異世界に転生したので裏社会から支配する

Jaja

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第4章 雌伏の時

A-2話 始まらないチュートリアル

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 まもなく成人を迎える頃。
 アーサーは一人で村の近くの森にやって来ていた。この森は野生の動物ぐらいしか存在せず、魔物は滅多に存在しない。
 しかし、ゲームではアーサーが成人直前に1人で森に入ると、熊型の魔物が出現するのだ。

 冒険者の危険度ランクでDと、ベテランなら倒せる程度の魔物だが、平和ボケした村のみんなでは倒せない。ゲームでも1人で森に薬草を取りに来たアーサーは絶体絶命のピンチに陥る。
 そこで颯爽と助けてくれるのが、カタリーナなのである。

 「まぁ、最初は僕が襲われてるのを知らずに討伐するだけなんだけど。倒し終わった後に、僕が居る事に気付いて、光の精霊が僕の近くにいる事で興味を持って~みたいな流れだったはず」

 カタリーナはこの森の奥で隠れて住んでいる。
 ペテス領で領主に狙われて、下水道で死にかけている所を、ラブジーという闇組織に見つかり捕まる。領主からエルフ確保を依頼されてたラブジーは捕らえて領主に引き渡すまで、ポーションを飲ませてから軟禁するのだが、その前に脱走するのだ。
 そして下水道から外に逃げ出して、この森で隠れ住んでるという設定だ。

 「なんでもっとペテス領から離れないのだとか、一部のマニアは考察したりしてたみたいだけど。ペテスの領主に復讐する為だってのが主流だったかな。実際、領主討伐のサブイベントがあったし」

 アーサーはそんな事を考えながら、森の中を進む。一応木剣は腰に差してるが、万が一熊の魔物に襲われてカタリーナがゲーム通りに助けに来なかったらどうするのか。アーサーは全くそんな事を考えていない。ゲーム通りに進むと信じ切ってるのだ。

 しかし時間が経つ毎にアーサーは首を傾げる。

 「確かこの辺で襲われる筈なんだけど…」

 まず、肝心の熊の魔物が出てこない。
 襲われる場所は大体合ってる筈だ。それなのに魔物が出てこない。

 「今日じゃなかったとか…? まぁ、正確な日付は分からないし…」

 アーサーは自分でそう結論を出して、これから毎日通えばそのうち出てくるだろうと楽観的に考える。実は前に通ったゴドウィンが件の魔物を通りすがりに討伐しているのだが、アーサーは知らない。
 なんだったら、この森にカタリーナが隠れ住んでる事すらないのだが、アーサーは知らない。

 アーサーは愚直に。ゲームのシナリオ通りに。
 物語が始まると。チュートリアルが始まると信じて、毎日森に通うのであった。



 「ちょっとアーサー! 毎日毎日森に行って! 何してるのよ!!」

 「薬草を探してるんだよ。ほら、最近村長さんの体調が悪いみたいだからさ」

 「そうなの? そんな話聞いた事ないけど…」

 アーサーの適当についた嘘なのだから当然である。しかし、幼馴染のサラは深く考えずに、それなら自分も行くと斧を背中に担ぐ。

 「僕1人で大丈夫だよ」

 しかしアーサーは困る。
 チュートリアルイベントを始められないじゃないかと。なので、必死に言い訳をして1人で向かおうとするのだが。

 「何か隠し事でもあるの?」

 そう言われてはアーサーは何も言えない。
 自分の原作知識は宝なのだ。いくら幼馴染とはいえ、バラす気はなかった。
 そして、アーサーはサラがついてきても大して影響はないかと諦める。
 襲われる対象が1人増えた所で、カタリーナが助けてくれるんだから。

 そう自分を納得させて、サラと一緒に森に向かう。薬草を探すフリをしつつ、ソワソワと周りを見渡す。やはり、今日も熊の魔物が襲ってきそうな気配がない。

 「アーサー? 何か居るの?」

 サラはしきりに辺りを見渡すアーサーを見て、斧に手をかける。
 アーサーと一緒に毎日訓練してるだけあって、少しばかり斧捌きには自信があるのだ。

 「ううん。僕の勘違いだったみたいだ。今日は戻ろうか」

 「え? もう? 薬草、まだ見つかってないよ?」

 アーサーはサラの疑問をイケメンスマイルでいなしてから、村に戻る。
 ここまでくると流石のアーサーも不安になってくる。まさかタイミングを逃してしまったのかと。
 しかし、賢いアーサーは一味違う。万が一の為にセカンドプランを用意してあるのだ。

 (こうなったら森をしらみ潰しに探して、カタリーナが隠れ住んでる場所を見つけよう。そんなに広い森じゃないし、数日で見つけれるはず。光の精霊に興味があるなら、出会いさえすればどうとでもなるはずだ。エルフのハーレム要員は絶対に確保したい。絶対に逃さないぞ)

 鼻をぷくぷくと膨らませて内心で考える。
 最初は注意していたサラだが、最近では無視する事にしている。アーサーの知らぬ所で幼馴染の攻略対象の好感度が下がっていってるのだが、勿論アーサーはそんな事に気付かない。
 サラが自分に惚れてると信じて疑ってないゆえに。

 村に戻ると何故か慌ただしい雰囲気になっていた。いつも指導してくれる自警団のおじさんに話を聞いてみると、アーサーは目玉が飛び出る程に驚いた。

 「ゴ、ゴドウィンが行方不明!?」

 「こ、こら、アーサー! 騎士団長様だ! 誰かに聞かれたらどうする!」

 おじさんに怒られたが、アーサーはそれどころではない。どうやら、アーサーとサラが森に入ってる間に大勢の騎士がペテス領に向かったらしい。

 (一体どういうことだ? 原作にこんな展開はなかった。チュートリアルも始まらないし…)

 既にとある人物のせいで、かなり原作と違った流れになっている。
 果たしてアーサーはそれに気付く事が出来たのか。それともまだ愚直に原作通りのシナリオに執着するのか。
 アーサーの決断やいかに。
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