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6章、北の大地
15、強さの証明 VSフレア②
しおりを挟む――フレア視点――
経験がない。まるで雲を掴むような感覚だった。
フレアは戦いの中で確信する。そのつもりはなくても無意識に加減をしていた。この相手には、己の全力をぶつけなければ届かない。
(まさかこれ程やれるとはな、エドワーズ!)
こちらの攻撃がすべて見えているらしい。あらゆる角度から攻めても意味がなかった。フェイントを織り交ぜても簡単に見抜かれる。なら、ここからはやり方を変えればいい。
攻撃の範囲を広げて相手の逃げ場を無くすのだ。
もはや遠慮はいらない。剣に込めた魔力を『魔装錬成』で増幅させる。制御できるのは二倍まで。直剣サイズの得物が大剣に変わる。軽々と振り回した。よく手に馴染む。
――やはり私は、こちらの方が扱いやすいな。
間合いが伸びたことで、エドワーズの手数は徐々に減った。神がかり的な回避能力があるとはいえ、その場から消えているわけではない。確かな手応えを感じ取る。
フレアは剣先を大きく後ろに引いた。この構えを見せるのは初めてではない。しかし、前の時とはものが違う。
「いくぞっ!」
オストレリア流剣技、【絶え間ない連撃】。神速の突きが雨のごとく相手に向かって降り注ぐ。
『魔装錬成』で強化された技を受けて立っていられた者はいない。普通に考えれば肉体の形すら残らないだろう。
(お前の場合は違うはずだ。この程度でどうにかなるわけがない!)
エドワーズは、魔法で人ひとり分の高さしかない土壁を築いて後ろに隠れた。信頼と共に放ったフレアの連撃がそれを容易に破壊する。あまりにも脆すぎた。警戒して攻撃の手を止める。
そうしなければ防御は間に合わなかっただろう。
「クッ!?」
咄嗟に体勢を変える。宙に足が浮きそうになるが、なんとかその場に踏みとどまった。崩れた土壁に紛れて急接近してくる黒い影が視界に映る。
剣を払うと打ち合うような音が響いた。そこで初めて後ろに下がり、状況を見極めようとする。
(魔法……なのか?なんだあれは?)
エドワーズの両腕を包む魔力のオーラ。生きているかのように動き出して形を変える。まるで輝く鱗のようだ。得たいが知れない。『魔装錬成』に似た何か。
強化したこちらの剣を弾く硬度を持っている。
「それがお前の奥の手か?」
「そんなところかな。面白くなってきただろう?」
「……ああっ!今がまさに人生最高の瞬間だ!」
「そりゃ良かった。ま、虹の魔法を出したからには期待に応えるさ。精々頑張って抗ってみせてくれ」
エドワーズの挑発に対して笑みを浮かべる。相手が何をしてこようと、こちらの出方は変わらない。力で真正面から打ち破るだけだ。
剣、魔力、五体の全てを一体化させるイメージ。地を足で蹴ると共に、その身は一振の刃と化してエドワーズに襲い掛かった。
「【闘剣魔気】」
自らの体を持ち手とする技。これならば一切の隙なく剣を振るえる。動作を必要としない斬撃。辺り一帯を容赦なく切り刻む。明らかに試合の範疇を超えていた。
そうまでしても、エドワーズには傷ひとつ付けられない。
――ギャリィィィンッ!
「ハハッ……!」
『超特殊個体《ノーヴァ》』種の魔物ですら屠れる威力の攻撃を防がれた。虹の魔法、【黄金の装具】の絶対防御。思わず笑いが込み上げる。これ程の魔法は初めて目にした。
唯一の勝機は攻め続けることだろう。破れはしないが、厚い黄金色の魔力層が削れてきている。状況はこちらに有利だ。
(また岩の魔矢か。気にすることはない。このまま押し切ることができればッ――!)
反撃の一矢。何度もその身に受けた魔法。故に回避は選ばない。吸い込まれるように直撃する。そこから予想外の衝撃が伝わってきた。
黄金の残滓。【黄金の装具】の付加による威力向上。しかし、こちらの『魔力防御』は健在だ。体にかかる負担をものともせず、フレアはすぐに体勢を立て直す。
生まれた隙は、瞬きの合間のようなものだった。
「なっ!?」
互いの息がかかる距離。気づいた時、エドワーズの姿はそこにあった。
驚きのあまり、目を見開く。肩の上に感じた僅かな重み。伸ばされたエドワーズの腕が、何かを引きちぎるように後ろに引かれる。
「付加魔法」
信じられない光景だった。全身を覆っていた『魔力防御』が強制的に剥がされていく。その下は生身の体。一度崩れた牙城の修復は間に合わない。
――エドワーズは抗えと言った。なら、最後の瞬間までそうしてみせよう。
(お前を失望させたくないからな)
地に剣を叩きつけ、視界を遮る。向こうは間違いなく畳み掛けてくるはずだ。そこに合わせるしかない。
砂埃の中に見えた僅かな揺らぎに突きを放った。刀身に纏わせた魔力を一気に解放する。『魔力防御』なしでは使い手の肌を焼く捨て身の技。これしか手は残されていなかった。五メートル程の範囲が空間ごと削り取られる。
「……まったく。大したやつだ」
フレアは剣を下ろして目の前の結果を受け入れた。
首元に突きつけられた指先。この状況をどうにかする手立てはない。それは想像していたよりもずっと心地よいものだった。相手がエドワーズだからだろう。清々しい思いで試合を終わらせる言葉を口にする。
「私の負けだ」
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