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これは事実

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皇太子宮に1度戻ってきたテオドールとリリィベルは
部屋に入るなり唇を合わせた。

「っ‥はぁっ‥‥」

唇の隙間からリリィベルの息が漏れる。
「‥リリィっ‥‥」

両頬を包み、目を細めてリリィベルを見た。
胸がドクドクと響く音がする。

胸を合わせればリリィベルの胸の音も響いた。

「んっ‥‥‥」
更に腕をリリィベルの肩に回してすべての隙間を埋める様に抱き締めて唇を合わせた。


待ってた‥‥‥

この瞬間を‥‥‥


願っていた‥‥もう2度と離れていたくないと‥‥


リリィベルの両腕がテオドールの背にまわる。


頬を染めて唇を離した時、絡まる視線が熱い。


「‥‥リリィ‥‥愛してる‥‥」
「私も‥‥愛してます‥‥」


テオドールはふっと笑みを浮かべた。

「お前が視界にいない世界はまるで色がないようだった。」
「テオ‥‥」

「お前なしで‥‥生きられる気がしない‥‥」

リリィベルの、胸がドクンとなった‥‥
それは、ときめきだったのか‥
魂に響いたのか‥‥誰にもわからない。


「私も‥あなたの居ない世界はいりません‥‥」
リリィベルは踵を上げて、また唇を欲しがった。


瞳を閉じたテオドールの長い睫毛を、少しの間見た。

絡まる先で、確かめる様に‥


私はこの為にここにいるのだと。


「テオ‥‥っ‥‥」
「リリィ‥‥」

長くて短いその時間は扉を叩く音で終わりを告げた。
【皇太子殿下、皇帝陛下がお呼びです。】

「すぐに行く‥」

リリィベル髪をくしゃりと撫でて、微笑んだ。
「また後で‥‥。今夜からまた‥ずっと一緒だ‥」
「はい‥‥」

ちゅっと音を立てて口付けて
テオドールは皇太子宮を出て行った。

「はぁっ‥‥‥‥」

リリィベルはその場に座り込んだ。

帰ってきてくれた‥。その温もりを感じることが出来た。
リリィベルは、やっと・・・生きていると感じた。



皇帝陛下の命で、皇太后が捕らえられ、すべてに関連したと見なされた公爵家と侯爵家が捕まった。
皇太后はその地位を配慮され、城の一室に監禁されている。
更には、魔術師の力で、誰とも接触が図れないようにされていた。

ブリントン公爵、ヘイドン侯爵、オリバンダー侯爵と、貴族の中でも高い階級の者たち、他の貴族の者達も投獄された。

その日急遽召集がかかり、臨時で行われた貴族議会は空席が目立ち騒然としていた。

広い議会の間、上座に座った皇帝の斜め前の下座、皇太子がそこに立つ。
「皇太子、始めろ。」
「はい、陛下・・・。」

皇太子が、皆に向かって声を張る。

「まず、私がイシニスを制圧した事は皆、知っているな?帝国とイシニスの国境を守るカドマンへ、イシニスから奇襲あり、昨日、私が直々にイシニスの王族を捕らえ現在、城の地下牢に投獄している。イシニスのライディン王太子とレベッカ王女。彼らは国王と王妃を殺害し、政権を握っていた。
そして、現在、地下牢にオリバンダー侯爵がイシニスと繋がっているとみて拘束されている。

皆も知っての通り、前回の貴族議会で話題に上がったな。イシニスの王女から言質をとっている。
〝婚約者を殺すためにいくら出したと思っているのか〟とな、これはどういう意味か分かるか?

私の婚約者、リリィベルに向けた暗殺者の成功報酬に当てる為の金だ。
対価はこの帝国の情報。私の戦術やこの城の内部構造、帝国の国家予算。それは、国家管理補佐をしている息子から得た情報であろう。積もり積もったリリィベルへの成功報酬は帝国の国家予算2年分。
それを高額の一部を出したのはオリバンダー侯爵家、ブリントン公爵家、そしてヘイドン侯爵家、
あと、有象無象の貴族、これは、闇ギルドを把握した今、すべて明白となった。現在欠席している者達だ。

また・・・イシニスに奇襲を嗾けたことに関して、その三家と、
皇太后陛下が・・・・・この事実に関わっている。」

その事実に議席はざわついた。

「事の始まりは・・・皇太后陛下が公爵令嬢だった時代に遡るため、今回は明かさないが、
知っている者もいるだろう。そして、皇太后陛下は、我が婚約者ブラックウォール家と歪んだ縁がある。

私とリリィベルの婚約に反対し、私とリリィベルの婚約パーティーでの皇后陛下への毒殺未遂の容疑。
・・・そして、9年間、前皇帝陛下の側室エレナより毒を盛られたと偽りの罪を被せている事が分かっている。

そしてそれについても皇太后陛下の生家、ブリントン公爵家、ヘイドン侯爵家が関わっている。毒はヘイドン領地で採取できる毒草。毒はすでに我々が保管してある。
皇后陛下を脅かし、皇太子の婚約者に暗殺者を向けた罪。
更に尋問を続け、皇帝陛下より沙汰を出すこととなる。

すべての裁かれる者達が片付いたのち、空席となる爵位について、この件すべてに貢献した者達に与えられるであろう。皆私達への忠誠を見せてください頂きたい。

今回の報告は以上だ。異論のある者は申し出よ。もっとも、異論についても厳重に問い詰められる覚悟を持ってくれ。

これは、9年前の当時皇太子であった皇帝陛下の第二皇子の件同様に重大な罪に値する。」


しん・・・と議席は静まり返った。

皇太子と皇帝陛下の真剣な迷いない面持ちに、言葉も出ない空気であった。


そして静かに皇帝が口を開いた。

「すべての罪が明るみになった時、

厳しく処罰する事となる。皆、振る舞いには気を付けてくれ。」


皇帝の言葉を聞き、皇太子から閉会が告げられた。



貴族議会のあと、皇帝と皇太子が向かったのは地下牢だ。
すでに様々な罪は明白であった。

だが、その罪を認めさせるまで、尋問と言う名の拷問が待っていた。そして、この罪から逃れている唯一の存在、ライリーの件についても。


ヘイドン侯爵の前に皇帝は立った。

「娘をどこへ逃した?」

すでに憔悴していたが、ヘイドン侯爵は決して口を割らなかった。

「娘可愛いさに逃したようだが、お前の罪が事実である以上、家族同様私は罪に問う。

そなたの娘も、皇太子妃の座を欲し、皇太后と繋がっていた事も明白だ。娘に罪がないとは言わさんぞ。」

ヘイドン侯爵は奥歯を噛み締めていた。

「‥‥‥‥」

イシニスへ皇太子が向かったと知った時から、
皇帝が動く事を察した。やがて屋敷にも騎士団がやってくると。

娘まで捕まる前に‥‥ヘイドン侯爵は、侯爵家の腕利きの私兵にライリーを連れて逃げる様に言った‥。

帝国から出たら、捕まらなければ裁かれる事はない。
そこで、どう生きようと‥アレキサンドライトでの罪には問われない。


いつか皇太子妃にと望んだが‥‥娘の価値に気付かない皇帝も皇太子も、すべてが無意味だ。
自らの罪を認めても、娘まで裁かれたくない。


娘は‥‥ただ、皇太子を愛していた‥‥。


その愛が報われない今、逃してやる他なかった‥。

あの日ブリントン公爵の依頼で毒草を渡した時から‥
後悔した所でもう遅い‥

目の前に立つ男を、皇帝に据えたのは‥紛れもなく自分も力添えをしたつもりだった。けれどそれは力添えなどと言う正義ではなく、裏で毒を操り1人の医師が死んだ時から‥進んではいけない道だった。

「‥‥‥私がどんなに裁かれようとも‥娘の居場所は言いません。陛下はご自分の母君を裁く冷淡な人です。

誰のおかげで、その座についていると‥‥」


その言葉に、皇帝はため息をついた‥。

「誰のおかげ‥‥そうだな。皇帝と皇后の地位を持った人間に作られた私は、誰のおかげでもないと思っている。

子は親を選べないのだ。生まれながらにして私に皇太子の座があり、腹違いの弟を裁いたのは、弟が罪を重ねた故だ。


私は、私に与えられたすべてで、正義を貫いた。


唯一間違いがあったとしたなら、お前達に作られた毒で、エレナに罪を着せてしまった事だ。」


「‥‥ライリーを殺させはしません‥‥」
親の目が、突き刺さる。
けれど、皇帝はその確固たる瞳を跳ね返すように見下ろした。

「私は、母を裁きその罪を償わせる。お前も罪を犯した罪人の娘として生かして置きたくなかったのなら、欲を捨て真っ当に生きるべきだった。私は私の息子と息子の愛を守る為、

罪を犯した産みの母さえ、罪に問う。

そなたとは意見が合わないな‥‥。」

「っ‥‥ライリーはっ‥‥‥」
ヘイドン侯爵は、皇太子を睨み付けた。


「あの男を愛した時点でっ‥道を間違えた‥‥‥

皇太后の欲に呑まれなければっ‥‥‥」

「‥‥‥‥」
皇太子は黙ってヘイドン侯爵を見ていた。

そして皇帝がヘイドン侯爵の喉元に剣先を向けた。

「それはお前が間違った道を歩んだからだ。

愛することに罪はないが‥‥お前の欲にまみれた目を、
わずか8歳の息子が、既に見抜いておったわ‥‥‥

私の妻は‥‥息子を正しく育て上げていた。


その違いは、明白だ。」
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