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第四章 迷宮都市ラビリントス
第125話 邂逅
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嫌な胸騒ぎがいつまで経っても消えず、貯金を切り崩してまで違和感が無くなるのを待っていたデスター。
毎日の様に娼館に通っていて、今日も嫌な予感が消えてなかったので、娼館に行こうとしていた。
「あぁ!? 金庫がねぇ!!」
いつ、どこで、どうやって無くなったのか、デスターには分からない。
分かっているのは、お金を稼ぎにいかないと娼館に行けなくなるという事。
「ちっ! 仕方ねぇ。今日はなるべく浅い階層で数を多めに狩るか」
未だに胸騒ぎは治らないが、お金が無くなってしまったのなら仕方ない。
なるべく危険が無い所でとりあえずのお金を稼ぐ事にした。
幸い、迷宮に入る準備は出来ている。
デスターは駆け足で迷宮に向かった。
「ふぅ。気のせいだったかぁ?」
迷宮に入り、15層辺りでお金になる魔物を狩って一息つくデスター。
特に何かが起こる訳でもなく、周囲に気を配りながらその場に座り休憩していた。
狩った魔物を魔法鞄にしまい、もう少しだけやっていくかと思案していた頃。
不意に今まで以上の悪寒に襲われて、その場を飛び退く。
しかし、気付けば何処か分からない所に移動させられていた。
「うぇるかーむ!!」
「はぁ?」
後ろから声を掛けられて慌てて振り向く。
全く気配を感じなかったので、デスターは警戒心をMAXにして臨戦態勢に入る。
そして、振り返って見たその光景。
デスターは一生忘れる事はないだろう。
まもなく終わってしまう一生だとしても。
真っ赤な髪をした貴族の様な美丈夫。
その護衛なのか、キリッとした表情の女騎士。
5mは超えるであろう、魔王の様な覇気を撒き散らす狐の魔物。
3mぐらいの大きさのこれまた、魔王の様な鬼。
「な、なんだぁ?」
いくら、S級冒険者として場数を踏んでいても、この展開は予想外過ぎて、動く事ができなかった。
「いやー。やっと来てくれたね、デスター君? ずっと迷宮で待ってたのに全然来てくれないんだもん」
「いったいどういうこったぁ?」
赤髪の男が会話をしてきたので、とりあえず応じる。デスターも状況を整理する時間が欲しかったのだ。
「いやね? 俺達、迷宮の攻略が終わったからこの街のS級冒険者を全員殺して、おさらばしようと思ってさ。デスター君は、その記念すべき一人目という訳だよ」
言ってる事がまるで理解出来ない。
迷宮攻略をしたのは、信じられないがまぁ良いとしよう。
それで、何故S級冒険者を殺そうと思うのか。
デスターは異常者をみるような目で男を睨みつける。
「良くみたら指名手配されてる奴にそっくりじゃねぇかよ。あの化け物はお前が作り出したのか?」
睨みつけて初めて気がつく。
こいつは数年前に、教会の禁忌を犯したとかで指名手配されてた奴だ。
「あ、やっぱり分かっちゃう? ほんと、あれのせいで街中を気軽に歩けなくなって困ったもんだよ」
「お前のせいで何人死んだと思ってやがる!」
あの騒動では、初動が遅れた事もあり、それなりの人数の人が死んでいた。
中にはデスターと仲が良かった冒険者も含まれており、思いがけず元凶を見つけたと憤る。
「知らないよ、そんなの。なんで俺がそんな事を気にしなくちゃならないんだよ」
「人としてやっちゃいけない事があるだろうがよぉ!!」
「人として…? あ、そっかそっか。この見た目だもんね。デスター君が勘違いしてしまうのも仕方ないか」
赤髪の男はデスターの言葉にキョトンとして、苦笑いしながらも頷く。
「そうだな。まずは自己紹介から。レト・ノックスって言います。ちょっと前に誕生した魔王って言えば分かるかな? どうぞよろしくお願いします」
「は?」
そう言って、赤髪の男は背中から翼を出す。
蝙蝠の翼を立派にした様な禍々しい翼で、決して人間にあっていいようなものではなかった。
「ま、魔王だと!?」
「生まれたてほやほやだけどね。魔王が人間の事を気にする訳ないでしょ? 分かってもらえた?」
デスターは思わず倒れそうになる。
S級冒険者とはいえ、魔王には敵わない。
これはもう世界の常識と言ってもいい。
絶対に手を出すなというのが、共通ルールみたいなもんだ。
縄張りから出て来る奴が居ないという事で、放置されてきたが、なんの冗談か向こうから接触してきた。更に人間と変わらない見た目で。
あまり頭が良くないデスターでも分かる。
人間社会に溶け込める魔王のヤバさ。
これを放置していたら、とんでもない事になるのではないだろうか。
「生まれたてだからさ。超越者と戦った事が無いんだよね。都合良くこの都市には四人も居るからさ。俺達の練習相手になってもらおうと思って」
「それで最初が俺って事かよ」
デスターは話をしながらも逃げ道を探していた。
この話は絶対に誰かに伝えなければならない。
この魔王の情報は絶対に伝えなければ、世界の危機だと。
しかしここが何処か分からず、レト・ノックスの後ろに居る人間と魔物が油断なくこちらを見ている。現状では、どうする事も出来そうになかった。
「あ、でも戦うのは俺じゃないんだ。眷属にやってもらおうと思ってる。超越者と戦うのを楽しみにしてたからな? なるべく楽しませてくれよ? よし、じゃあアシュラ。行っといで」
「ゴギャギャ!!」
そう言って前に出て来たのは、明らかに格上の鬼の魔物。
これが魔王ではなく、部下だという。
デスターは頭がおかしくなりそうだった。
「冗談じゃねぇ! こんなとこでやられてたまるかよ!」
「その意気だ! 頑張ってくれたまえ!」
何故かこちらの応援をするレト・ノックス。
そちらを見てみると、いつの間にかソファとテーブルが用意され、座って観戦準備をしていた。
「あの余裕面を絶対歪めてやらぁ!」
デスターの負けられない戦いが始まる。
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