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メニュー3「ありがとうのお子様ランチ」
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「翔、待たせちゃってごめんね!」
七時半。いつもの通り、翔の母--高野は慌ただしく店に入ってきた。
「お母さんおかえりなさい!」
「…………翔。どうしたの、その格好」
息子のエプロン姿を見た途端、母は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる。
「お母さん、一緒にご飯食べよう!」
「まだ晩ご飯食べてなかったの?」
言葉足らずの翔の説明に、母は状況が全く掴めないようで説明を求めるように瀬野に視線を送った。
「翔くん、お母さんのためにご飯を作りたいって教えてくれたんです。だから一緒にご飯作って高野さんを待ってたんですよ」
「……そうなの?」
「うん! せのっちと一緒に頑張ったんだよ! 今日はお母さんがお客さんだから、座って待っててください!」
翔は母の手を引き、カウンター席に座らせる。
それでも母は未だに状況を飲み込めず、戸惑いがちに目を泳がせている。
「瀬野さんのご迷惑だったんじゃ……」
「俺も楽しかったですし、翔くんからきちんとお代は頂いてますから。だから今日は翔くんに任せてゆっくり休んでいてください」
「はい。お母さんお茶飲んで待っててください!」
翔は母に冷たいお茶を差し出して、にこりと微笑んだ。
こんなに楽しそうな息子を見るのは久々で。二人に説得された高野はようやく椅子に腰を落ち着けたのであった。
「じゃあ、翔くん。メインは任せたよ」
「まかせて!」
ピラフはすでに炊きあがっている。ナポリタンも高野が来るころを予測して出来上がったばかり。
後はエビフライを揚げ、メインのハンバーグを焼くだけだ。
瀬野が油を温めている隣で、翔がフライパンにハンバーグを並べ焼いていく。
真剣な表情で厨房に立つ息子の姿に、母は思わずカメラを構える。
「ちょっ……お母さん写真撮らないでよ!」
「翔が料理してるところなんて滅多に写真撮れないからいいでしょう」
恥ずかしがる息子に微笑む母。
最初は顔を隠していた翔だったが、次第にピースサインなど小さくポーズをとるようになった。
「翔くん、写真に夢中になってたらハンバーグ焦げちゃうよ」
隣に立つ瀬野がそっと耳打ちをすると、翔ははっとしてフライパンに視線を戻した。
慌ててハンバーグをひっくり返すと、少し形は崩れその表面は少しだけ色が黒く焦げてしまっていた。
「もー! お母さんが邪魔するからコゲちゃったじゃん!」
「あらら、ごめんなさいね。おとなしくしてまーす」
息子に怒られ、ようやく高野はスマホをしまった。
その後、高野は話しかけることなく静かに息子の料理姿を見守っていた。
そうしてエビフライが先に揚げ上がり、その後ハンバーグも焼き上がった。
翔は瀬野に教えてもらいながら、肉汁が残ったフライパンにソースとケチャップ、赤ワインを入れ煮詰めハンバーグソースを作る。
ワンプレートに型どったピラフを盛り、その隣に翔が作ったメインとなる大きなハンバーグを添えソースをかける。
それに添えるようにして大きなエビフライを二本と、ナポリタン。そして最後にピラフの頂上に日の丸の旗をたてれば--お子様ランチの完成だ。
「おまたせしました! お子様ランチです!」
プレートに今日のランチの残りのコーンスープを添え、翔が母の元へ料理を運んでいった。
「わあっ、すごい美味しそう! でもなんでお子様ランチにしたの?」
出来上がった料理を拍手で讃えながら母は不思議そうに首を傾げた。
「だってお母さん僕が食べてるお子様ランチいつも羨ましそうに見てたから食べたいのかなって思って!」
「それは……翔が美味しそうに食べるのを見てるのが楽しかったからよ」
「……じゃあ、お子様ランチ嫌だった?」
不安げに眉をひそめる息子に、母は大きく首を横に振って彼の頭を優しく撫でた。
「ううん。お子様ランチなんて何十年ぶりだから……実はかなりテンション上がってるの」
「本当に!」
「うん。本当!」
母の満面の笑みに、曇っていた翔の表情はぱあっと晴れやかになった。
確かに、お子様ランチは子供にしか食べられない魅力的な食べ物。作っていた瀬野自身も密かにテンションが上がってたのだ。
「冷める前に皆で食べましょうか。実は俺も楽しみにしてたんですよね、お子様ランチ」
「お母さんも、せのっちもまだまだお子さまなんだね!」
楽しそうに笑う翔に、高野と瀬野は顔を見合わせて笑いあった。
「--いただきます!」
そしてカウンターに並んだ三人前のお子様ランチを、手を合わせて皆で食べる。
子供にとっての好物はかつて子供だった大人にとっても好物で。美味しいと口々に呟きながら食べていく。
やはり母が側にいるからか、翔はいつもより饒舌で、母といられなかった時間を埋めるようにたくさんたくさん話していた。
「……あ、そうだ。これは俺から今日一日頑張った翔くんにご褒美」
食べ終えかけたところで、瀬野は思い出したように冷蔵庫からあるものを取り出した。
「ああっ! プリンだ!」
持ってきたのは三人分のプリンアラモード。やはりお子様ランチにはデザートがつきものだ。
プリンの上に生クリームを絞りその上に真っ赤なチェリーを乗せ、その周りには色とりどりの果物を添えた最強のデザート。中でも翔のものは特別で、フルーツとクリーム増量。おまけにバニラアイス付きだ。
「ありがとう、せのっち!」
「どうぞ。おかわりもあるからたくさん食べてね」
翔はさらに嬉しそうに微笑んで、口の周りにソースやクリームをつけながらいつも以上にご飯を食べた。
貸切のひなたぼっこ店内はとても賑やかで。楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった。
七時半。いつもの通り、翔の母--高野は慌ただしく店に入ってきた。
「お母さんおかえりなさい!」
「…………翔。どうしたの、その格好」
息子のエプロン姿を見た途端、母は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべる。
「お母さん、一緒にご飯食べよう!」
「まだ晩ご飯食べてなかったの?」
言葉足らずの翔の説明に、母は状況が全く掴めないようで説明を求めるように瀬野に視線を送った。
「翔くん、お母さんのためにご飯を作りたいって教えてくれたんです。だから一緒にご飯作って高野さんを待ってたんですよ」
「……そうなの?」
「うん! せのっちと一緒に頑張ったんだよ! 今日はお母さんがお客さんだから、座って待っててください!」
翔は母の手を引き、カウンター席に座らせる。
それでも母は未だに状況を飲み込めず、戸惑いがちに目を泳がせている。
「瀬野さんのご迷惑だったんじゃ……」
「俺も楽しかったですし、翔くんからきちんとお代は頂いてますから。だから今日は翔くんに任せてゆっくり休んでいてください」
「はい。お母さんお茶飲んで待っててください!」
翔は母に冷たいお茶を差し出して、にこりと微笑んだ。
こんなに楽しそうな息子を見るのは久々で。二人に説得された高野はようやく椅子に腰を落ち着けたのであった。
「じゃあ、翔くん。メインは任せたよ」
「まかせて!」
ピラフはすでに炊きあがっている。ナポリタンも高野が来るころを予測して出来上がったばかり。
後はエビフライを揚げ、メインのハンバーグを焼くだけだ。
瀬野が油を温めている隣で、翔がフライパンにハンバーグを並べ焼いていく。
真剣な表情で厨房に立つ息子の姿に、母は思わずカメラを構える。
「ちょっ……お母さん写真撮らないでよ!」
「翔が料理してるところなんて滅多に写真撮れないからいいでしょう」
恥ずかしがる息子に微笑む母。
最初は顔を隠していた翔だったが、次第にピースサインなど小さくポーズをとるようになった。
「翔くん、写真に夢中になってたらハンバーグ焦げちゃうよ」
隣に立つ瀬野がそっと耳打ちをすると、翔ははっとしてフライパンに視線を戻した。
慌ててハンバーグをひっくり返すと、少し形は崩れその表面は少しだけ色が黒く焦げてしまっていた。
「もー! お母さんが邪魔するからコゲちゃったじゃん!」
「あらら、ごめんなさいね。おとなしくしてまーす」
息子に怒られ、ようやく高野はスマホをしまった。
その後、高野は話しかけることなく静かに息子の料理姿を見守っていた。
そうしてエビフライが先に揚げ上がり、その後ハンバーグも焼き上がった。
翔は瀬野に教えてもらいながら、肉汁が残ったフライパンにソースとケチャップ、赤ワインを入れ煮詰めハンバーグソースを作る。
ワンプレートに型どったピラフを盛り、その隣に翔が作ったメインとなる大きなハンバーグを添えソースをかける。
それに添えるようにして大きなエビフライを二本と、ナポリタン。そして最後にピラフの頂上に日の丸の旗をたてれば--お子様ランチの完成だ。
「おまたせしました! お子様ランチです!」
プレートに今日のランチの残りのコーンスープを添え、翔が母の元へ料理を運んでいった。
「わあっ、すごい美味しそう! でもなんでお子様ランチにしたの?」
出来上がった料理を拍手で讃えながら母は不思議そうに首を傾げた。
「だってお母さん僕が食べてるお子様ランチいつも羨ましそうに見てたから食べたいのかなって思って!」
「それは……翔が美味しそうに食べるのを見てるのが楽しかったからよ」
「……じゃあ、お子様ランチ嫌だった?」
不安げに眉をひそめる息子に、母は大きく首を横に振って彼の頭を優しく撫でた。
「ううん。お子様ランチなんて何十年ぶりだから……実はかなりテンション上がってるの」
「本当に!」
「うん。本当!」
母の満面の笑みに、曇っていた翔の表情はぱあっと晴れやかになった。
確かに、お子様ランチは子供にしか食べられない魅力的な食べ物。作っていた瀬野自身も密かにテンションが上がってたのだ。
「冷める前に皆で食べましょうか。実は俺も楽しみにしてたんですよね、お子様ランチ」
「お母さんも、せのっちもまだまだお子さまなんだね!」
楽しそうに笑う翔に、高野と瀬野は顔を見合わせて笑いあった。
「--いただきます!」
そしてカウンターに並んだ三人前のお子様ランチを、手を合わせて皆で食べる。
子供にとっての好物はかつて子供だった大人にとっても好物で。美味しいと口々に呟きながら食べていく。
やはり母が側にいるからか、翔はいつもより饒舌で、母といられなかった時間を埋めるようにたくさんたくさん話していた。
「……あ、そうだ。これは俺から今日一日頑張った翔くんにご褒美」
食べ終えかけたところで、瀬野は思い出したように冷蔵庫からあるものを取り出した。
「ああっ! プリンだ!」
持ってきたのは三人分のプリンアラモード。やはりお子様ランチにはデザートがつきものだ。
プリンの上に生クリームを絞りその上に真っ赤なチェリーを乗せ、その周りには色とりどりの果物を添えた最強のデザート。中でも翔のものは特別で、フルーツとクリーム増量。おまけにバニラアイス付きだ。
「ありがとう、せのっち!」
「どうぞ。おかわりもあるからたくさん食べてね」
翔はさらに嬉しそうに微笑んで、口の周りにソースやクリームをつけながらいつも以上にご飯を食べた。
貸切のひなたぼっこ店内はとても賑やかで。楽しい食事の時間はあっという間に過ぎていった。
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