11 / 12
第一章
10.誕生パーティにて①
しおりを挟む
とうとう誕生日パーティー当日となった。
正直、もともとこういう集まりは好きではないのだが、パーティー開催目的の主賓としては、流石に欠席も途中退席もできようはずがない。
大公の挨拶に続いて、集まってくれた諸侯たちに御礼の挨拶を述べた後、宰相の乾杯の言葉と共に、酒が次々と酌み交わされていく中、ダンスの開始を待つ。
婚約者候補が参加しているものの、公には候補者名すら発表していないこともあり、誰とも踊るつもりはなかったけれど、会場を見回せば、花嫁候補の令嬢は揃って参加していた。
婚約者がいない令嬢の場合、大抵ファーストダンスは、身内の男性と踊るのが一般的だが、やはり、令嬢方は父親か兄弟と踊っている。
特に今回は、婚約者候補である私の誕生パーティーなのだ。
身内以外の男性と踊らせることなど、周りが許さないだろう。
各家も、未来の王妃となるかもしれない娘の評判を落とすような行動など容認するはずが無い。
皆、私からのダンスの誘いを期待しているのだろうが、なかなか一歩が踏み出せなかった――
祖母は伯爵令嬢、母――アンナマリアは子爵令嬢。
どちらの家も古くから続く血脈だったが、決して家格が高い訳ではない。
にも関わらず、高位貴族から異論がでなかったのは、ただ双竜によって選ばれたという事実があるからだ。
ただし、祖母にしても母にしても王族となってからの努力は並大抵のものではなかったらしい。
何故、自分たちが選ばれたのかも判らないまま、教育係は徹底した妃教育を叩きこまれたのだという。
泣きながら眠りにつく日々を耐えられたのは、夫の支えがあったからなのだとか。
祖父にしても、父――ライアンにしても、決して優しい言葉ばかりかけた訳ではない、教育係も好き好んで厳しい教育を課した訳ではない、ただ、国という大きな組織の中の頂点に立つ者として、必要であったからこその教育――決して負けないで欲しいと願いながら。
勿論、そうして頑張る伴侶を蔑ろにするはずもなく、祖父も父も、周りから勧められても決して、側室などはもたず、ただ一人――互いの妻だけを愛し、その仲睦まじさは公国中の人々までも周知の事実だった。
私はどうだろうか?
双竜によって決められた花嫁に、そこまでの愛情を持って生涯寄り添うことができるのだろうか?
ひんやりとした風が頬を撫でていくのを感じ、はっとしながら周りを見渡す。
思案にふけるあまり、いつの間にか、テラスから中庭のガゼボへと移動していたらしい。
ガゼボを囲むように植えられている薔薇の香りが周囲に漂い、月明かりの中、幻想的な美しさを醸し出していたが、なによりも驚いたのは、ガゼボに先客がいたことだった。
ガゼボに置かれたベンチ――そこには、一人の少女が座り込んでいた。
正直、もともとこういう集まりは好きではないのだが、パーティー開催目的の主賓としては、流石に欠席も途中退席もできようはずがない。
大公の挨拶に続いて、集まってくれた諸侯たちに御礼の挨拶を述べた後、宰相の乾杯の言葉と共に、酒が次々と酌み交わされていく中、ダンスの開始を待つ。
婚約者候補が参加しているものの、公には候補者名すら発表していないこともあり、誰とも踊るつもりはなかったけれど、会場を見回せば、花嫁候補の令嬢は揃って参加していた。
婚約者がいない令嬢の場合、大抵ファーストダンスは、身内の男性と踊るのが一般的だが、やはり、令嬢方は父親か兄弟と踊っている。
特に今回は、婚約者候補である私の誕生パーティーなのだ。
身内以外の男性と踊らせることなど、周りが許さないだろう。
各家も、未来の王妃となるかもしれない娘の評判を落とすような行動など容認するはずが無い。
皆、私からのダンスの誘いを期待しているのだろうが、なかなか一歩が踏み出せなかった――
祖母は伯爵令嬢、母――アンナマリアは子爵令嬢。
どちらの家も古くから続く血脈だったが、決して家格が高い訳ではない。
にも関わらず、高位貴族から異論がでなかったのは、ただ双竜によって選ばれたという事実があるからだ。
ただし、祖母にしても母にしても王族となってからの努力は並大抵のものではなかったらしい。
何故、自分たちが選ばれたのかも判らないまま、教育係は徹底した妃教育を叩きこまれたのだという。
泣きながら眠りにつく日々を耐えられたのは、夫の支えがあったからなのだとか。
祖父にしても、父――ライアンにしても、決して優しい言葉ばかりかけた訳ではない、教育係も好き好んで厳しい教育を課した訳ではない、ただ、国という大きな組織の中の頂点に立つ者として、必要であったからこその教育――決して負けないで欲しいと願いながら。
勿論、そうして頑張る伴侶を蔑ろにするはずもなく、祖父も父も、周りから勧められても決して、側室などはもたず、ただ一人――互いの妻だけを愛し、その仲睦まじさは公国中の人々までも周知の事実だった。
私はどうだろうか?
双竜によって決められた花嫁に、そこまでの愛情を持って生涯寄り添うことができるのだろうか?
ひんやりとした風が頬を撫でていくのを感じ、はっとしながら周りを見渡す。
思案にふけるあまり、いつの間にか、テラスから中庭のガゼボへと移動していたらしい。
ガゼボを囲むように植えられている薔薇の香りが周囲に漂い、月明かりの中、幻想的な美しさを醸し出していたが、なによりも驚いたのは、ガゼボに先客がいたことだった。
ガゼボに置かれたベンチ――そこには、一人の少女が座り込んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる