メダカのキモチ

clumsy uncle

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今が幸せならば

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結婚式が無事終わり、ハネムーンも終えて、恭介とさよりの新婚生活は順調なスタートを切った。
恭介もさよりも結婚前からの仕事を続け、共働きして家計を支えている。
さよりの方が恭介よりも始業時間が若干遅いので、恭介が出かけた後、掃除や洗濯をして出発する。
朝から真っ青な夏空が広がり、強烈な太陽が照り付ける中、さよりはいつものようにメダカの水槽の掃除と、餌やりをしようと、水槽を覗き込んだ。
いつもなら、たえ子とジョリーが、餌を求めて水面近くを泳いでいる。
しかしこの日は、まったく姿が見当たらない。
不審に思ったさよりは、水槽の中をくまなく調べた。
そして、底に沈み、横たわったまま動かない2匹のメダカの姿を見つけた。

「たえ子と……ジョリー!?」

2匹は、折り重なるように、底砂の上で息絶えていた。
思い返せば、たえ子とジョリーがこの家にやってきたのは、1年前。
その時には、2匹ともすでに立派な成魚になっていたので、メダカの寿命を考えると、死因は老衰なのかもしれない。さよりは、大事に育ててきた2匹のメダカとの突然の別れに、涙が止まらなった。

その晩、帰宅した恭介とともに、さよりは2匹の死骸を、アパート1階の物陰に埋めることにした。他のメダカたちのお墓と隣り合う場所に、穴を掘り、そっと2匹を掌の上に乗せ、穴の中に埋めようとした。
さよりは、涙ながらに、ジョリーの死骸を手に取り、つぶやいた。

「ありがとう、本当にありがとう」

恭介も、たえ子の死骸を手に取り、こらえていた涙を拭きながらつぶやいた。

「ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。お前がいなきゃ、俺たちは出逢わなかったし、こうして一緒になることもなかった」

そして、2匹を穴の中に埋めると、2人は手を合わせた。

「最後、折り重なるように死んでたね。最後まで、添い遂げようとしたのかなあ」
「たえ子、健気だったよな。何があっても動じなかったけど、ジョリーに出会えて、最後は幸せそうだったよ」
「ジョリーも、メリーが死んでから寂しそうだったけど、たえ子ちゃんに出会ってからは幸せだったと思う」
「なあ、さより。お前以前、たえ子は自分みたいだって言わなかった?」
「うん、言ったよ」
「あれって、自分の分身ってことかい?一体どういう意味なの?」
「自分を映す鏡みたいだった。辛いことがあっても寂しくてもひたすら耐えて、好きな相手に巡り合えて、やっと自分自身を解放できるようになった。本当に、私みたい、というか、私が乗り移ってるみたいだった」
「み、妙なことを言うな。たえ子が死んだからって、さよりはどっかに行かないでくれよ」
「あはは。それは大丈夫よ。きっと、メダカちゃんたち、私たちのこと、見守ってくれてるよ。私たちを引き合わせてくれた彼らに感謝して、そして、私たちも幸せになるために生きて行かなくちゃね。それが何よりもの供養になると思うの」
「さより……」
「さ、ご飯まだでしょ?これから作るけど、いい?今日は肉じゃが作るからね。恭介くんから教わった作り方で、何とか作れると思うけど、もしまずかったらごめんね」
「お、おい、さより、待ってくれよ!立ち直るの、早いなあ。俺、まだ、涙が止まらないのに」

部屋の中では、10匹ものメダカ達が、悠々と泳ぎ、水面に浮かぶ餌をついばんでいた。
死んだたえ子とジョリーの子ども達は、親たちのことを知ってか知らずか、楽しそうに泳いでいる。
追いかけっこしたり、仲睦まじくペアで泳いでいたり、あるいは、餌を取り合ってケンカしたり。
肉じゃがを食べながら、恭介とさよりは、ガラス越しに水槽を覗き込む。

「今日も、みんな元気だなあ。パパとママがあの世に行ったのにさ」
「いいのよ。彼らは今が幸せなんだもの。それでいいんじゃない?」
「まあ、そういわれれば、そうだけど」
「私たちも、今が幸せなら、それでいいのよ」
「そうか?」
「そうよ。さ、食べましょ。メダカちゃんたちも美味しそうに餌を食べてるし」

2人は目を合わせ、リスのように手を口に当ててクスっと笑いあった。
テレビのニュースで梅雨明け宣言が発表され、暑い夏が始まろうとしている。

「今年も暑くなりそうだね。とりあえず、ビール飲んで涼もうか?」

恭介はニュースを見ながら提案した。

「あ、私も飲みたいと思ってた。じゃ、乾杯しよっか」

さよりは冷蔵庫から缶ビールを2本持ち出すと、1本を恭介に手渡した。

「何に乾杯するの?」
「じゃあ、メダカ達と私たちに、乾杯!」
「あはは。いいね、乾杯!」

缶ビールを飲み干すと、さよりは恭介の隣に座り、体を寄せあった。
恭介はさよりの肩に腕を回すと、さよりがその中に体をうずめた。

「恭介くん、メダカちゃん達がいなければ、私たちはこうして2人で幸せな時間を過ごせなかったよね」
「そうだな……メダカ達に感謝だね」

恭介はさよりの髪をなでると、さよりは甘えるように恭介の顔に頬を寄せ、ゆっくりと頬ずりした。

「俺、ビール飲んだら眠くなってきたなあ。一緒に、ベットに行こうか?」
「うん。行こうか」

部屋の明かりが消え、薄いブルーの明かりが照らされた水槽の中で、メダカ達は体を寄せ合い、底を這うようにしてじっと眠りについていた。
そして、水槽のガラスには、ベットの上、生まれたままの姿で体を寄せ合い、愛し合う恭介とさよりの姿が映し出されていた。
(おわり)
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