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少し躊躇ったその小さな唇が震えた・・・・。
「・・・・あき・・・・・あきらっ!!!!!!!!!!」
ドクン・・・
「「「!!・・・・」」」
ロスウェルとハリー、そしてレオンが名を呼んだ時、テオドールの身体が脈を打ったように光が淀んだ。
「・・・アキラ・・・?誰だ・・・・?」
オリヴァーは真っ赤な目をしながら口にする。
リリィベルが呼んだその名は、この世界には馴染みなく聞いたこともない。
ただ、ロスウェルに姿を変えてもらったままだったテオドールとリリィベルが、その名を口にした時、
まるで別人のように思えた。黒髪の自分の息子は・・・・。
「あきっ・・・・あきっ・・・ねぇあきっ!!!!起きてっっ・・・・・。
ねぇっ・・・どこにも行かないでっ!!!!」
暁は、どんな思いで私を抱いていた・・・?
冷たくなった私を、腕に抱いて眠ったあの光景が鮮明に蘇る。
私は、冷たくなるあなたの手に、震えと涙が止まらなくて、
きっと、暁も・・・そうだったんだよね・・・・?
「ぁきぃっ!!!!あきぃぃ!!!!!!!!!!」
その名を呼んだことで、リリィベルの我を忘れたようにテオドールの身体を揺すった。
≪・・・・ああ・・・・まったく・・・・≫
「・・・・っ・・・アレクシスっ・・・・。」
テオドールの前にアレクシスの姿が現れた。アレクシスは神々しく光を放ってそこにいた。
眩しくて少し目が眩んだ。
≪・・・魔術師とは厄介な‥‥‥≫
「・・・なんだっ・・・魔術師がなんだっ・・。」
涙を乱暴に拭った。その涙に濡れる瞳は震えている。
真実が胸を締め付ける。
もう2度と‥‥死に別れなどしたくない‥‥。
《その名を口に出させるとは‥‥お前達は一体、この世界のなんだ?》
アレクシスの問い掛けに、眉を顰めた。
「なんだっ‥‥うぐっっ‥‥‥おまっ‥‥‥‥」
アレクシスに、初めの時のように頭を掴まれた。
《‥‥‥お前は、記憶を取り戻した。》
「ってぇよっ‥‥はなせっ‥‥」
ギリギリとこめかみが締め付けられる。
アレクシスの表情は呆れていたのだ。
《そなたに礼蘭の記憶を返したのは私。
だが、そなたら2人とも、大事なことを‥‥見失うな。》
「っ‥‥ぁん?っ‥‥」
掴んだ頭、傷が出来たはずの箇所。
アレクシスは、その傷に触れた。
《もう‥‥‥前世は終わったのだ。》
「っ‥‥‥は‥‥‥っ‥‥‥‥」
そう言われた途端に、アレクシスの手を掴んでいたテオドールの身体の力が一気に抜けた。
そして、また、涙が溢れた。
《そなたらは‥‥今を生きている‥‥‥。
礼蘭の希望、お前の後悔‥苦痛‥‥‥絶望‥‥‥‥。
もう、手放せ‥‥‥。
そなた達は、テオドールと、リリィベル‥‥なのだろう?》
唇が悔し気に歪む。その頬を流れる涙。
《これが、最後の涙だ‥‥‥せっかく記憶を取り戻し、運命に結ばれ、そなたらは再び出会いを果たした。
そなたらが愛を育むのは、これから先の未来だ。前世をやり直したかったのは分かっている。
だが、なんでも同じでは無い。
生まれ育った環境、出逢うまでの時間‥‥。
前世とは違うだろう‥‥だが、それを悲しむのはやめろ‥‥。
見ていた‥‥ずっと‥‥そなたらの結婚式‥‥‥。
私が見届け、星と月の祝福を降らせた‥‥。
どうしようもないのだ。前世は終わった‥‥‥。
もう、眠らせてやれ‥‥‥暁も、礼蘭も‥‥‥。
心配するな、奪うことは無い‥‥‥。
だが、そなたらの悲しみが負の連鎖を呼ぶ。
2度と、離れないのだろう‥‥?
つらかったであろうが‥‥‥そなたらはテオドールとリリィベルで、もう新しい人生なのだ。
悲しみばかりに囚われてはいけない‥‥‥。
幸せを夢見ながら心の奥で、前世ばかり跡を追う‥‥‥。
もう、終わったのだ‥‥‥。》
優しい声が、テオドールに大粒の涙を流させた。
礼蘭を失った時の無念が、渦巻いて消えなかった。
ずっと不安だったけれど‥‥‥。
もう、終わった‥‥‥‥。
あぁ、そうだな‥‥‥。
暁と礼蘭は生まれ変わり、新しい人生が始まった。
この世界では、テオドールとリリィベルなのだから‥‥。
「おれのっ‥‥罪はっ‥‥‥っ‥‥‥」
《お前の罪は、死を受け止められず自殺を繰り返した。
だが、そなたは、この世で礼蘭を待ち続けた。リリィベルに生まれ変わった礼蘭を‥‥。待っていたな‥‥もう、十分だ。
そして、礼蘭は、長い間そなたを待ち続け、自らを封印した。
もはや、そんな愛ゆえの所業を誰が罰せると言うのだ‥‥。
私には、あの子を罰する事は、出来ない‥‥‥。》
「ぅっ‥‥‥ぅぅぅぅっ‥‥‥っ‥‥‥」
堪えきれない涙と声が溢れる。
テオドールは、深い悲しみと、これまでの礼蘭と歩んだ前世を手放す事が出来なかった。
そう思い続け生きる事は、この人生には不要だった。
《もう、これ以上悲しむな‥‥。そなたらは再び出会ったのだから‥‥そして願いは叶った‥‥‥。》
「だけどっ‥‥‥わっ‥‥‥忘れられないっ‥‥‥ぅぐっ‥‥ぅぅぅ‥‥っ‥‥‥俺を守ってっ‥‥礼蘭がっ‥‥‥っ‥‥‥」
《ああ‥‥皆、そうであろうな。愛する者を失って‥‥平気な者は居らぬだろう‥‥。だが、もう時は過ぎた。
どんな経緯であれ、それは果たされた‥‥。
お前は、如月 暁は、生を全うしただろう‥?》
「くやっ‥‥し‥‥っ‥‥礼蘭がっ‥‥‥ふぅぅっ‥‥礼蘭が消えてっ‥‥‥俺だけが‥っ‥‥‥」
《ああ、礼蘭が、そなたの幸せを願ったのだ‥‥‥。
星に、願えば‥‥‥叶う望みもある‥‥。
神を信じぬそなたの夢は、叶わなかった。
だが、礼蘭なら、リリィベルなら信じられるだろう‥‥?》
「ぅぅぅぅっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥」
瞳をぎゅっと閉じた。それでも涙は溢れてくる。
礼蘭を失ったあの時のように、枯れることのない涙。
≪この世界で、リリィベルと出会った時を思い出せ・・・・。
確かに、そなたらは前世となんら変わらぬ姿だった。お前にはすぐに分かった。
魂もだ。お前はそれほどに、礼蘭を懇願していた。喉から手がでる程・・・・。
けれど、リリィベルと過ごした日々があるだろう。
以前お前に伝えたな?あれはお前とリリィベルが出会った夜・・・・。
どんな事を思い出しても、それでも壊れても構わぬと・・・。それぐらい強くなると誓ったであろう。
私は、そなたの願いを聞き入れた。けれどリリィベルはそれでもお前の身を案じ自ら身を削った。
だからあの日・・・。そなたら2人、同時に記憶を取り戻した。
それくらい・・・リリィベルはそなたを愛している。
前世を繰り返してはいけないと言ったであろう?
リリィベルに、同じ未来を与えてくれるなよ?≫
「ぐっ・・絶対っ・・・そんな事しないっ・・・・・俺はっ・・・・
リリィと生きられるならっ・・・・」
スッとテオドールはアレクシスの手から解放された。
へたりこむように座り込んだ。
「絶対だ・・・・。もう絶対っ・・・離れない・・・・天には返さないっ・・・・。」
その言葉にアレクシスはうっすらと笑みを浮かべた。
≪なら・・・前世に執着するのは・・・これで最後だ・・・・。
さすれば、お前が望むすべてが、叶うであろう・・・・。≫
その言葉に、テオドールはアレクシスを見上げた。
アレクシスの白い宝石ムーンストーンが白い光を放ち光り輝く。
≪ああ・・・リリィベルは、お前がその手で解放しろ・・・・。≫
「え・・・?でもっ・・俺・・・・・・」
確か・・・死んだって・・・・。
≪ふっ・・・・はははははっ・・・・私に命を操る力は初めからない。
さっさと帰れ?リリィベルが、そなたを呼んでいる。だが、暁ではなく、テオドールとして・・・・。
この次の世を全うせよ・・・。またここから始めればよい。
生きてさえいれば・・・失うモノもあり、得るモノもあると、肝に銘じておけ・・・・。≫
テオドールはハッと目を見開いた。
「っ・・・じゃぁっ!!!!俺が死んだっていうのはっ!!!!!!」
そう口にした時、アレクシスの妖艶なウィンクが見えた。
そして目の前が真っ白な光で覆われた。
「ざけんなアレクシス!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガバァ!!っとテオドールの身体は飛び起きた。
「っ・・・テオっ・・・・テオぉっ!!!!」
飛び起きたテオドールに、リリィベルはすぐに抱き着いた。
「うぉっ・・・あれっ・・・・?俺、寝てた?」
泣き続けているリリィベルを軽く抱き寄せ周りを見た。
同じく涙を流したマーガレットと、その肩を抱く赤い目のオリヴァー。
そして、疲れ果てた顔をした、三人の魔術師。
「・・・寝てたなんて・・・軽く言ってくれますね・・・・。まったく・・・・
貴方という人は・・・・・。」
額に汗をかき、その頬を伝う。ロスウェルがガクッと膝から崩れ落ちた。
「ロスウェル様!!!」
ハリーがすかさずロスウェルの身体を支えた。
「ぁ・・・・え・・・・?」
テオドールは、頭に傷があれど、血は止まっている。
だが、目覚めた時、その傷が痛んだ。
「い・・・ってぇ・・・・・。」
テオドールは後頭部をさすった。
「ダメですっ・・・傷がっ・・・傷がずっと・・っぐすっ・・治らなくてっ・・・・。」
リリィベルが、テオドールの腕の中から見上げた。
「・・・ぁ・・・そうなんだ・・・・。」
やっぱり、事故は起こっていた。けれど、疲れ果てたロスウェル達を見ると、
やはりアレクシスの力によって、魔術師達の力が及ばぬ異空間へ連れ去られ意識が戻らなかった。
差し詰めそんなところだろう。それなのに、ロスウェル達は力を尽くし守ってくれていた。
「テオっ・・・テオドールっ!!!!」
マーガレットが堪らずテオドールによろけながらも近寄った。
「母上・・・・ご心配をかけてすみません・・・っ・・・。」
涙を流す母を見て、胸が苦しかった。
「あなたがっ・・・死んでしまうかとっ・・・死んでしまうかと思ったわっ・・・。
冷たくなっていくのをっ・・っうぅぅっ・・・・。」
言葉にならず、ベッドの上で突っ伏した。
オリヴァーが側により、マーガレットの背を撫でた。
「・・・お前が冷たくなってしまうから・・・ロスウェル達が必死で時を遅らせる魔術をかけた。
これは、結婚式前夜もだ・・・。だが、お前の身体がどんどん冷たくなるから・・・。
リリィが・・・ずっとお前の手を握っていた・・・・。」
「・・・そう・・・だったのか・・・・・。」
腕の中ですすり泣くリリィベルを見下ろし、テオドールは優しく笑みを浮かべた。
「ありがとう・・・リリィ・・心配かけてごめんな?もう大丈夫だ・・・・。」
「っ・・・大丈夫ではありませんっ!!・・・まだ傷が癒えておりませんっ・・・・。」
その胸を小さな手がトンと叩く。それを受け止めテオドールはぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫なんだ・・・・本当に・・・大丈夫だよ・・・。リリィ・・・・・。」
それから数十分もの間、妻と母は泣き続けた。
その傍らで、ハリーがロスウェルに気力回復の魔術を送り続ける。
ロスウェルは干からびそうだった。万が一に備えて作り出した魔術は、二度もその機会を迎えた。
「・・・はぁ・・・っ・・・ありがとうハリー・・・お前もよくやってくれた。
もう大丈夫だ。」
ロスウェルはハリーの肩に手を置き、弱弱しく笑みを浮かべた。
「ロスウェル様の魔力がこんなに弱々しくなるなんてっ・・・どれだけ力を注いだんですかっ!」
「皇太子の一大事なのだ・・・。私が力を尽くさないでどうする?・・・それに、こうして殿下は目を覚ましてくれた。後はもう・・・大丈夫そうだから、適当に治癒魔術・・・かけといて?」
そういうとロスウェルは後ろに倒れこみ、安らかな笑みを浮かべて眠りについた。
まるでこちらが死を迎えたようだった。
「・・・テオっ・・・本当に大丈夫っ・・・?」
泣き腫らした目尻で、リリィベルは再度テオドールに問いかけた。
その顔に、テオドールは優しく微笑む。
そして・・・・思い返すのだった。
もう、悲しむのは・・・・終わりにしようと・・・・・・。
「・・・・あき・・・・・あきらっ!!!!!!!!!!」
ドクン・・・
「「「!!・・・・」」」
ロスウェルとハリー、そしてレオンが名を呼んだ時、テオドールの身体が脈を打ったように光が淀んだ。
「・・・アキラ・・・?誰だ・・・・?」
オリヴァーは真っ赤な目をしながら口にする。
リリィベルが呼んだその名は、この世界には馴染みなく聞いたこともない。
ただ、ロスウェルに姿を変えてもらったままだったテオドールとリリィベルが、その名を口にした時、
まるで別人のように思えた。黒髪の自分の息子は・・・・。
「あきっ・・・・あきっ・・・ねぇあきっ!!!!起きてっっ・・・・・。
ねぇっ・・・どこにも行かないでっ!!!!」
暁は、どんな思いで私を抱いていた・・・?
冷たくなった私を、腕に抱いて眠ったあの光景が鮮明に蘇る。
私は、冷たくなるあなたの手に、震えと涙が止まらなくて、
きっと、暁も・・・そうだったんだよね・・・・?
「ぁきぃっ!!!!あきぃぃ!!!!!!!!!!」
その名を呼んだことで、リリィベルの我を忘れたようにテオドールの身体を揺すった。
≪・・・・ああ・・・・まったく・・・・≫
「・・・・っ・・・アレクシスっ・・・・。」
テオドールの前にアレクシスの姿が現れた。アレクシスは神々しく光を放ってそこにいた。
眩しくて少し目が眩んだ。
≪・・・魔術師とは厄介な‥‥‥≫
「・・・なんだっ・・・魔術師がなんだっ・・。」
涙を乱暴に拭った。その涙に濡れる瞳は震えている。
真実が胸を締め付ける。
もう2度と‥‥死に別れなどしたくない‥‥。
《その名を口に出させるとは‥‥お前達は一体、この世界のなんだ?》
アレクシスの問い掛けに、眉を顰めた。
「なんだっ‥‥うぐっっ‥‥‥おまっ‥‥‥‥」
アレクシスに、初めの時のように頭を掴まれた。
《‥‥‥お前は、記憶を取り戻した。》
「ってぇよっ‥‥はなせっ‥‥」
ギリギリとこめかみが締め付けられる。
アレクシスの表情は呆れていたのだ。
《そなたに礼蘭の記憶を返したのは私。
だが、そなたら2人とも、大事なことを‥‥見失うな。》
「っ‥‥ぁん?っ‥‥」
掴んだ頭、傷が出来たはずの箇所。
アレクシスは、その傷に触れた。
《もう‥‥‥前世は終わったのだ。》
「っ‥‥‥は‥‥‥っ‥‥‥‥」
そう言われた途端に、アレクシスの手を掴んでいたテオドールの身体の力が一気に抜けた。
そして、また、涙が溢れた。
《そなたらは‥‥今を生きている‥‥‥。
礼蘭の希望、お前の後悔‥苦痛‥‥‥絶望‥‥‥‥。
もう、手放せ‥‥‥。
そなた達は、テオドールと、リリィベル‥‥なのだろう?》
唇が悔し気に歪む。その頬を流れる涙。
《これが、最後の涙だ‥‥‥せっかく記憶を取り戻し、運命に結ばれ、そなたらは再び出会いを果たした。
そなたらが愛を育むのは、これから先の未来だ。前世をやり直したかったのは分かっている。
だが、なんでも同じでは無い。
生まれ育った環境、出逢うまでの時間‥‥。
前世とは違うだろう‥‥だが、それを悲しむのはやめろ‥‥。
見ていた‥‥ずっと‥‥そなたらの結婚式‥‥‥。
私が見届け、星と月の祝福を降らせた‥‥。
どうしようもないのだ。前世は終わった‥‥‥。
もう、眠らせてやれ‥‥‥暁も、礼蘭も‥‥‥。
心配するな、奪うことは無い‥‥‥。
だが、そなたらの悲しみが負の連鎖を呼ぶ。
2度と、離れないのだろう‥‥?
つらかったであろうが‥‥‥そなたらはテオドールとリリィベルで、もう新しい人生なのだ。
悲しみばかりに囚われてはいけない‥‥‥。
幸せを夢見ながら心の奥で、前世ばかり跡を追う‥‥‥。
もう、終わったのだ‥‥‥。》
優しい声が、テオドールに大粒の涙を流させた。
礼蘭を失った時の無念が、渦巻いて消えなかった。
ずっと不安だったけれど‥‥‥。
もう、終わった‥‥‥‥。
あぁ、そうだな‥‥‥。
暁と礼蘭は生まれ変わり、新しい人生が始まった。
この世界では、テオドールとリリィベルなのだから‥‥。
「おれのっ‥‥罪はっ‥‥‥っ‥‥‥」
《お前の罪は、死を受け止められず自殺を繰り返した。
だが、そなたは、この世で礼蘭を待ち続けた。リリィベルに生まれ変わった礼蘭を‥‥。待っていたな‥‥もう、十分だ。
そして、礼蘭は、長い間そなたを待ち続け、自らを封印した。
もはや、そんな愛ゆえの所業を誰が罰せると言うのだ‥‥。
私には、あの子を罰する事は、出来ない‥‥‥。》
「ぅっ‥‥‥ぅぅぅぅっ‥‥‥っ‥‥‥」
堪えきれない涙と声が溢れる。
テオドールは、深い悲しみと、これまでの礼蘭と歩んだ前世を手放す事が出来なかった。
そう思い続け生きる事は、この人生には不要だった。
《もう、これ以上悲しむな‥‥。そなたらは再び出会ったのだから‥‥そして願いは叶った‥‥‥。》
「だけどっ‥‥‥わっ‥‥‥忘れられないっ‥‥‥ぅぐっ‥‥ぅぅぅ‥‥っ‥‥‥俺を守ってっ‥‥礼蘭がっ‥‥‥っ‥‥‥」
《ああ‥‥皆、そうであろうな。愛する者を失って‥‥平気な者は居らぬだろう‥‥。だが、もう時は過ぎた。
どんな経緯であれ、それは果たされた‥‥。
お前は、如月 暁は、生を全うしただろう‥?》
「くやっ‥‥し‥‥っ‥‥礼蘭がっ‥‥‥ふぅぅっ‥‥礼蘭が消えてっ‥‥‥俺だけが‥っ‥‥‥」
《ああ、礼蘭が、そなたの幸せを願ったのだ‥‥‥。
星に、願えば‥‥‥叶う望みもある‥‥。
神を信じぬそなたの夢は、叶わなかった。
だが、礼蘭なら、リリィベルなら信じられるだろう‥‥?》
「ぅぅぅぅっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥」
瞳をぎゅっと閉じた。それでも涙は溢れてくる。
礼蘭を失ったあの時のように、枯れることのない涙。
≪この世界で、リリィベルと出会った時を思い出せ・・・・。
確かに、そなたらは前世となんら変わらぬ姿だった。お前にはすぐに分かった。
魂もだ。お前はそれほどに、礼蘭を懇願していた。喉から手がでる程・・・・。
けれど、リリィベルと過ごした日々があるだろう。
以前お前に伝えたな?あれはお前とリリィベルが出会った夜・・・・。
どんな事を思い出しても、それでも壊れても構わぬと・・・。それぐらい強くなると誓ったであろう。
私は、そなたの願いを聞き入れた。けれどリリィベルはそれでもお前の身を案じ自ら身を削った。
だからあの日・・・。そなたら2人、同時に記憶を取り戻した。
それくらい・・・リリィベルはそなたを愛している。
前世を繰り返してはいけないと言ったであろう?
リリィベルに、同じ未来を与えてくれるなよ?≫
「ぐっ・・絶対っ・・・そんな事しないっ・・・・・俺はっ・・・・
リリィと生きられるならっ・・・・」
スッとテオドールはアレクシスの手から解放された。
へたりこむように座り込んだ。
「絶対だ・・・・。もう絶対っ・・・離れない・・・・天には返さないっ・・・・。」
その言葉にアレクシスはうっすらと笑みを浮かべた。
≪なら・・・前世に執着するのは・・・これで最後だ・・・・。
さすれば、お前が望むすべてが、叶うであろう・・・・。≫
その言葉に、テオドールはアレクシスを見上げた。
アレクシスの白い宝石ムーンストーンが白い光を放ち光り輝く。
≪ああ・・・リリィベルは、お前がその手で解放しろ・・・・。≫
「え・・・?でもっ・・俺・・・・・・」
確か・・・死んだって・・・・。
≪ふっ・・・・はははははっ・・・・私に命を操る力は初めからない。
さっさと帰れ?リリィベルが、そなたを呼んでいる。だが、暁ではなく、テオドールとして・・・・。
この次の世を全うせよ・・・。またここから始めればよい。
生きてさえいれば・・・失うモノもあり、得るモノもあると、肝に銘じておけ・・・・。≫
テオドールはハッと目を見開いた。
「っ・・・じゃぁっ!!!!俺が死んだっていうのはっ!!!!!!」
そう口にした時、アレクシスの妖艶なウィンクが見えた。
そして目の前が真っ白な光で覆われた。
「ざけんなアレクシス!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガバァ!!っとテオドールの身体は飛び起きた。
「っ・・・テオっ・・・・テオぉっ!!!!」
飛び起きたテオドールに、リリィベルはすぐに抱き着いた。
「うぉっ・・・あれっ・・・・?俺、寝てた?」
泣き続けているリリィベルを軽く抱き寄せ周りを見た。
同じく涙を流したマーガレットと、その肩を抱く赤い目のオリヴァー。
そして、疲れ果てた顔をした、三人の魔術師。
「・・・寝てたなんて・・・軽く言ってくれますね・・・・。まったく・・・・
貴方という人は・・・・・。」
額に汗をかき、その頬を伝う。ロスウェルがガクッと膝から崩れ落ちた。
「ロスウェル様!!!」
ハリーがすかさずロスウェルの身体を支えた。
「ぁ・・・・え・・・・?」
テオドールは、頭に傷があれど、血は止まっている。
だが、目覚めた時、その傷が痛んだ。
「い・・・ってぇ・・・・・。」
テオドールは後頭部をさすった。
「ダメですっ・・・傷がっ・・・傷がずっと・・っぐすっ・・治らなくてっ・・・・。」
リリィベルが、テオドールの腕の中から見上げた。
「・・・ぁ・・・そうなんだ・・・・。」
やっぱり、事故は起こっていた。けれど、疲れ果てたロスウェル達を見ると、
やはりアレクシスの力によって、魔術師達の力が及ばぬ異空間へ連れ去られ意識が戻らなかった。
差し詰めそんなところだろう。それなのに、ロスウェル達は力を尽くし守ってくれていた。
「テオっ・・・テオドールっ!!!!」
マーガレットが堪らずテオドールによろけながらも近寄った。
「母上・・・・ご心配をかけてすみません・・・っ・・・。」
涙を流す母を見て、胸が苦しかった。
「あなたがっ・・・死んでしまうかとっ・・・死んでしまうかと思ったわっ・・・。
冷たくなっていくのをっ・・っうぅぅっ・・・・。」
言葉にならず、ベッドの上で突っ伏した。
オリヴァーが側により、マーガレットの背を撫でた。
「・・・お前が冷たくなってしまうから・・・ロスウェル達が必死で時を遅らせる魔術をかけた。
これは、結婚式前夜もだ・・・。だが、お前の身体がどんどん冷たくなるから・・・。
リリィが・・・ずっとお前の手を握っていた・・・・。」
「・・・そう・・・だったのか・・・・・。」
腕の中ですすり泣くリリィベルを見下ろし、テオドールは優しく笑みを浮かべた。
「ありがとう・・・リリィ・・心配かけてごめんな?もう大丈夫だ・・・・。」
「っ・・・大丈夫ではありませんっ!!・・・まだ傷が癒えておりませんっ・・・・。」
その胸を小さな手がトンと叩く。それを受け止めテオドールはぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫なんだ・・・・本当に・・・大丈夫だよ・・・。リリィ・・・・・。」
それから数十分もの間、妻と母は泣き続けた。
その傍らで、ハリーがロスウェルに気力回復の魔術を送り続ける。
ロスウェルは干からびそうだった。万が一に備えて作り出した魔術は、二度もその機会を迎えた。
「・・・はぁ・・・っ・・・ありがとうハリー・・・お前もよくやってくれた。
もう大丈夫だ。」
ロスウェルはハリーの肩に手を置き、弱弱しく笑みを浮かべた。
「ロスウェル様の魔力がこんなに弱々しくなるなんてっ・・・どれだけ力を注いだんですかっ!」
「皇太子の一大事なのだ・・・。私が力を尽くさないでどうする?・・・それに、こうして殿下は目を覚ましてくれた。後はもう・・・大丈夫そうだから、適当に治癒魔術・・・かけといて?」
そういうとロスウェルは後ろに倒れこみ、安らかな笑みを浮かべて眠りについた。
まるでこちらが死を迎えたようだった。
「・・・テオっ・・・本当に大丈夫っ・・・?」
泣き腫らした目尻で、リリィベルは再度テオドールに問いかけた。
その顔に、テオドールは優しく微笑む。
そして・・・・思い返すのだった。
もう、悲しむのは・・・・終わりにしようと・・・・・・。
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※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
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