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第一章 名も無き蝙蝠
第2話 器
しおりを挟む俺はなるべく音を立てない様にネズミの背中に落下した。ネズミは、驚いて一旦跳ねる様に飛び上がったが、気にする事なく背中に取り付いて噛み付く。
「キキッ!」 (【吸血】!)
俺はとりあえず能力を使ってみた。
すると、蝙蝠の体の中に濁流の様に血が流れてきた。
ネズミは最初は滅茶苦茶に暴れていたが、血をどんどん吸って行くと動きが鈍っていき、最後にはミイラの様にカピカピになり息絶えた。
「キキッ! キキキっ!」 (ケプッ! 美味い!)
ビックリした。ネズミがめっちゃ美味いし、空腹感もなくなった。俺は血がエサになるのかな?
前世の吸血コウモリみたいなもんか。
とりあえず、天井に戻ろう。
結構大きい音も出してしまったし、ゴブリンに見つかると厄介だ。
天井に戻り、また逆さ吊りでぶら下がった俺は考える。
ネズミが死んだ時に、血以外の何かが流れこんできたのだ。ラノベ的に考えたら経験値だけどなぁ。
そんな事を考えながら、自分の精神的な内側に意識を向ける。
こうしてたら自分に【吸血】の能力がある事が分かったのだ。
とりあえず、ぼーっとする時はこの状態になる様にしている。
「キ? キキッ?」 (ん? これは?)
自分の体に器の様な物があるのが分かり、そこに僅かだが何かが溜まっていた。
これは、血とは別に流れてきたやつ?
微妙に貯まってるし、さっきは気付かなかったのは貯まってなかったからかな?
ちょっと試してみたいけど、お腹いっぱいなんだよなぁ。
ネズミを探しといて、お腹が空いたらすぐに試せる様にしとこうか。
思い立ったら即行動! 殺そうと思った時もそうだった。
いざ! ネズミ探しの旅へ!
そう思ってた時が俺にもありました。
さっきみたいに、ちょろちょろと飛んで、休憩を繰り返していたら、ふと遠くからゴブリンがやってくる様な気配がした。
なんかこの体になってから、視界が全方位あるような感覚なんだよね。
蝙蝠だし、超音波的なサムシングかな? 能力には無かったんだけど…デフォルトで付いてる感じ?
意識的に使える様にならないんだろうか?
ゴブリン共が近付いてきて、どうせ身動き出来ないしやってみようか。
「キキッ…」 (頭痛てぇ…)
結果、使えた。
けど、めちゃくちゃ頭が痛くなる。
超音波から得られる情報を処理しきれない。
少しずつ慣らしていくしかないな。
ネズミ探しが楽になるだろうし。
後、ゴブリンにちょっかいかけてみようとしたがやめた。あいつら、俺がそれなりに苦労して倒したネズミを片手間で倒してたもん。
なんか木で出来た棍棒みたいなので、一振りでグシャって。
俺よりも遥かに強い。
あいつらからは当分逃げ回る。
幸い、天井に貼り付いてたら気付かれないみたいだし。気付いてて無視されてたら助かるけど、腹立つよね。
それから、またゴブリンが居なくなるまで超音波の練習をしてネズミ探しに出かけた。
まぁ、何処にでも居るのかすぐ見つかるんだけど。
で、前回と同じ様に背中に貼り付いて能力を使う。やっぱり、血とは別に何かが流れて来た。
俺は天井に戻り、器を確認する。
「キキッ。キキキッ」 (うん。やっぱり増えてる)
なるほど?
生き物を殺すと何かが流れて、器に貯まると。
やっぱり経験値説が濃厚か。これは、満タンになったらどうなるのか。定番で言ったら進化なんだけどなぁ。
後は器が増えたり、大きくなったり?
ふむふむ。これは検証が必要ですな!
なんか蝙蝠になってから、随分楽しんでる様な気がする。前世はまず、楽しむという思考が無かったからなぁ。
ここが異世界なら、俺にとやかく言ってくる人はいないし生き物も殺せる。今の所、ネズミだけだが血も美味い。
ゴブリンはどんな味なんだろうか?
それ以外の生き物は? 気になる事が多すぎる。
それに背中に口を直接当ててるからか、命が消えていく感覚をかなり身近に感じられる。
こんなに楽しい事はない。
現状では、俺を脅かす程の勢力もゴブリンだけだし、かなりこの生活に満足してる。
これは決して、前世では味わえなかった事だ。
出来れば、ここから成長して自由にやりたい放題出来る程の力を手に入れたい。
そして気に入らないやつは片っ端から殺して血を飲みたい。
俺は自分でもイカれた思考をしてると思いながらも、次なるネズミ探しに向かった。
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