エドワーズの言う通りにしてみるわっ!」

 

 リーゼが、ジットとした視線を俺に向けてくる。何事も切っ掛けが大事だろう。フレアが率いている騎士団のメンバーとは、今後のことを考えると仲良くしておいた方がいい。
 


 「さあリーゼ、わたくしたちも混ざりに行きましょう!」

 「待って、イルシア。
 ――エドワーズは一緒に来ないの?」

 「ああ。俺のことは気にせず行ってこい。会場内の様子を適当に見て回ったら、あとでまた合流するよ」

 
 
 イルシアが無言のままコクリと小さく頷く。さすがは王国を治める女王。声に出さなくても察してくれるのは有難い。この場は任せても大丈夫だろう。
 

 ローレンがつけていた物と同じ。胸に輝くブローチの効果は絶大だ。あとは周りからの信頼を勝ち取るだけでいい。
 その相談をするために、俺は遠目からこちらを見ていた人物の元へと歩き出す。
 

 
 「わざわざ戻ってこなくても良かったのに」

 「そういうわけにもいかないだろ。なんの説明もなしにブローチこんなものを渡されたんだ。
 ソフィアの目論みは大成功だよ。とんでもなく驚かされた」

 「フフッ!それはどういたしまして」

 

 褒めてはいないんだけど。常に手玉に取られている感じがする。敵わないことは理解しているので、それについてツッコむことはやめておいた。



 「昨日やって来たばかりの余所者に、こんな大役が務まるとは思えない。どうするつもりなんだ?」

 「簡単なことよ。あなたの実力を見せつけてあげればいいんじゃない」

 「……なんだって?」
 
 「五日後、要塞の中にある訓練所を貸しきるわ。対戦する相手はフレア。王国が抱える最強の騎士。誰もが認める真の強者よ」
 
 「まーてまてまてまて。待ってくれ!」

 
 
 俺がフレアと大勢の前で試合をする?冗談だろ?

 
 
 「あら?冗談ではないわよ」

 「……まだ何も言っていないだろ」

 「顔に出ていたわ。もっとも手早い方法よ。それで臣下の者たちを納得させるつもり。
 どうかしら。これ以上ない名案だと思うけど?」
 
 「……ソフィア様。今の話は本当ですか?」

 

 フレアも初耳らしい。馬鹿げた案だと文句を言ってくれれば助かるが、こいつは違う。



 「聞いたか!エドワーズ」

 「ちゃんと聞いてるよ」

 「なぜそんなに元気がない?本番はたった五日後だぞ?
 なーに、安心しろ。私は絶対に手を抜いたりしない。正々堂々の一対一だ。
 どうだ?楽しみになってきただろう?」

 「……棄権しても構わないか?」
 
 「何か他に名案があるのなら、話は別ね」

 「そんなもの、あるわけないだろ……」

 「楽しみだ!エドワーズと決闘できる……。
 グフッ!グフフフフフフフ……!」

 「一応言っておくけど、俺たちがやるのは決闘じゃなくて試合だからな?」
 
 

 選択肢はない。こうなったらやるしかないだろう。とはいえ対戦相手がフレアこれである。無傷でいられる可能性は極めて低いだろう。
 それは昨晩のように、俺が本気を出していなかった場合の話だ。
 


 「期待しているわ。エドワーズ」

 「せめて手足がもげたりしないように祈っていてくれ」

 

 ソフィアはハッキリと口にする。
 ――あなたなら大丈夫よ。


 
 「なぜならローレン様が認められた、唯一の魔術師なんだから」


 







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