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星の記憶 2 ~小さな約束~
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あれから暁は、剣道道場に足を運ぶようになった。
学校が終わった後、稽古があり会える時間が減った礼蘭は少し寂しげだった。
カフェまでの帰り道、今日も二人は一緒だった。
「あきらぁ・・・今日も稽古なの?」
「うんっ、でも明日は休みだよ?」
「本当!?」
「うんっ!だからランと遊んでて?」
「わかったー」
あの時の子犬は礼蘭の家で飼われる事になった。
礼蘭の蘭から、ランという名前がついた。
「じゃあ、明日は一緒に遊べる?」
「遊べるよっ?何するか考えてて?」
「やったー!あきが居ないとつまんないよぉ」
両手を上げて喜ぶ礼蘭に、暁もその喜びを噛みしめていた。
一緒にいる事を喜んでくれる。居ないと寂しがってくれる。
そんな礼蘭を、純粋に礼蘭のことが好きだった。
まだ幼い好きだった。
稽古と学校と宿題。暁の毎日は忙しかった。
でも苦じゃなかった。礼蘭が居てくれるから。
毎日朝は一緒で、学校も一緒でほぼ同じ時間を過ごす。稽古がない日も一緒。ほぼ毎日礼蘭と過ごす時間がある。
そんな毎日の中、学校で・・・。
「ねぇ暁君。剣道してるって本当?」
「あ、うん。」
休み時間、礼蘭の居ないところで、暁はクラスの女の子に話しかけられていた。
「すごいね!剣道って痛い?」
「まぁ・・・竹刀で打たれるから痛いよ。防具つけてるけど・・・。」
「そうなんだぁ!すごいね!」
「まだ始めたばっかで、基本稽古してるだけだよ?」
話してる間に、礼蘭が教室に戻ってきた。
礼蘭は暁と他の女の子が話してるのを見て、モヤモヤとした気分になっていた。
「ねぇねぇ暁君!」
女の子がまだ話を続けようとしたときだった。
「あきっ!」
礼蘭が暁に呼びかけた。
「?」
すぐに振り向いた暁だった。
「どうした?礼蘭。」
「こっちきてっ用事あるの!」
焦った様にそういう礼蘭に暁は迷いもせず席を立った。
「ごめん、礼蘭呼んでるから。」
そう告げて礼蘭の元へ駆け寄った。
「なんだよ。どうした?」
「あっちいこ?」
そう言って礼蘭は暁の手を握ってその場を去った。
面白くなさそうな顔をした女の子がその光景をじっと見ていた。
礼蘭に手を引かれて歩き続ける暁。
少し恥ずかしくなってその口を開いた。
「・・・れっ・・礼蘭、どうしたんだよ?用って?」
「暁はどんな用でも私と一緒なのっ」
少し怒りながら礼蘭は歩き続けた。
校内まわってしまうんじゃないかと思う勢いだった。
「・・・・・・」
ふと盗み見た礼蘭の頬は赤く染まっていて少し、怒っている。
「れい?おーい。れーい?」
怒ってると思ってそう呼んだのだった。
それは二人だけの呼び名だった。
礼蘭も何かあると、暁を【あき】と呼ぶ。
だから暁も、何か思う事があるとき【れい】と呼ぶ。
礼蘭は【れい】と呼ぶと機嫌が直ることが多いから・・・・。
そう呼ばれた礼蘭はくるりと暁の方を向いた。
「あきっ・・・あんまり他の人の前で笑ったらダメだよ?」
「ん?」
「っあきはれいのなの!」
「えっなんて?」
わーっと言った礼蘭の言葉は暁はうまく聞き取れなかった。
「もうっ・・・授業始まるからもう帰るっ教室もどろっ?」
そう言ってまた礼蘭は暁の手を引いて歩きだした。
よく分からなかった暁でも、礼蘭が手を繋いでくれるから、ただ嬉しいだけだった。
それから、礼蘭はいつもより学校でも暁と一緒にいる事が増えた。暁もそれを望み、2人はいつも一緒だった。
クラスの女子がどんな目で見ようとも。
暁は顔の整った男の子、そして優しかった。
関わる人物が増えていき、礼蘭は暁に女の子が近づくのを嫌がっていた。
暁はまだ何も気付いていなかったけれど、礼蘭と暁を見る女の子達は火花を飛ばしていたのだった。
そんなある朝、迎えにきた暁が笑顔で話した。
「礼蘭!聞いて!」
「なぁに?暁!」
「今度、初めて剣道の試合に出るんだ!!」
「そうなの?!えっ‥大丈夫?怪我しない?」
「んー‥ちょっと怖いけど、でも試合出ないと、
強くならないんだって!」
「そうなの?」
不安そうな顔の礼蘭だった。
「初めてだから、すぐ負けちゃうかもしれないけど‥」
諦めがちに笑った暁だった。けれど、そんな暁に礼蘭は怒ったように口を開いた。
「あきは負けないもんっ!!あきは強いもんっっ」
「れ‥れいら‥」
暁は苦笑いを浮かべた。
稽古に行ってから、強い人をたくさん見た暁は、実力を理解している。
「あきは負けないもんっっ!」
そう言って礼蘭は走って行ってしまった。
その時が初めて2人が離れて学校に行った日だった。
初めて2人別々に来た学校は、なんだか寂しかった。
礼蘭はまだ怒っていたし、暁はどうしようかと思いつつも、この日に限ってよく他の女の子から話しかけられる。
それが更に礼蘭の機嫌を損ねていた。
帰り道、少し離れて帰る。
「礼蘭?」
「‥‥‥‥‥」
返事はなかった。けれど言わなきゃならない事がある。
「試合に向けてこれから毎日稽古があるんだ。
だから、学校終わりは会えない」
「‥えっ?」
やっと礼蘭がこっちを見てくれた。
「稽古終わる時間も遅くなった、お母さんかお父さんどっちか迎えに来てくれる。」
「‥‥あ、あき‥‥」
焦ったように礼蘭はなにか言いたげにしていた。
そんな礼蘭に暁は笑った。
「だから、学校でも朝も帰りも礼蘭と話せないと、僕悲しくなる。ごめんな?れい‥許してくれる?」
「あ‥あき‥‥っ」
「礼蘭、試合頑張るから、見に来てくれよ?」
そう言って笑った暁に礼蘭は、涙を浮かべた。
「あっ‥あたしもっ‥あきと喋れないのはイヤっ‥
あきっごめんね???」
そう言いながら、礼蘭は暁に飛びついた。
「うぉっ‥‥ははっ‥‥」
礼蘭を受け止めた暁は笑った。
こうして、初めてのすれ違いをして、仲直りした。
またいつも通りに、2人は一緒に過ごした。
暁の初めての剣道の試合の日。
暁の両親も、礼蘭と礼蘭の両親も見に来てくれたのだった。
まだ真新しい防具をつけて、試合に挑む暁を見て礼蘭は胸をときめかせていた。
姿勢正しく礼をしてから歩く姿。相手と向き合い、竹刀を構え蹲踞する。その姿勢がとても綺麗だった。
「始め!」
審判の声と共に、両方が立ち上がり竹刀を構えて気合の声を張る。覚えたての技をしても、なかなか一本にはならない。
とてつもなく長い2分間だ。中盤になりそろそろ力が尽きて来る頃、ほんの一瞬の気の緩みで、相手の竹刀が暁の面に当たった。
パッと、3人の審判が相手の色の旗を上げる。
これで相手の一本が決まってしまった。
また仕切り直して、竹刀を構え試合が始まる。
その後も焦って攻める暁だったが、
無惨にも試合が終わる笛が鳴ったのだった。
一本取られ、暁は負けた。
「‥‥暁‥負けちゃった?」
会場で見ていた礼蘭が、悠に聞いた。
「うん、負けちゃったね?」
残念そうに悠は笑った。
「頑張ってたけどなぁ、しょうがないな‥」
そう言ったのは暁の父、忠だった。
遠くで、試合を終えた暁はコーチと話をしている。
その顔は見えない。
「礼蘭ちゃん」
「なぁに?おばさん‥」
悠は笑って礼蘭に言った。
「暁ね、礼蘭ちゃんのこと、守れるように強くなりたくて剣道始めたの。」
「え‥そうなの?」
「‥そう、こないだあった事で、そう思って始めたのよ?」
「でも暁私を守ってくれたよ?」
「もっともっと、泣かせたくないから、強くなるんだって‥だからこれからも応援してあげてね?」
「‥‥うん‥‥」
礼蘭は切なく目を震わせ頷いた。
試合が終わり、帰ってから礼蘭は暁を探した。
家に帰る時は普通だったし、また会おうと言ったのに、
家に行っても居なかった。
そしてあちこち探し回って、近くの小さな神社にたどり着いた。
神社の長い石段を登り、辺りを見渡すが人の姿はない。
あちこち見回ってから、最後に神社の神木の裏を覗いた。
「あ、‥あきら?」
神木を背にしゃがみ込んで顔隠して泣いていた。
「っ‥‥‥」
声も出さずにいたが、名前を呼ばれビクっとした。
「あき‥‥格好良かったよ?」
礼蘭の言葉に、暁は涙で濡らした顔を上げた。
「そんな訳ないだろっ!!そりゃっ‥あんまり自信なかったけどっ‥‥礼蘭が負けないって信じてくれたからっ‥
俺は頑張ったんだっ‥‥でも、っ‥負けちゃった‥‥」
また蹲り泣いている暁の隣に礼蘭は並んでしゃがんだ。
「暁っ!私ね!おばさんに聞いたの!」
「えっ?」
「私のこと、守る為に剣道始めてくれたんでしょ?」
「‥‥っ‥‥なんで言うんだよぉ~‥‥お母さんのバカ‥‥」
今度は恥ずかしくなって顔を埋めた。
そんな暁に礼蘭は頬染めて笑った。
「暁はっ‥‥強くなって私を守ってくれるのね?
じゃあ、私はずっと、暁が強くなる様に、
神様に毎日お祈りするね。だからずっと、私と一緒にいてね!」
「礼蘭‥‥」
「ここちょうど、神社だしっ‥それに、
暁が怪我しなくてよかった!!それに
暁!格好良かった!!!ホントだよっ?」
「うっ‥‥‥」
頬を染めて礼蘭を見た。
そんな礼蘭は暁を見て微笑んだ。
「ずっと守ってね!ずっと一緒に居ようね?暁!」
そう言って礼蘭は暁に両手を差し出した。
その両手に、暁は笑って自分の両手を重ねた。
握り合う手と手。小さな手に誓った想い。
2人寄り添い頬を寄せた。
「‥‥うん!!約束だ!!!絶対、守ってあげるよ!
僕はずっと‥礼蘭を守って、ずっと一緒にいるから!」
「うん!!!」
頬を寄せて笑い合った幼き日、誓った約束。
お互いが、特別な存在なのだと、もう気付いていた。
学校が終わった後、稽古があり会える時間が減った礼蘭は少し寂しげだった。
カフェまでの帰り道、今日も二人は一緒だった。
「あきらぁ・・・今日も稽古なの?」
「うんっ、でも明日は休みだよ?」
「本当!?」
「うんっ!だからランと遊んでて?」
「わかったー」
あの時の子犬は礼蘭の家で飼われる事になった。
礼蘭の蘭から、ランという名前がついた。
「じゃあ、明日は一緒に遊べる?」
「遊べるよっ?何するか考えてて?」
「やったー!あきが居ないとつまんないよぉ」
両手を上げて喜ぶ礼蘭に、暁もその喜びを噛みしめていた。
一緒にいる事を喜んでくれる。居ないと寂しがってくれる。
そんな礼蘭を、純粋に礼蘭のことが好きだった。
まだ幼い好きだった。
稽古と学校と宿題。暁の毎日は忙しかった。
でも苦じゃなかった。礼蘭が居てくれるから。
毎日朝は一緒で、学校も一緒でほぼ同じ時間を過ごす。稽古がない日も一緒。ほぼ毎日礼蘭と過ごす時間がある。
そんな毎日の中、学校で・・・。
「ねぇ暁君。剣道してるって本当?」
「あ、うん。」
休み時間、礼蘭の居ないところで、暁はクラスの女の子に話しかけられていた。
「すごいね!剣道って痛い?」
「まぁ・・・竹刀で打たれるから痛いよ。防具つけてるけど・・・。」
「そうなんだぁ!すごいね!」
「まだ始めたばっかで、基本稽古してるだけだよ?」
話してる間に、礼蘭が教室に戻ってきた。
礼蘭は暁と他の女の子が話してるのを見て、モヤモヤとした気分になっていた。
「ねぇねぇ暁君!」
女の子がまだ話を続けようとしたときだった。
「あきっ!」
礼蘭が暁に呼びかけた。
「?」
すぐに振り向いた暁だった。
「どうした?礼蘭。」
「こっちきてっ用事あるの!」
焦った様にそういう礼蘭に暁は迷いもせず席を立った。
「ごめん、礼蘭呼んでるから。」
そう告げて礼蘭の元へ駆け寄った。
「なんだよ。どうした?」
「あっちいこ?」
そう言って礼蘭は暁の手を握ってその場を去った。
面白くなさそうな顔をした女の子がその光景をじっと見ていた。
礼蘭に手を引かれて歩き続ける暁。
少し恥ずかしくなってその口を開いた。
「・・・れっ・・礼蘭、どうしたんだよ?用って?」
「暁はどんな用でも私と一緒なのっ」
少し怒りながら礼蘭は歩き続けた。
校内まわってしまうんじゃないかと思う勢いだった。
「・・・・・・」
ふと盗み見た礼蘭の頬は赤く染まっていて少し、怒っている。
「れい?おーい。れーい?」
怒ってると思ってそう呼んだのだった。
それは二人だけの呼び名だった。
礼蘭も何かあると、暁を【あき】と呼ぶ。
だから暁も、何か思う事があるとき【れい】と呼ぶ。
礼蘭は【れい】と呼ぶと機嫌が直ることが多いから・・・・。
そう呼ばれた礼蘭はくるりと暁の方を向いた。
「あきっ・・・あんまり他の人の前で笑ったらダメだよ?」
「ん?」
「っあきはれいのなの!」
「えっなんて?」
わーっと言った礼蘭の言葉は暁はうまく聞き取れなかった。
「もうっ・・・授業始まるからもう帰るっ教室もどろっ?」
そう言ってまた礼蘭は暁の手を引いて歩きだした。
よく分からなかった暁でも、礼蘭が手を繋いでくれるから、ただ嬉しいだけだった。
それから、礼蘭はいつもより学校でも暁と一緒にいる事が増えた。暁もそれを望み、2人はいつも一緒だった。
クラスの女子がどんな目で見ようとも。
暁は顔の整った男の子、そして優しかった。
関わる人物が増えていき、礼蘭は暁に女の子が近づくのを嫌がっていた。
暁はまだ何も気付いていなかったけれど、礼蘭と暁を見る女の子達は火花を飛ばしていたのだった。
そんなある朝、迎えにきた暁が笑顔で話した。
「礼蘭!聞いて!」
「なぁに?暁!」
「今度、初めて剣道の試合に出るんだ!!」
「そうなの?!えっ‥大丈夫?怪我しない?」
「んー‥ちょっと怖いけど、でも試合出ないと、
強くならないんだって!」
「そうなの?」
不安そうな顔の礼蘭だった。
「初めてだから、すぐ負けちゃうかもしれないけど‥」
諦めがちに笑った暁だった。けれど、そんな暁に礼蘭は怒ったように口を開いた。
「あきは負けないもんっ!!あきは強いもんっっ」
「れ‥れいら‥」
暁は苦笑いを浮かべた。
稽古に行ってから、強い人をたくさん見た暁は、実力を理解している。
「あきは負けないもんっっ!」
そう言って礼蘭は走って行ってしまった。
その時が初めて2人が離れて学校に行った日だった。
初めて2人別々に来た学校は、なんだか寂しかった。
礼蘭はまだ怒っていたし、暁はどうしようかと思いつつも、この日に限ってよく他の女の子から話しかけられる。
それが更に礼蘭の機嫌を損ねていた。
帰り道、少し離れて帰る。
「礼蘭?」
「‥‥‥‥‥」
返事はなかった。けれど言わなきゃならない事がある。
「試合に向けてこれから毎日稽古があるんだ。
だから、学校終わりは会えない」
「‥えっ?」
やっと礼蘭がこっちを見てくれた。
「稽古終わる時間も遅くなった、お母さんかお父さんどっちか迎えに来てくれる。」
「‥‥あ、あき‥‥」
焦ったように礼蘭はなにか言いたげにしていた。
そんな礼蘭に暁は笑った。
「だから、学校でも朝も帰りも礼蘭と話せないと、僕悲しくなる。ごめんな?れい‥許してくれる?」
「あ‥あき‥‥っ」
「礼蘭、試合頑張るから、見に来てくれよ?」
そう言って笑った暁に礼蘭は、涙を浮かべた。
「あっ‥あたしもっ‥あきと喋れないのはイヤっ‥
あきっごめんね???」
そう言いながら、礼蘭は暁に飛びついた。
「うぉっ‥‥ははっ‥‥」
礼蘭を受け止めた暁は笑った。
こうして、初めてのすれ違いをして、仲直りした。
またいつも通りに、2人は一緒に過ごした。
暁の初めての剣道の試合の日。
暁の両親も、礼蘭と礼蘭の両親も見に来てくれたのだった。
まだ真新しい防具をつけて、試合に挑む暁を見て礼蘭は胸をときめかせていた。
姿勢正しく礼をしてから歩く姿。相手と向き合い、竹刀を構え蹲踞する。その姿勢がとても綺麗だった。
「始め!」
審判の声と共に、両方が立ち上がり竹刀を構えて気合の声を張る。覚えたての技をしても、なかなか一本にはならない。
とてつもなく長い2分間だ。中盤になりそろそろ力が尽きて来る頃、ほんの一瞬の気の緩みで、相手の竹刀が暁の面に当たった。
パッと、3人の審判が相手の色の旗を上げる。
これで相手の一本が決まってしまった。
また仕切り直して、竹刀を構え試合が始まる。
その後も焦って攻める暁だったが、
無惨にも試合が終わる笛が鳴ったのだった。
一本取られ、暁は負けた。
「‥‥暁‥負けちゃった?」
会場で見ていた礼蘭が、悠に聞いた。
「うん、負けちゃったね?」
残念そうに悠は笑った。
「頑張ってたけどなぁ、しょうがないな‥」
そう言ったのは暁の父、忠だった。
遠くで、試合を終えた暁はコーチと話をしている。
その顔は見えない。
「礼蘭ちゃん」
「なぁに?おばさん‥」
悠は笑って礼蘭に言った。
「暁ね、礼蘭ちゃんのこと、守れるように強くなりたくて剣道始めたの。」
「え‥そうなの?」
「‥そう、こないだあった事で、そう思って始めたのよ?」
「でも暁私を守ってくれたよ?」
「もっともっと、泣かせたくないから、強くなるんだって‥だからこれからも応援してあげてね?」
「‥‥うん‥‥」
礼蘭は切なく目を震わせ頷いた。
試合が終わり、帰ってから礼蘭は暁を探した。
家に帰る時は普通だったし、また会おうと言ったのに、
家に行っても居なかった。
そしてあちこち探し回って、近くの小さな神社にたどり着いた。
神社の長い石段を登り、辺りを見渡すが人の姿はない。
あちこち見回ってから、最後に神社の神木の裏を覗いた。
「あ、‥あきら?」
神木を背にしゃがみ込んで顔隠して泣いていた。
「っ‥‥‥」
声も出さずにいたが、名前を呼ばれビクっとした。
「あき‥‥格好良かったよ?」
礼蘭の言葉に、暁は涙で濡らした顔を上げた。
「そんな訳ないだろっ!!そりゃっ‥あんまり自信なかったけどっ‥‥礼蘭が負けないって信じてくれたからっ‥
俺は頑張ったんだっ‥‥でも、っ‥負けちゃった‥‥」
また蹲り泣いている暁の隣に礼蘭は並んでしゃがんだ。
「暁っ!私ね!おばさんに聞いたの!」
「えっ?」
「私のこと、守る為に剣道始めてくれたんでしょ?」
「‥‥っ‥‥なんで言うんだよぉ~‥‥お母さんのバカ‥‥」
今度は恥ずかしくなって顔を埋めた。
そんな暁に礼蘭は頬染めて笑った。
「暁はっ‥‥強くなって私を守ってくれるのね?
じゃあ、私はずっと、暁が強くなる様に、
神様に毎日お祈りするね。だからずっと、私と一緒にいてね!」
「礼蘭‥‥」
「ここちょうど、神社だしっ‥それに、
暁が怪我しなくてよかった!!それに
暁!格好良かった!!!ホントだよっ?」
「うっ‥‥‥」
頬を染めて礼蘭を見た。
そんな礼蘭は暁を見て微笑んだ。
「ずっと守ってね!ずっと一緒に居ようね?暁!」
そう言って礼蘭は暁に両手を差し出した。
その両手に、暁は笑って自分の両手を重ねた。
握り合う手と手。小さな手に誓った想い。
2人寄り添い頬を寄せた。
「‥‥うん!!約束だ!!!絶対、守ってあげるよ!
僕はずっと‥礼蘭を守って、ずっと一緒にいるから!」
「うん!!!」
頬を寄せて笑い合った幼き日、誓った約束。
お互いが、特別な存在なのだと、もう気付いていた。
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