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第五章
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それから七度朝を迎え、七度目の夜の帳が降りた。
数日前にも薬を求めて押しかけた、宰相家の邸宅の広い中庭。ルクサナは今、そこへ再び戻っていた。今度は押しかけたわけではない。旅芸人の一座に属する者として、招かれてここまでやってきたのだ。
ヤツガシラの人々と共に、この場を訪れたのが昼を過ぎた頃のこと。例の演目の発案者であるイブラヒムは、別の用事があるとのことでここにはいない。彼の不在に一抹の心もとなさを覚えたルクサナではあったが、いざ会場の準備が始まると、慌ただしさにそれどころではなくなっていた。
一座総出で大小さまざまな演出道具を持ち込んで、まずは中庭の中央に簡素な舞台を設えた。舞台とはいっても、市場の辺りに設置されていたような、広々としたものとは違う。元々植えられている木々や草花、池を動かすことはできないから、それらを踏まえて動線を確保し、飾り付けしたその場所を、舞台として見立てるのだ。
この舞台は宴の当日になるまで、どんな形になるかすらわからない。だからその場で段取りを決め、どう観せるのが最も良いか、調整を行う必要があった。そういった即興的な演出は、ヤツガシラの人々の得意とするところであるようだったが、それに慣れないルクサナは、右往左往しながら懸命に手順を覚え込む。
前半の演目、イブラヒムに頼まれた『薬をめぐる民衆と企ての物語』では、ルクサナに演者としての役割はない。だが紙吹雪を散らしたり、ランプを揺らめかせたりと、何かと仕事が多いのだ。緊張に強張るルクサナに、そう固くなるな、とヤツガシラの人々は笑って励ましてくれたが、どうしても落ち着かない。
ルクサナがこれほど緊張するのには、もうひとつ大きな理由がある。
後半の演目では、ルクサナも皆の前で舞踊を披露することになっているのだ。
(舞踊の稽古は昔から続けていたけれど……、宰相家の邸宅にいた頃は、お父様にもお母様にも良い顔はされなかったし、師についていたわけでもない。ヤツガシラの一座の顔に、泥を塗るようなことだけはないように、頑張らなくちゃ)
ヤツガシラの踊り子達の手ほどきを受け、昼夜を問わず稽古した。短い舞踊であるし、ルクサナの技量に合わせた振り付けになってはいるのだが、それでも、習得するのは大変であった。
元のルクサナの身体であったなら、今頃へとへとに疲れ果て、立ち上がることもままならなかったろう。けれど今の身体は──、サラの身体は、細い手足の一体どこにこれ程の力が宿っているのかと、問いたくなるほど軽やかに、しなやかに動いてくれる。
数日前にも薬を求めて押しかけた、宰相家の邸宅の広い中庭。ルクサナは今、そこへ再び戻っていた。今度は押しかけたわけではない。旅芸人の一座に属する者として、招かれてここまでやってきたのだ。
ヤツガシラの人々と共に、この場を訪れたのが昼を過ぎた頃のこと。例の演目の発案者であるイブラヒムは、別の用事があるとのことでここにはいない。彼の不在に一抹の心もとなさを覚えたルクサナではあったが、いざ会場の準備が始まると、慌ただしさにそれどころではなくなっていた。
一座総出で大小さまざまな演出道具を持ち込んで、まずは中庭の中央に簡素な舞台を設えた。舞台とはいっても、市場の辺りに設置されていたような、広々としたものとは違う。元々植えられている木々や草花、池を動かすことはできないから、それらを踏まえて動線を確保し、飾り付けしたその場所を、舞台として見立てるのだ。
この舞台は宴の当日になるまで、どんな形になるかすらわからない。だからその場で段取りを決め、どう観せるのが最も良いか、調整を行う必要があった。そういった即興的な演出は、ヤツガシラの人々の得意とするところであるようだったが、それに慣れないルクサナは、右往左往しながら懸命に手順を覚え込む。
前半の演目、イブラヒムに頼まれた『薬をめぐる民衆と企ての物語』では、ルクサナに演者としての役割はない。だが紙吹雪を散らしたり、ランプを揺らめかせたりと、何かと仕事が多いのだ。緊張に強張るルクサナに、そう固くなるな、とヤツガシラの人々は笑って励ましてくれたが、どうしても落ち着かない。
ルクサナがこれほど緊張するのには、もうひとつ大きな理由がある。
後半の演目では、ルクサナも皆の前で舞踊を披露することになっているのだ。
(舞踊の稽古は昔から続けていたけれど……、宰相家の邸宅にいた頃は、お父様にもお母様にも良い顔はされなかったし、師についていたわけでもない。ヤツガシラの一座の顔に、泥を塗るようなことだけはないように、頑張らなくちゃ)
ヤツガシラの踊り子達の手ほどきを受け、昼夜を問わず稽古した。短い舞踊であるし、ルクサナの技量に合わせた振り付けになってはいるのだが、それでも、習得するのは大変であった。
元のルクサナの身体であったなら、今頃へとへとに疲れ果て、立ち上がることもままならなかったろう。けれど今の身体は──、サラの身体は、細い手足の一体どこにこれ程の力が宿っているのかと、問いたくなるほど軽やかに、しなやかに動いてくれる。
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