ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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eternity

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「っ‥‥どうしてっ‥‥‥そんなこと言うの‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥」

 リリィベルの言葉に、テオドールは黙った。
 混乱させてしまう事はわかっていた。
 妊娠がわかった今、それがどれだけ心に負担を負わせるかと、不安だった。

 けれど、大きくなってから言うには遅すぎる。

 このリリィベルの、礼蘭の悲しみを抱えたままでは、
 ダメだっと思った。

 自分自身も‥‥‥


「ロスウェル」
「はい、殿下‥」


 名を呼ばれるとロスウェルは一つの空に飛ばせるランタンを手にしていた。

「これは‥‥‥」

 火が灯ったそのランタン、そのランタンには、
 テオドールが綴った文字が入っている。

 ロスウェルにもその意味はわからない。

 そのランタンに、リリィベルは涙を浮かべた。

「私はっ‥‥生きていて欲しかったのっ‥‥っ‥‥」

「ああ‥‥‥。」


「暁にっ‥‥‥生きてっ」

「そうだな‥‥だから‥‥お前は‥‥」


 死んでしまった‥‥。




「俺は、生きて死んだよ‥‥お前を、忘れて‥‥‥。」


「それでっ‥‥良かったの‥‥‥」


「あきがっ‥‥私のせいで苦しむ姿を見たくなかったっ‥‥。」

「ごめんな‥‥情けない姿を、見せた‥‥だからお前はっ‥‥‥」

「違うのっ‥‥‥私はっ‥‥あきのそばを離れたくなくてっ‥‥あきのいない世界に生まれたくなくてっ‥‥‥

 あきのいる世界で‥‥もう一度っ‥‥‥」


「ああ、俺達は‥‥この世界でまた、巡り会えただろ‥‥?

 俺達には、この世界がある‥‥っ‥‥笑って、迎えてやりたいっ‥‥‥俺達の子は‥‥ちゃんとっ‥‥俺達の元へ来てくれたんだ‥‥」

「うぅっ‥‥‥」


 テオドールは、泣きじゃくったリリィベルを抱きしめた。
 その顔は、嬉しい涙になって流れた。

「お父さんって‥‥‥昨夜、呼んでくれたんだっ‥‥‥

 お前の中でっ‥‥あの子も一緒に生まれ変わってっ‥‥


 俺達が出会うのも待ちわびて‥‥っ‥‥結婚式を一緒に迎えて‥‥‥なぁリリィっ‥‥‥‥俺達には、この世界でっ‥‥‥


 悲しまないで生きていけるっ‥‥‥


 俺薄情かなぁっ‥‥でもさっ‥‥‥



 俺達、また‥‥明日を一緒に生きられるんだっ‥‥‥


 それがっ‥‥これ以上っ‥‥‥幸せになるのが怖いよっ‥‥‥。



 今が幸せでっ‥‥‥




 だからっ‥暁はっ‥‥礼蘭と、一緒の星になりたいっ‥‥。


 今ならできるよっ‥‥お前も、俺と一緒にいたいって‥‥


 思ってくれただろっ‥‥‥?」




「ぁぁぁぁぁっ‥‥‥‥‥っあぁぁぁっ‥‥‥」


 テオドールの胸で、リリィベルは泣き叫んだ。





 あの世はとても恐ろしかった。


 この手がまだ小さな頃から守られていた。



 心細かった‥‥寂しかった‥‥‥とても怖かった‥‥‥。


 暁のそばに居られないのが‥‥‥とても‥‥‥。





 だから願った。この事実を忘れたかったから、
 消してしまったのだと‥‥‥。


 深い眠りについて、暁が生まれ変わるのを待っていた‥‥。
 臆病だった。暁が死んでしまうことを望みはしない。
 でも、そばに居たかった‥‥‥‥。


 逃げたのは自分だ‥‥。


 2人で忘れてしまったら、悲しさは消える。

 眠ってしまったら、その間は何もない世界。



 眠り続けながら、暁を待っていた‥‥‥。


 再び、暁の手に抱かれるのを夢見ながら‥‥‥‥。




 私は戻ってきた‥‥‥暁のそばに‥‥‥‥



 同じ魂である‥‥テオドールのそばに‥‥‥






 もう‥‥あの恐怖は‥‥‥




 泣いているだけの日々は‥‥‥‥




 もう、終わるのね‥‥‥。







 リリィベルの涙に唇を当てた。テオドールの閉じた目尻から涙が溢れる。


 本当につらかったのは、誰でもないリリィベル自身‥‥。
 こんな俺の為に、魂が巡るのを待っていた。



 俺達は、離れた事がなかったから‥‥。


 俺も怖かったよ‥‥‥礼蘭の居ない世界は‥‥‥。



 だから



 暁と礼蘭に、終わりを告げよう‥‥‥。




 これが俺達の、ハッピーエンドだ‥‥。





 暁と礼蘭は、いつまでも星になって寄り添い続け、

 魂が生まれ変わっても、



 永遠に巡り合い続ける‥‥‥。


 そして、愛し合って死にゆく‥‥‥。




 これが、幾度目かの魂かは分からない。



 だが、信じている。



 俺達は永遠に巡り会い愛し合う運命の番(つがい)





「‥‥‥‥」

 ロスウェルは、その光景を2人の視界に入らぬ少し遠い所から見ていた。



 まるで絵画のような星の煌めきに包まれて涙を流す2人。


 2人が呼び合う、〝アキラ〟とレイラ〟は

 この空を飛ぶランタンで夜空に舞い上がり



 一つの星となり、永遠に輝き続ける。






 それが、2人の願い。


 永遠に離れることのない星。



 ああ、月が‥‥‥


「眩しくて、目が眩みそうですね‥‥」
 目を細めた2人の周りを星の粒が舞う。




 神々しい星の粒が、2人を包む。





 2人の手でランタンを離した。
 ふんわりと宙に浮かび、ゆっくり遠ざかる。


「俺を信じろ‥‥。」

「‥‥礼蘭は、永遠に‥‥暁のそばにいるのね‥‥」



 浮かび上がるそのランタンは、やがて星の輝きを放ち、


 夜空の星の一つになる。

 星に書いた文字は〝eternity〟




 一緒に生まれた世界


 幼い頃からずっと一緒だった。




 恋を知り、愛を覚え、永遠を誓った。




 死に別れた愛し合う2人は、




 時を越えて望んだその生涯を終える‥‥‥。







 新しい世界で、再び永遠の愛を繋いでいくために。




「礼蘭‥‥」




 これが、最後だ‥‥‥



 テオドールは、涙を流し笑った。



「愛してるよ‥‥‥」



 この世界でこの名を呼ぶことは出来ない。
 2人で空に返した前世の終焉。



 



 大好きだ。とても愛していた‥‥‥。



 全部愛してた‥‥‥。
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