ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李

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新たなる始まり

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 夜空に浮かんだランタンは、姿を変えて星の様にいつまでも輝き続ける。1番眩しい星となって。

 生まれ変わった2人を、月と星が照らし続けることだろう。

「‥‥‥ふぅ‥‥‥」

 ロスウェルは魔塔に戻り息を吐いた。


 あれから、2人の加護が驚く程安定した。
 それを見届けてロスウェルは下がったのだった。

 今も2人は塔の上で星を眺めている事だろう。


「‥‥‥殿下らしい‥‥答えだったな‥‥」



 相談された時のことを思い出し口角が上がった。

 2人には前世の縁がある事も、アキラとレイラという名前だった事も既に知っている。


 悲しい最後を迎えた2人の魂を新しい2人の人生で、
 終わらせる為のこと。


 星をなりたいと、言われた時は驚いた。

 新たな星を作ると言う、2人の永遠の星だと。



 そんな事は、きっと彼しか思い付かないだろう。



 でも、これはアキラとレイラという魂の区切り。
 彼等はこの世界を受け入れ、前へ進もうとしている。



「これで‥‥良かったから‥‥神はまた祝福を授けたのだろう。」

 2人に降り注ぐ輝く星の粒はとても綺麗で、神聖だった。

 あれは、まさしくアレクシス神の最大なる加護。

 月と星に離れた2人は、共に星となった。




 ロスウェルは静かに笑みを浮かべた。

「明日はどんな日になるだろう‥‥」




 魔塔の窓から見た夜空はいつに増して、
 やはりとても美しかった。






「そろそろ、部屋に帰ろうリリィ。」

「はい‥‥‥」


 テオドールに言われるがままリリィベルはテオドールと手を繋ぎ来た道を引き返した。


 そして、ベッドに2人抱きしめ合って眠りについた。

 涙の跡は消えないけれど、




 明日が来ることに、喜びを感じる事ができた。

 手放した悲しみは、心を軽くした。



 簡単には癒えない傷でも、こうして毎日を過ごしていたら、
 寄り添ってくれる愛する人が大丈夫だと言ってくれたら、


 本当に、大丈夫なように思えた。



 感謝すらできた。


 2人の元へやってきた我が子、まだほっそりとしたお腹に、2人は手を重ねた。



「おやすみ‥‥リリィ、‥‥あ、そういや名前、
 考えなきゃな‥‥。」


 出来たばかりの子を呼ぶ事ができずにテオドールはハッと目を見開いた。
 その様子が少しおかしくて、リリィベルは笑った。


「わかったばかりです。ゆっくり考えましょ?
 男の子か、女の子かまだわかりませんもの。」
「ああ、ここじゃ産まれるまで分からないんだったな‥‥
 二つ名前を用意しないとな‥‥」

「はい、素敵な名前を‥‥」

 そう呟いたリリィベルは、泣き疲れたこともあり眠りに落ちていった。
 いつもながら眠りにつくのが早いリリィベルにクスリと笑った。

「そんなお前も愛しいよ‥‥」

 リリィベルの頭に顎を預けて、テオドールも瞳を閉じた。




 心は穏やかだった。


 ついさっきまで、怖かったくせに。

 不安だったくせに、



 アレクシスの言った事は間違ってなかった。



 前世の悲しみを、手放す事は勇気がいる事だった。



 どんなに悲しくても、名残惜しくても、


 同じ魂が、再び巡り合い人生を共にする。


 そうやって、いつか、この人生が終わりを迎えたとしたも、


 また巡り合い、恋をする。





 俺達は、番(つがい)なのだから‥‥‥。




「おはようございます。父上。」
「‥‥あぁ、おはよう」


 ダイニングルームにやってきた2人は霧が晴れた様な清々しく穏やかな笑顔を両親に向けたのだった。


「おはようございますお義父様、お義母様。」
「リリィ、つわりはどう?体調は?」
「大丈夫です。食べ物はまだわかりませんが。」

 テオドールはリリィベルの椅子を引くと、丁寧に体に手を添えて座らせた。
「母体に良い物を用意するよう伝えてある。無理せず食べなさい。子が喜ぶものがあると良いのだが。」
 オリヴァーがリリィベルに微笑んだ。

「ありがとうございます。」
「あと、今日はリリィの為にゲストを呼んであるんだ。
 昨夜伝えたら、朝一番に飛んできてくれたよ?」

「‥‥お義父様、ひょっとして!」


 ニコッと笑ったオリヴァーが、扉の前に立っている従者に手で合図を送ると、従者は扉を開けた。
 ダイニングルームに繋がる部屋からダニエルがやってきた。
「リリィ!」
「お父様!!」

 喜びの声を上げたリリィベル、ダニエルは立ち上がろうとするリリィベルを前に急いで駆け寄った。

「急に立ち上がると危ないだろう?!大切な御子がいるんだから!」
 慌てたダニエルに、リリィベルは笑った。

「ごめんなさいお父様っ嬉しくてついっ‥‥」
「リリィ、ほらゆっくり立って?」
 テオドールは、リリィベルの手を取り体を安定させて立ち上がらせた。

 ダニエルは、涙を浮かべてリリィベルを抱きしめた。

「ああリリィ‥‥お前が母になるだなんて‥‥」
 その言葉には、テオドールはビクゥっと身体を震わせた。

 結婚式は数日前、2日3日で子が出来るはずもないのは、誰もが知っている。

 テオドールが流した冷や汗にオリヴァーは密かにニヤリと笑った。

「お父様!テオの子を授かって私とっても幸せです。
 この国の世継ぎが出来たのですから。」
「ああ、もちろんだ。お2人の御子をこんなに早く見る事が出来るんだ。父はとても待ち遠しいよ。」

 抱擁を交わす2人にテオドールは静かに笑みを浮かべた。


 思えばダニエルには色々と早急な事ばかり告げてしまい、更には子供まで早くに授かった事を知る羽目になった。
「父君、私の妃は私が全身全霊守りますので、どうかご安心を。」

 ダニエルは、テオドールを見て穏やかに微笑んだ。
「殿下の側に居れば妃殿下は安心です。どうか、健やかに過ごされます様願っております。」

「ああ、任せてくれ。」



 その後の朝食は穏やかにたくさんの笑顔と共に時が流れた。
 リリィベルのつわりはなく食べたい物を食べる事ができた。
 これから本格的なつわりが始まるかも知れないが、個人差はある。皆が2人の子の成長をとても楽しみにしている。


「‥‥んー‥‥‥」


 午後、テオドールの執務室。
 テオドールは紙にびっしりと書き出していた。


 フランクがその熱心な姿に笑みを浮かべた。

 だが、フランクの思う仕事では無かったが‥‥。



「殿下、少し手を止めて休憩して下さい。」
「あ?ああ、んまー‥‥日にちはまだあるしな。」

 その言葉にフランクはピタっと止まる。
「今日中に確認頂く書類ばかりですが‥‥?」
 フランクは思わずテオドールの目の前にある紙を覗き込んだ。ぽかんとしたテオドールはただ首を傾げた。



「殿下、これは‥‥‥」


「ああ、男の場合の名前候補と、女の候補、悩んでんだよなー」
 羽ペンをクルクル指で回し頭を悩ませる。

「殿下っ‥‥仕事はっっ?!」
「あん?んなのもう午前中に終わったっつの。お前ちゃんと見てんのか?」
「えっ?!ぁ、ああぁ~良かったぁ‥‥」

 安堵し脱力するフランクをジトリと見たテオドールだった。

「俺はなぁ、真面目にやってんだよ、こうやって時間取れる様にな、みくびるなよ。皇太子やぞ。」

「ハッ!失礼しました。式を終えてからの仕事は溜まっておりましたもので‥あの量をもう?」

「俺はもう子がいるんだぞ?情けねぇ仕事姿は見せねぇよ。」
「‥‥‥はぁ、やはり御子の存在は偉大ですね。

 ああ、妃殿下、ありがとうございます!!!」

 フランクが嬉しそうに胸に手を当てて言う。
「礼は俺に言えよ。職下ろすぞ。」
「私以外に殿下のお世話が出来る人などおりません。
 殿下は潔癖中の潔癖ですから。」

「ふんっ‥‥‥」

 テオドールは面白くなさげに鼻を鳴らした。
 確かに長年仕えていたフランク以外は面倒だ。
 メイドの出入りも嫌だ。何から何まで最低限世話をさせているのはフランクだ。


「はぁ、御子様の誕生が待ち遠しいです。殿下は仕事を早く終わらせて下さる事でしょう。」
「けっ‥‥」

 テオドールは、それを重々自覚している。
 仕事を残すことは気持ちが悪いのだ。
 よっぽどのことがない限り仕事は早めに終わらせるタイプの人間だ。そして、ご褒美の様に好きな事をする。

「ふぅ‥‥‥」

 ニコニコしているフランクを他所に、テオドールは紙に書かれた数々の候補の名前を見て目尻を下げた。


「リリィはどんな名前を考えてるかな‥‥」







「ぁぁぁ‥‥‥」
「妃殿下、大丈夫ですか?」

「ぇぇ‥‥‥‥はぁ‥‥」


 絶賛つわり中だった。

 朝食を食べた後はまだ良かった。昼食もマーガレットと共に食べる事が出来たのだが、油断していた。
 口の中がどんどん気持ちが悪くて、ソファーにグッタリと座った。これまた横になるのも気持ちが悪い。

 つわりは吐くだけではない。様々な方面から訪れる。

「妃殿下‥‥何がお嫌でしたか?」
「えぇ‥‥?ぅぅん‥‥‥なにかしら‥‥‥」

 昼食も消化された頃、なんだか胸の辺りがザワザワしていた。

「それより‥‥何か、サッパリした匂いが欲しいわ‥」
「それでしたら妃殿下!妃殿下のお好きな果実水をどうぞ。」

 ベリーが背中を摩っている間に、カタリナが果実水を用意してくれたようだ。
 冷たく冷えた物はあまり良くないが、その果実水を潤す程度の少量を口に含むとオレンジの香りが鼻を抜けてサッパリする。


「はぁ‥‥‥少しいいわ‥‥でも‥‥‥」


 飲めない‥‥。


 この水分が今喉を通る気がしない。


「カタリナ、果実を少し用意しておきなさい。」
「畏まりました。」


 
 昨夜の時を惜しむ間もなく、本格的なリリィベルのつわりは訪れ、2人の道は続くのだった。
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