虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

文字の大きさ
79 / 85
6章、北の大地

14、強さの証明 VSフレア①

しおりを挟む

 この日を待ち望んでいたのだろう。フレアはえらく上機嫌だ。あまりにも人の数が多すぎる。会場には、俺のことを一目見てやろうと考えている野次馬ばかり来ていた。



 「大人げない連中だな」

 「ん?何か言ったか?エドワーズ」

 「寄ってたかって俺たちの試合を見に来たんだろ?この国には暇人が多いと思っただけさ」

 「そんなことはない。午前の間はどこも仕事が休みになったんだ。ソフィア様が取り計らわれたお陰だぞ?
 我々は何も考えず、これからおこなわれる試合に集中すればいい」



 フレアが引き抜いた魔剣の刀身がキラリと光る。
 高々と天に向かって突き上げ、謎ポーズ。あれでカッコつけてるつもりらしい。
 すぐ近くでは、木剣を抱えたフレアの部下がオロオロしていた。



 「だ、団長!彼との試合では、魔剣の使用は禁止されているはずです」

 「ああ、知っているとも。
 しかーし!この愛刀は私の身体の一部。腰に差しているだけなら問題ないだろう?」

 「もうすでに抜かれているじゃないですか!」

 

 ジェシカがこちらに向かって来る。流石に見ていられなくなったのか。俺としては何を使われようと構わないのに。
 結局は子ども扱いをされているのだろう。



 「フレアちゃん。悪いけどその剣は没収よ」

 「なっ……!なぜだ!?」

 「当たり前じゃない。だって危ないでしょう?
 彼の安全をよく考慮した上での判断だから、文句を言わずに従いなさい」

 「……ああすまない。私は少し浮かれてしまったようだ」



 フレアは反省した様子で剣を納めた。代わりに用意された木剣はかなり古い。あれでは簡単に折れてしまうだろう。
 つまり、今の俺はその程度の実力しかないと思われているわけか。



 「使えばいいだろ」

 「「えっ?」」

 「魔剣だよ。俺はまったく問題ないけど?」

 「ダ、ダメよそんなの!」



 ジェシカが反対するが、気にすることはない。
 フレアが言った通り。何も考えず、目の前の試合だけに集中する。



 「これでもちょっとはやる気が出てきたんだ。余計な気遣いはされたくない」

 「本当に大丈夫なのか?エドワーズ」

 「俺のことを舐めすぎだ。一応本気でやるから、そっちも最初からそのつもりでかかってこいよ?」

 「……いいぞ。ハハハッ!よしっ、それでこそだ。エドワーズッ!!」



 フレアが再び剣を抜いた。そして構える。たったそれだけの動作で辺りの空気が一気に変わった。



 「――ッ!まずいわ、すぐにここから離れるわよ。掴まって!」

 「……ジェシカさん?――キャッ!」



 ジェシカは迷わず、もう一人の団員の体を抱えて離脱する。その理由はフレアにあった。
 大量の魔力が訓練着の表面に纏わりつく。まるで重鎧。それほどの存在感。化け物じみた『魔力防御』だ。その瞳には俺の姿しか映っていない。



 「準備はいいか?エドワーズ」

 「ああ。いつでも」



 人外の境地に足を踏み入れている。上位魔族の黒騎士よりも遥かにヤバい。自然と笑みがこぼれた。
 合図はない。向こうも分かっている。どちらかが動き出した瞬間に始まることを。会場にいる全ての者たちが息をのんで見守った。
 

 一陣の風が吹く。小さな砂粒が舞い上がると同時に、フレアの姿は俺の視界から消えていた。





*****





 数百人が一斉にフレア片方を見失う。
 エドワーズは真横に跳んだ。金色の残像が瞬間移動のごとく距離を詰めてくる。
 突進と同時にフレアが伸ばした腕は何もない宙を掴んだ。
 
 

 ――ガキンッ!



 重い金属音が鳴り響く。追撃をかけようとしたフレアの足がその場で止まった。エドワーズの放った岩の魔矢魔法が剣の刀身に当たって砕ける。


 エドワーズは、すかさず反撃に転じた。続く二発目を、フレアは身を屈めて避ける。低姿勢のまま地面を蹴った。逃げることなどかなわない。エドワーズはすぐ手の届く距離にいる。
 気づいた時、フレアの視界は眩い輝きに包まれていた。



 「一体何が……起きたのですか?」
 
 
 
 誰もイルシアの問いに答えない。答えられない。
 最初の攻防を目で追えた者はいなかった。エドワーズが中央に一人だけで立っている。つまり、三十メートル以上後方に吹き飛ばされたのはフレアの方。

 
 初級の『複合魔法』でも、攻撃の範囲を限界まで狭めれば相当な威力となる。
 ほんの数センチ。エドワーズは、そこをピンポイントに狙っていたのだ。撃つのではなく置いておく。未来予測にも似たカウンターを回避することは難しい。
 


 (私たちの時とは全然違う!)



 リーゼは言葉を失う。あのような信頼を向けられたことはなかった。近くにいるようで遠く見える。埋めることのできない実力差。
 それを突きつけられた気がした。
 
 

 フレアが土煙の中から姿を現す。
 ティアは、無意識に両手を握り締めていた。自分であれば間違いなく戦闘不能になるだろう。もしくは死んでいるかもしれない。
 


 「……何で立ち上がってこれるのよ?」
 
 「あれは普通の『魔力防御』ではありません。その極致、『魔装錬成』と呼ばれる奥義です。上級魔法の直撃にも耐えられる魔力層ですから。破ることは難しいでしょう」
 
 

 言わずと知れたフレアの武功。セシルはその姿を常に間近で目にしてきた。なのにどうだろう?このような状況は初めて目にする。
 驚き、疑念を抱き、最後には考えることを止めていた。何故なら無駄だから。誰もが見誤っていた。エドワーズ・グレフォードという少年が持つ力量を。


 フレアの姿がまたも中央から消える。エドワーズはその動きを完全に捉えていた。足をつけるであろう地点に魔法を撃ち込むことで相手を牽制、迎撃していく。
 


 「あの速さで動く相手を、何故あそこまで正確に狙うことができるのですか?」


 
 ヘクターが思い浮かべた疑問。目の前で起きていることを否定するほど愚かではなかった。
 リーゼとティアは知っている。紙一重の攻防を繰り広げるエドワーズ。それを可能にしている確かなスキルを。
 
 
 
 (エドワーズの『超近接型魔法戦闘技法ゼロ・アーツ』。私もできるけど、あんな風に長くは保たない……!)

 
 
 集中力と冷静さ。それらは戦闘の最中、徐々に疲弊していくものである。エドワーズにはそれがない。
 フレアの速さ、剣技、二つを合わせた攻め手を回避し続けていた。その胆力は、エドワーズに厳しい目を向けていた老将軍アルベルドですら唸らせる。
 


 「どうかしら?これなら文句のつけようがないでしょう?」
 
 「……試合はまだ続いております。結論を出すのは早すぎますな」

 「(相変わらず素直じゃないのね)果たしてそうかしら?私はハッキリしていると思うけど」


 
 その方面の知識に疎いソフィアでもわかる。フレア・シーフライトが手玉に取られているのだ。他国にまでその名が轟く英雄。人族で彼女に勝てる者は存在しないとさえ言われているのに。
 
 
 
 (素晴らしいわ……エドワーズ!)

 

 期待せずにはいられない。中央を激しく行き交う魔力の残光。フレアの剣圧が客席にいる者たちの肌を叩く。
 エドワーズの魔法はすべて『魔装錬成』によって阻まれていた。【属性魔矢エレメンタルトショット】のみでは、フレアの体に傷ひとつ付けられない。反対にあちら側の攻撃は致命的だ。エドワーズの魔法手数が時間の経過と共に増えてくる。
 


 「ウソ……!まだ速くなるの?」

 「お姉さま、すぐに試合を止めましょう。このままではエドワーズ様が怪我をされてしまいます!」

 「そう慌てなくても大丈夫よ。彼なら、きっと上手くやってみせるわ」

 「ソフィア様、恐れながら私もイルシア様と同じ意見です。戦場に立つ彼女の実力はあんなものではありません。
 そのことはよくご存じなのでは?」

 「みんなお願い。黙って見ていて」

 「リーゼ……様?」
 
 
 
 セシルは困惑した。試合は次第に激しさを増している。手遅れになる前に止めなければならない。ソフィアも分かっている筈だ。フレアが遠慮なく剣を振る姿を目にして背筋が凍る。
 ――いけません。あのままでは本当に彼のことを殺してしまう!
 
 
 
 「あんなに楽しそうにしているエドワーズを見るのは久しぶり。だから最後までやらせてあげて」

 「そ、そんな理由で?しかし、一歩間違えれば取り返しのつかないことになりますよ?」

 「セシルあなたの言いたいことは分かってる。でも、エドワーズの実力もあんなものじゃない」

 「(意地になっている……わけではないようですね。だとしたら本当に?そんなことがあり得るのでしょうか?)」



 この先は誰も想像つかない。一部の者たちは気づいていた。エドワーズが見せた魔法はひとつだけ。手の内がたったそれだけということはないだろう。
 寸前で止める気を無くしたフレアの剣。それを迎え撃つのはかつて最強と呼ばれた『虹の魔術師』であることを、人々は知る由もなかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...