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第五章
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オレンジの木の陰に隠れて人をやり過ごし、露台の柱に忍んで渡り廊下を通り過ぎる。侍従達は皆、宴に駆り出されているようで、邸宅の奥にある家族のための中庭に差し掛かる頃には、人目を気にする必要すらなくなっていた。だが──、鍾乳石飾りのある天井の下をくぐり、目的地にたどり着かんというところで、侍女達の声が聞こえてきた。
「お嬢様、本当にお一人で大丈夫ですか?」
「ナッツやシナモンのパイでもお持ちしましょうか。甘いものを食べたら、少しはご気分が晴れるかもしれませんわ」
「いらない。いらないわ。もう眠るから、朝まで一人にさせて」
弱々しく答える声を聞き、きゅっと唇を引き結ぶ。誰の声かは明白だ。
侍女達は、ルクサナがそばに潜んでいることに気づきもせず、宴の席へと戻ってゆく。それが完全に立ち去るのを見送ってから、ルクサナは天鵞絨のカーテンを押しのけて、月明かりが差し込むばかりの薄暗い室内へと立ち入った。
「──食欲がないと言っているでしょう? 放っておいてよ。ねえ、あたしの言うことが理解できないの?」
テラスのそばに座り込み、クッションに顔を押し付けるようにして蹲っている少女が、声に苛立ちを滲ませそう告げた。ルクサナの足音だけを聞いて、この場にまだ侍女が居残っているのだと勘違いをしたのだろう。
どう声をかけるべきであろう。考えてみても答えは出ない。ルクサナは一度大きく深呼吸して、それから恐る恐る、こう呼びかけた。
「長く伏せっていると聞いたわ。お加減はどう? 今、少し話せないかしら。ねえ、──サラ」
少女の肩がぎくりと震えた。とっさに上げたその顔は、月明かりの下にあってすら、酷く青ざめて見えている。
それでルクサナも、確信した。
「やっぱりその名も、この身体も、元はあなたのものだったのね」
「あんた、……なんで、なんでこんな所にまで」
座り込んだままのサラが、それでもルクサナから距離を取るように、じりじりとテラスの方へ這っていく。
すっかり怯えきっている。ルクサナが部屋へまで追って来るなどとは、思わなかったのかもしれない。
「じ、侍女達は、何をしているのよ! 侵入者よ! 誰か、だ、誰か、こいつを追っ払ってよ!」
「侍女達のことは今しがた、あなたが追い払ってしまったでしょう? 宴席の仕事が忙しいでしょうから、しばらくこちらへは来ないと思うわ」
事実を述べたまでであったが、それで増々サラの顔色は悪化した。これでは会話などできそうにない。ルクサナは精一杯に穏やかな声で、「落ち着いて」と語りかけた。
「お嬢様、本当にお一人で大丈夫ですか?」
「ナッツやシナモンのパイでもお持ちしましょうか。甘いものを食べたら、少しはご気分が晴れるかもしれませんわ」
「いらない。いらないわ。もう眠るから、朝まで一人にさせて」
弱々しく答える声を聞き、きゅっと唇を引き結ぶ。誰の声かは明白だ。
侍女達は、ルクサナがそばに潜んでいることに気づきもせず、宴の席へと戻ってゆく。それが完全に立ち去るのを見送ってから、ルクサナは天鵞絨のカーテンを押しのけて、月明かりが差し込むばかりの薄暗い室内へと立ち入った。
「──食欲がないと言っているでしょう? 放っておいてよ。ねえ、あたしの言うことが理解できないの?」
テラスのそばに座り込み、クッションに顔を押し付けるようにして蹲っている少女が、声に苛立ちを滲ませそう告げた。ルクサナの足音だけを聞いて、この場にまだ侍女が居残っているのだと勘違いをしたのだろう。
どう声をかけるべきであろう。考えてみても答えは出ない。ルクサナは一度大きく深呼吸して、それから恐る恐る、こう呼びかけた。
「長く伏せっていると聞いたわ。お加減はどう? 今、少し話せないかしら。ねえ、──サラ」
少女の肩がぎくりと震えた。とっさに上げたその顔は、月明かりの下にあってすら、酷く青ざめて見えている。
それでルクサナも、確信した。
「やっぱりその名も、この身体も、元はあなたのものだったのね」
「あんた、……なんで、なんでこんな所にまで」
座り込んだままのサラが、それでもルクサナから距離を取るように、じりじりとテラスの方へ這っていく。
すっかり怯えきっている。ルクサナが部屋へまで追って来るなどとは、思わなかったのかもしれない。
「じ、侍女達は、何をしているのよ! 侵入者よ! 誰か、だ、誰か、こいつを追っ払ってよ!」
「侍女達のことは今しがた、あなたが追い払ってしまったでしょう? 宴席の仕事が忙しいでしょうから、しばらくこちらへは来ないと思うわ」
事実を述べたまでであったが、それで増々サラの顔色は悪化した。これでは会話などできそうにない。ルクサナは精一杯に穏やかな声で、「落ち着いて」と語りかけた。
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