メダカのキモチ

clumsy uncle

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時は過ぎて

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クリスマスキャロルが街中で流れる、年の瀬迫る頃の千葉駅付近の繁華街。
小雪が舞う寒い夜、さよりは徹也とともに食事した後、酔客がひしめく表通りから人気の無い細い道に入りこむと、少し深呼吸し、しばらく目をつむり、気分を落ち着かせた後、そっと言葉を吐き出した。

「徹也くん」
「どうした?さより。急に緊張したような顔して」
「ごめん。私、もうこれ以上、徹也くんとは付き合えない。正直疲れちゃって」
「な、なんだって?」
「何でもかんでも監視されて、言いたいことも言えなくて、辛いだけなんだもん」
「はあ?それは、さよりのことを誰よりも心配してるからだよ?そして誰よりも好きだからだよ。そんなこともわかんないのか?」
「わかんない。分かってるんだったら、私のこと好きならば、私を信じて、もっと自由にさせてほしい」
「ふざけんな。俺は、さよりにずっとそばに居てほしいんだよ!」
「とにかく、徹也くんが束縛を続ける以上、もう、これ以上は付き合えない。ごめんね。今まで楽しかった。ありがとう」
「ふ~ん、そうか、わかった。で、別れたらどうするんだ。結婚考えてた男の所に戻るのか?」
「そんなの分からない。今ははっきり言えないよ。彼と結婚するかどうかなんて」
「ほう。心のどこかにまだそいつのことが引っかかってるんだな。やっぱそいつをぶん殴らないとダメだな。わかった、今からそいつの所に俺を連れてってくれ」

さよりは、恐怖心から慌ててカバンからスマートフォンを取り出し、恭介に電話をしようとした。が、急に何かを思い立って、すぐカバンにしまいこんだ。

「その男に電話しようとしたのか?さより。俺にスマートフォンを見せろ。そして、その男のメルアドと電話番号、それにLINEアドレスを見せろ。さよりと寄りを戻さないよう、俺からガツンと言っておくから」
「やめて!彼には手を出さないでって、あれほど言ったじゃない?」
「うるさい!さよりがもう二度と浮気しないよう、そいつを叩いておく必要があるからだ。さ、早くスマートフォンを俺に渡せ!」
「止めて!いい加減にしてよ!」

さよりは手提げカバンで徹也の手を払うと、徹也の頬を平手打ちした。

「おう、やってくれんじゃねえか。どうしてくれるんだ、この傷を。おい!」

徹也は白い歯をむき出しにし、ジャケットを脱ぐと、さよりの頬を殴りつけた。

「シンガポールでずっとお前を思い続けた俺の気持ちを踏みにじりやがって!どうしてもその男の所に行かせたくないのなら、その前にお前を殺してやるわ!」

地面に叩きつけられたさよりの太腿を、徹也は何度も足で蹴り上げ、顔を手で引き上げると、再び殴りつけた。
顔面血だらけになったさよりは、そのまま気を失い、ぐったりとして地面に横たわった。

「やべえ…お、俺は、知らねえぞ。お前が浮気なんかするからだ」

血だらけになったさよりの顔を見た徹也は、あまりの恐怖心で震え上がってしまった。
そして、騒ぎに気がついた近くの飲食店の店員が様子を見に近づいてきたのを目にした徹也は、慌ててその場から一目散に去っていった。
ぐったりとうなだれたさよりは、冬の夜の冷たい地面の上にそのまま置き去りにされた。

長く寒い冬が過ぎて、ようやく暖かくなり始め、桜のつぼみが徐々にピンクの色を増してきた3月の東京。
朝方、恭介は仕事へ出かける準備を終え、いつものようにメダカに餌をあげようと、水槽を覗き込んだ時、去年の秋以来、じっと奥の方で動かなかったたえ子が、久しぶりにジョリーの後を追うように泳いでいることに気づいた。
段々水温が上がってきているので、メダカにとって活動期に入ったからかな?と考えたが、一時期はジョリーに寄り付きもしなかったたえ子が、仲睦まじく泳いでいるのを見て、人間以上に複雑怪奇なメダカの気持ちがイマイチわからなかった。

年度替わりを控え、決算を控えて営業の仕事がたて込み、帰りも遅くなりがちなこの時期、恭介が最寄り駅の西武柳沢駅に降り立った時には時計の針は10時を指していた。
途中のコンビニエンスストア弁当を買い、そそくさとアパートへの帰りを急いだ。
花粉症を持つ恭介にとって、この時期の通勤は辛い。
自転車に乗っている時、向かい風に乗ってやってくるスギ花粉をもろに受け、くしゃみが止まらなくなる。マスクはしているが、症状が酷い時にはほとんど効果は無い。
いつものように、アパートの前にたどり着いた時、恭介の部屋に明かりが灯っていることに気づいた。

「あれ?今日、実家の親でも来てるのかな?」

恭介の部屋の合鍵は、実家の親に預けているが、その他に誰に預けていたか、イマイチ思い出せない。
恭介が部屋の鍵を開けようとしたら、内側から鍵を開ける音がした。

「ただいま」
「おかえり」
「え?さ……さより?」

玄関に立っていたのは、ニッコリと微笑むさよりであった。
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